第355話 攻略さんの思惑
「ノア幸せ…」
「オレも幸せだ」
オレとノアールは、のぼる朝日を寄り添いながら見ていた。
砂浜に設置したテントの中で、肩を寄せ合い、テントの入口から見える空を眺める。
「ノアね。パパとイチャイチャしてみたいってずっと思ってたの」
「…実はオレもなんだ…」
「えー?でも、パパ、ずっとノアのことえっちな目で見てくれなかったじゃん」
「それは我慢してたんだよ?」
「そっか…そうなんだ…えへへ、嬉しいな」
「なんかごめんな、遅くなって」
「ううん。ノアは大丈夫。だって、パパはノアを迎えに来てくれたから」
「ノアール…キスしてもいいか?」
「うん、たくさんして?」
優しくノアールにキスする。
「パパのキス、気持ちいいにゃ…」
にゃ?
ノアールは、目をハートにして、尻尾をオレの腰に巻き付けてきた。
「そんな顔したら…パパ、ノアールのこと襲っちゃうぞ?」
「襲ってほしいにゃん♡」
「……」
オレはゆっくりとノアールを押し倒した。
♢
そしてそのあと、冷静になったオレたちは、すっかり明るくなってから片付けを行い、屋敷へと戻ることにした。
帰りは、ノアールが召喚したイルカのイー君に乗せてもらって海を渡る。たまに、ザパッザパッと水飛沫がかかるし、足は海の中だけど、なんだか楽しかった。バナナボートに乗ってる感じに近いだろうか。
「おぉー、すごい。新感覚だ、風が気持ちいいね」
「ねー!」
「キュイ♪」
イー君が得意げな声で鳴く。
「そういえば、ノアールの友だちって何人絵の中から出せるの?」
「たくさん!」
「そっかぁ、たくさんかぁ」
気になるところだが、沢山いるらしいのでら今度詳しく聞くことにしよう。
間もなくして、ウチナシーレの港まで戻ってきた。船着き場の桟橋の横につけてもらい、イー君の上からおりる。
「ありがとね!イー君!」
「ありがとな!」
「キューイ!」
嬉しそうにひと鳴きしたあと、イー君はスケッチブックの中に戻っていった。
港から屋敷に歩いて戻る。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
玄関をあけると、みんなが迎えてくれる。
「あ……ママ…」
ノアールはひとりで外出したことを怒られると思ったのかしゅんとする。
「怒ったりしませんよ」
「ほんと?」
「ええ、ノアール、パパにちゃんと告白してもらいましたか?」
「…うん!ノアもね!お嫁さんにしてくれるって!」
「そうですか、よかったですね」
言いながら、ぎゅっとノアールを抱きしめるリリィ。
「でも、もうひとりでどこかに行かないでください。ママはすっごく心配でした」
「あ……うん…ごめんなさい、ママ、大好き…」
「わたしも大好きですよ、ノアール」
2人が抱き合うのを、みんなしてほんわかと眺める。
こうして、ノアールという新しいお嫁さんを家族として迎えることができたのだった。
♢
ノアールをお嫁さんにした日、オレは屋敷に戻ってからシャワーを浴びて王城に出勤した。
昨日正式に就任したばかりなので、いきなり休むわけにはいかないのだ。
ノアールとイチャイチしたい気持ちはあったが仕方がない。帰ってからイチャつこうと思う。
そして仕事中、ずっと上機嫌で業務をこなし、昨日オレに熱烈なメッセージをくれたマガティーが眉をひそめているのを無視しきって、仕事を終わらせる。
「そんじゃ!また明日もよろしく!」
元気よく片手をあげてみんなに挨拶してから、オレはルンルンで家に帰ろうとする。
スキップしながら王城を出たところで、オレはあることを思い出し、ぴたりと足を止めた。
『…攻略さん、いますか?』
『なんですか?』
『あ、お早いお返事を、ありがとうございます』
『……』
『ちょっとお話ししたいことがあって、いいですか?』
『なんですか?』
『ありがとうございます、移動しますので、しばしお待ちを』
そしてオレは、人気のない、復興が進んでいないエリアまで歩いてきた。その辺の瓦礫の上にこしかけて、改めて攻略さんに話しかける。
『お待たせしました』
『それで?』
『えっとですね、今回のノアール攻略のことなんですけど、最後のあのクソ蛇のことは、絶対に安全だと見越していたんですよね?』
『ええ、あなたなら余裕で間に合う距離でしたし』
『そうですか……でもですね、ノアールを怖がらせるようなやり方は関心できないです』
『そうですか、それで?』
『むっ…すみません、とかないんですか?』
『2人とも幸せになったからいいじゃないですか』
『……なんか気に入らないけど、まぁ、あなたはそういう人ですよね。とりあえず、その件については、オレが言いたいことを伝えたかっただけです』
『そうですか、それでは失礼します』
『いやいや!ちょっと待って!』
『はぁ…なんですか?』
『もう一個確認したかったんですが、あの変なアドバイスはなんだったんですか?』
『変なアドバイスとは?』
『あれですよ!お風呂に行けとか!トイレに行けとか!なのにキスしかするななんて!生殺しもいいところですよ!ノアールと関係ないのに!』
『関係なくありません。生殺しにするのが目的ですし』
『はい?』
『あなたが結論を決めかめていたので、性欲を暴走させてさっさと結ばせようとしたんです』
『…は?……てことはあれですか?オレがムラムラしすぎて、ノアールのことを襲うとでも思ってたんですか?』
『そうです。既成事実を作ってしまえば、あなたは〈責任を取る〉、とか言い出しますよね?』
『いや…それはそうだけど……そこじゃなくて!いくらムラムラしてたって娘のこと襲ったりしませんよ!』
『ギリギリだったくせに、なにキレてるんですか?』
『……違うもん!ギリギリじゃなかったもん!』
『まぁ、比較的我慢した方じゃないですか?変態のあなたにしては』
『変態ってなんなんですか!オレ!紳士だもん!』
『紳士、そうですか。告白されたその日にあんなむちゃくちゃ愛しておいて、紳士ですか、そうですか』
は?なにその全部見てましたよ。みたいな発言。
この人、昨晩のこと見てたってこと?
『……あの…』
『なんですか?』
『攻略さんはどこまでオレのこと観察してるんですか?』
『すべてです』
『…やめてよね!プライバシー侵害!』
『はぁ?あなたにそんなものありません。それでは、さようなら』
『ちょっと!なに勝手に!』
「あー!!!」
オレは頭を抱えて地団駄を踏んだ。
あの人のやり方も言い草もオレをバカにしてるとしか思えない!この前は好感を持ってる、みたいなこと言ってたくせに!
『ひどい!ツンデレのくせに!』
『……』
散々脳内で文句を言っても、攻略さんとそれ以上会話が成立することはなかった。
はぁ……まぁ…たしかに結果オーライだけどさ…
オレは諦めに似た気持ちで立ち上がった。
攻略さんのやり方は気に入らないけど、たしかにオレとノアールは無事に結ばれることができた。結果だけ見れば、あの人の思惑がどうであれ、素晴らしい結果だ。
……うん!こんなこと考えるのはやめよう!
帰って新しい奥さんとイチャイチャしよう!
ノアール待ってろよ!パパがすぐ帰るからな!
そう気持ちを切り替えて、能天気なオレは、屋敷に急ぐのであった。
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