第357話 王様の重責とジト目の影響
「ほんでほんで!港の復興はどうよ!造船作業の進み具合とか!」
「…地方都市から職人がやってくるのが来週なので、それから進捗ペースがあがるかと…」
「ディグルム商会からの手紙は来てないか!?」
「えーと…まだみたいですね…」
「ふーむ!ならオレたちは何をしようか!」
「とりあえずは、復興できてないエリアの片付けを続けましょうか。町全体を見ると、まだまだボロボロですし」
「了解!それじゃあ作業にいこうぜ!」
「待たれよ」
「なんだい!?マガティー!」
「王たるものが作業に向かう気ですかな?承伏致しかねる」
「ははは!そんなん今更だろ!面白いこと言うな!マガティー!」
「……」
「心配なら我に続け!リューキュリア騎士団よ!」
「ははっ!!我らが王をお守りしろ!」
「はっ!」
そしてオレは、ジャンたち数十人の騎士を従えて復興作業へと向かった。
「…こんな王、見たことも聞いたこともない…なげかわしい…」
「ははは、でも、それがライの良いところじゃないですか。マガティヌス大司祭もそこに惚れたんじゃないですか?」
「……」
オレが出ていった会議室の中でサンディアたちがこんな会話をしているなんて知る由もなく、オレとリューキュリア騎士団の連中は散らばった瓦礫の撤去に勤しんだ。
ウチナシーレは国の首都というだけあって大都市だ。避難民のみんなが一応屋根のある家で暮らせるようになったとはいえ、まだまだ町全体からしたら一部しか復興できていない。
オレたちの仕事は当分無くなりそうにもなかった。
こんな調子で、昼には出勤して会議を行い、そのあとは瓦礫撤去などの肉体労働、暗くなる前には退勤という感じで王様業務をこなしていった。
家に帰ると、まだノアールは逃げていってイチャつかせてくれないし、ステラ以外はジト目を向けてくる。
そんな状況にオレは抵抗すべく、甘やかしてくれるステラにベタベタした。ステラとイチャついていれば、そのうちみんな忘れて許してくれるという算段だった。
ちなみにミリアはそんなに怒っていなかったので、ステラと一緒につまみ食いさせてもらう。とっても美味しかった。
それにしても、みんなはいつになったら許してくれるのだろう?
そう疑問に思いながら、一週間ほどの時間が経過した。
♢
-ある日の帰宅時-
「ただいまー!……あれ?」
今日は誰も出迎えてくれない。
「しゅーん…」
「あ、おかえりなさい♪ライさん♪」
オレが玄関で凹んでいると、エプロンをつけた天使が顔を出してくれた。
「ステラ!ステラちゅーしよう!」
「いいですよ♪してください♪」
腕を広げてくれるので抱きしめてキスをした。
「仕事帰りは可愛い嫁とのイチャイチャだよね!生き返るー!」
「うふふ♪そんなに喜んでくれると私も嬉しいです♪あの、もしよかったら今日も…」
「もちろんOKです!」
「期待してます♪」
ということで、さっさと夕食を済ませてステラの部屋に突撃することにした。
みんなまだジト目だし、ノアールもリリィから離れない。
ソフィアにいたっては近づくと威嚇してきた。
そんな冷たくしなくてもいいじゃないか!
オレだって頑張ってるのに!
……変態だけど……変態だけど王様として頑張ってるから!もっと優しくしてよ!
オレは、ノアールと理想の関係を築けてないことと、王様としての重責でおかしくなりかけていたのかもしれない。
謎のテンションで、すごく自分に都合の良い思考になっていた。
ガチャ
そして、その甘えた思考のまま、今日も今日とてステラの部屋に突撃する。
「ステラ!来たよ!」
こういうときは甘やかしてくれるステラに限るのだ!
「あ、いらっしゃいませ♪ご主人様♪」
「おぉ…」
ステラの部屋に入るとメイド服をきたステラが待っててくれていた。
ロングスカートのシンプルな白黒メイド服だ。
「やっぱその服よく似合ってるよ、すごく可愛い」
「ありがとうございます♪」
「あの……さっそくご馳走になってもいいでしょうか…」
オレはもじもじとしながら、愛する嫁に近づいていく。
「もちろんです♪召し上がれ♡」
「いただきます!」
♢
-翌朝-
「というか!みんな、なんでメイド服着てないんだよ!約束と違う!!」
オレはステラに散々甘えた翌日、メイド服を見て思い出した件について、みんなに問い詰めることにした。
約束では、1ヶ月はオレのメイドさんになる、ということだったはずだ。
おかしい。ノアールを迎えに行ってから、メイド服を見た覚えがない。
契約違反だ!!
「だってもう1ヶ月経ったじゃない」
「へ?」
衝撃発言をされ、オレはフリーズした。
「なんて?」
つい、聞き返す。
「だから、ソフィアさんの言う通り、もう1ヶ月経ったんだって、あ、ご馳走様、ステラさん、僕はもう出るね」
「はーい♪お粗末様でした」
クリスが食器を片付けてから仕事に出かけていく。
オレはそれを目で追ってから、呆然とした顔で隣のリリィを見た。
「嘘だよね?1ヶ月経ったなんて…」
「ライ様…それが、昨日が期日でして…」
「なんで言ってくれなかったの!?」
「ノアールがいる手前…恥ずかしくって…」
「えー?なにが恥ずかしいの?ママ?」
「えっとですね…なんというか…」
「そん…な……」
オレは下をむいてプルプルと震えた。
悲しみが溢れ出してくる、身体の底から……
「メイドハーレムが……メイドさん……」
ほろり。
「おにいちゃん…泣いちゃった…ミィは…着てもいいよ…」
「私もいつでも着ますよ♪」
「ん~、ボクは恥ずかしいかも」
「わしもごめんじゃ」
「変態」
「う…うう……」
「パパ!?パパが泣いてる!どうしたの!」
何人かにジト目を向けられ、凹んでいるオレに気づき、ノアールが駆け寄ってきてくれて、頭をよしよししてくれた。
「メイドさん……うう……」
「メイドさんがどうしたの!パパ!」
「メイドさんが…」
「ノアがパパのメイドさんになってあげるから泣かないで!」
「………お?」
別に嘘泣きでは無かった。
でも、予想外の収穫に涙がひっこむ。
そして、ワクワクしてきた。
そろそろ、ノアールともちゃんとイチャイチャしたい。
良い機会かもしれない。
いや!良い機会でしかない!
「ノアール…それは…」
ノアールとオレを交互に見たリリィが止めに入ろうとする。
しかし、止めさせはしない、この素晴らしいウェーブを!
「まぁまぉ、リリィママ、落ち着いて」
「おぬしが落ち着いてはどうじゃ?」
「……ノアール、とりあえず、今日は3人で寝ようか?そしたらパパは泣かないよ」
「ホントに?ノアが一緒に寝ればいいの?」
「うん、そうだよ。どういう意味かはママに聞いておいてね」
「うん、わかった。もう泣かない?悲しくない?」
「うん、ノアールが一緒に寝てくれたら元気になるよ」
「わかった。今日からまた一緒に寝よ?」
「ノアールは優しくなぁ…むふふ…」
「にゃ……パパのその目…」
「なにかな?」
「にゃんでもない…」
オレのスケベな笑顔でなにか察したようだ。
そうだ、ノアールはもうオレのお嫁さんなのだ。
だから、一緒に寝るのは普通のことなのだ。
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