第351話 父親としての責任

 戴冠式のあと、王城の豪華な居室で暗くなるまでみんなで過ごし、屋敷に戻ってきた。

 家についてからは、ステラと一緒に夕食を作って、みんなで食事を楽しむ。

 それからまた少しのんびりして、ノアールがうとうとし始めたらシャワーを浴びてベッドに寝かせることができた。


「すぅ…すぅ…」


 リリィのベッドで、オレの天使がすやすや寝ている。猫耳の間をよしよし撫でると


「うみゅう…ぱぱぁ…」


 なんて寝言を言ってくれた。かわいすぎか?


「よく寝てますね」


「うん」


 隣のリリィママと微笑みながらノアールのことを眺める。


「それでは、リビングにみんな居ますので、行きましょうか」


「そうだね。うん。行こう」


 オレたちは、ゆっくり物音を立てないように気をつけて部屋を後にした。リビングにて、ノアールをお嫁さんにしてもよいものか、みんなで話し合うために。



 リビングにつくと、パジャマを着た妻たちが出迎えてくれる。雷龍様はソファの上で猫みたいに丸まって寝ていた。


 なので、ソファの周りで話すのはやめて、みんなでダイニングテーブルの方に移動し、席につく。


「みんな、遅い時間にありがとう」


「いえいえ♪」


「それじゃ、さっそく話し合いましょうか」


「うん。お願いします」


「ノアールちゃんのことだよね?僕から見ると、キミとノアールちゃんは良い親子に見えるけど」


「だよなぁ…」


「でも、ライはノアールのことお嫁さんにしたいんだろ?」

「ピー?」


「んー…」


「おにいちゃんは…迷ってるみたいだよ…コハルちゃん…」


「そうなんだ?なにを迷ってるのさ?」


「えっとね…オレはノアールが小さい頃から知ってて、どうしても、そのときのことを思い出しちゃうんだ」


「それはわたしも同じです。ここ2年で急成長したとはいえ、わたしとライ様にとっては小さいノアールのイメージが抜けないんです」


「んー、でもそれは、女の子のノアールに対して失礼じゃないですか?あんなに頑張って修行して、魔法まで使えるようになって、ライさんのお嫁さんだって言われてすごく喜んでたのに」


「それは…そうですが…」


「でも、やっぱ、オレとリリィにとっては、ママ、パパって呼ばれてるから、娘ってイメージが強いんだよ」


 ステラの意見からリリィを擁護するのもあって、オレも同意を示す。正直なところ、どちらの言い分も理解はできているが、感情的にはリリィの意見に共感が強かった。


「でもあんた、ノアールにくっつかれて、すけべ顔になってたじゃない」


「……なんのことかな?」


「誤魔化さなくていいわよ。あんた、わたしたちに向ける顔と同じ顔してたわよ。ノアールに対して」


「……そんなこと…」


「おにいちゃん…えっちな顔…してた…よ?」


「ぐぬ……」


「まず、そこを認めたらどう?あんたはノアールを一人の女性として意識してる。それは合ってるわよね?」


「……それは…それを肯定したら父親として終わりな気がする…」


「うーん、めんどうなやつね」


「そもそも、おぬしとノアールは血は繋がっておらんじゃろう」


 オレが頭を抱えだしたら、意外な人物から後押しするような発言が飛び出した。反対するものだと思っていたのだが。


「えっと…ティナはいいの?オレとノアールがその…くっついても…」


「わしとしては少し複雑じゃが、ノアールの幸せを考えると、おぬしと結ばれるのが良いと思っておる。

 あの子の心はまだ幼い。わしたちがそばについて育てていくことを考えると、おぬしと結ばれるのがあの子のためにもなると思うのじゃ」


「なるほど…」


 育ての親とも言えるティナからお許しが出て、少し心が軽くなる。

 あとは…


「…リリィはどう思う?」


「わたしは……正直、複雑です…

 娘だと思っているノアールが自分と同じ立場に、ライ様の奥さんになるっていうのは…

 でも……なんていうか…ノアールが結婚することを想像したとき、ライ様以外の男性をイメージできなくて…

 ライ様は、ノアールが他の男性と結ばれること、耐えられますか?」


 リリィに核心をつかれ、ズキンと心に痛みが走る。

 ノアールが他の男と?そんなの…


「…いやだ」


「なら、決まりじゃない」


「そうじゃな」


「うん!それならもう決まりだよ!」


 みんな、呆れ顔と笑顔が混ざったような顔で見てくる。


「リリィもいいですね?」


「…はい。ライ様とノアールが結ばれることをお互いに望むのであれば」


「だそうじゃ。みなはもう了承した。あとはおぬし次第じゃな。どうするのじゃ?」


「……」


 オレは頭を悩ます。みんなは許してくれた。正直、ノアールのことはめちゃくちゃ可愛いと思う。でも……


「オレはやっぱり……ダメ、なんじゃないかって思う…」


「あんた」


「待ってください。ちゃんと話を聞きましょう」


 ステラがソフィアを制してくれたので、言葉を続ける。


「だって、ノアールは見た目は大きくなったけど、きっと小さい子どもだし、まだ早いよ…

 正直、女性として、そういう対象として見ちゃったこともあるけど…

 そんなのダメだ。ノアールみたいな無垢な子に、そういう性的な目を向けるのは、良くないと思う…」


「でも、ライさんは本当に我慢できるんですか?」


「……できる、と思う。

オレはノアールのことを性的な目で、見ない……ことにするよ…」


「……」


 リビングがシーンと静かになった。みんな、微妙な顔をしている。


 オレの決断は間違っているのだろうか。そう迷いが出て、よくないセリフを発してしまった。


「もし、オレが違う形でノアールと出会っていたら……」



-ノアール視点-


「うみゅう…ぱぱぁ…」


パタン


「……にゃ?」


 ノアは、何か物音を聞いて、起き上がった。


「ぱぱぁ?ままぁ?」


 パパもママもいない。いやだ、寂しい。寂しくって眠れない。2人ともどこにいるの?

 ノアは、2人を探して立ち上がった。ドアを開けて、廊下に出て階段をおりる。

  

 キョロキョロすると、リビングから明かりが漏れているのが見えた。パパたちを驚かそうと思い、こそっと扉の前に立つ。


 むふふ、パパなにしてるんだろう?わぁ!って入ったらビックリするかな?ノアは、くすくすしながら、ドアの隙間から部屋の中を覗き見た。


「―とライ様にとっては小さいノアールのイメージが抜けな―」


 ノアの話?してるの?

 

 ノアは、自分のことを話しているのに気づいて、出て行くタイミングを見失ってしまった。もっと話を聞こうと、耳をそば立てる。


「―オレとリリィにとっては、ママ、パパって呼ばれてるから―」


 ……なんの話?


 しばらく聞き耳を立てていると、パパたちがノアの話をしているのがわかった。 ノアをお嫁さんにするのかって、パパに、みんなが問い詰めている。


 パパは苦しそうな顔をしていた。


 なんでそんな顔するの?ノアのことお嫁さんにしてくれるって言ったじゃん…

 イヤなの?


 ……パパ……ノアのこと、きらいなのかな……パパ…なんで…


 パパがノアのことをキライ。そんなはずないのに、ノアは悪い方に考えてしまう。


 そして


 「オレはやっぱり……ダメ、なんじゃないかって思う…」


 …なんで、パパ…


「もし、オレが違う形でノアールと出会っていたら……」


 ……もうイヤだ…もう、聞きたくない…


 ノアは、心が締め付けられるような痛みを感じて、逃げるように外に出た。

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