第347話 娘なのかお嫁さんなのか
3日後、戴冠式の打合せが終わったオレはお休みをもらっていた。
「息抜きでもしてきてください」、とサンディアに許可をもらったので、人が少ないところに向かおうと思う。
というのも、町に出ると――
「ライのあんちゃん!来週の戴冠式楽しみにしてるよ!」
「ああ、頑張るよ」
「英雄様!それに聖女様も!これ!少ないですけどうちで取れた果物です!持っていってください!」
「えっとさ、そういうのは復興が終わって余裕ができてからにしよーぜ。気持ちだけは受け取っておくよ。すごい嬉しい。ありがとう」
「なんて慈悲深い!来週の戴冠式楽しみにしてますね!」
「ははは…」
「おまえの大切なもんはなんだー!言ってみろー!の人だ!王様になるんだよね!」
「ああ……うん、ソウダネ…」
「パパ!なにそれ!ノア気になる!」
グイグイ
「あー…うん…ソノウチ話すね…」
オレは町中を歩くと、避難民時代から一緒に過ごしてきたみんなに囲まれてしまうのだ。
王様になるのを歓迎してくれるのは嬉しいが、なかなか心休まらない。だから、人がいないところを目指している。
オレたちは家族で港にやってきた。雷龍様と聖剣様以外は、フルメンバーだ。雷龍様は屋敷で寝てて、クリスは聖剣としての仕事があると言って来れなかった。雷龍様はいいとして、クリスのやつは今日の埋め合わせしないとな、と考える。
「あの島に行くのよね?」
ソフィアが港の正面にある無人島を指さして確認してくれた。そう、今日の目的地はあの島だ。サンディアから聞いた島の名前は、ツキミ島。昔は月見祭りというのをやっていたそうだが、今は無人島になっているとのこと。
今日は、あのツキミ島が観光名所にできそうかどうか調査しにいくのも目的の一つだった。まぁ休暇ついでの調査って感じだ。
「そうだね。あの島まで行きたい。2人ともお願いできる?」
「いいわよ」
「任せるのじゃ」
ソフィアが杖を構え、ティナが精霊に語りかける。すぐにオレたち全員の身体がふわふわと浮き出した。
「じゃ、行くわよ」
「頼む」
そしてそのまま、港の正面にあるツキミ島目掛けて海の上を移動し始めた。
「海の上を歩いてるー!」
「そうだねぇ」
ノアールは足をバタバタして、歩いているようなポーズをとって楽しそうにしている。棒立ちでも魔法で勝手に動くので、ノアールはエアウォークのようになっていた。
「パパも一緒にやろうよ!」
「んー?そうだね、やってみるか」
オレもマイケルばりのエアウォークをお披露目した。ポゥ!
「パパ面白い!」
「そうだろうそうだろう」
「うふふ♪かわいいです♪」
「そうですね。愛らしいと思います」
「そうかしら、ガキ2人って感じね」
「ん?ソフィアたん?」
「……もう着くわよー」
オレがクソガキを威嚇すると、誤魔化すように到着を告げられる。
今晩お仕置きを、あ……いや…しばらくキスよりすごいことは出来ないんだったか……ぐぬぬ…。
オレは攻略さんからのアドバイスを思い出しイラムラする。こんなツラいアドバイスははじめてやで!ほんまに!
「で?なにからはじめるのよ?」
オレが自分と戦っていたらクソガキに質問される。本当はキミを今すぐお仕置きしたいところだけど、真面目な話をはじめようか。
オレたちがおり立ったツキミ島には、崩れかけの桟橋と、手入れされていない砂浜が広がっていた。
白くて綺麗な砂ではあるが、漂流物などがたくさんあって、プライベートビーチにするには結構時間をかけて清掃が必要だった。ここは港正面の砂浜なので、島の全体像を把握しておきたいところである。
「んー、今日は下見だから、作業はしなくていいよ。島を見て回って、のんびりピクニックでもしよう」
「探検だね!」
「ピー!」
「そうだね。無人島の探検ってことで」
「ミィ…森の中は怖いな…」
砂浜の前の森は、場所によっては鬱蒼としていた。なんだか聞いたことない鳥の鳴き声も聞こえてくる。
「なら、おにいちゃんと手を繋ごうな?」
「うん…」
嬉しそうにぎゅっと手を握ってくる妹についニコニコになってしまう。かわええなぁ。
「ノアもノアも!」
「もちろんだ」
オレは右手に妹、左手に猫耳美少女のロリハーレムを…いやいや!ノアールは娘だから!ハーレムとかとちゃうで!
「うふふ♪ノアールはライさんのハーレムにすぐ馴染みましたね♪」
ん?ステラさん?オレの心読んだ?
「ハーレムー?ハーレムってなにー?」
「行きますよ。ノアールさん、ミリアさん」
オレはハーレムという単語を娘に説明するのが気まずくなって、2人の手を引いて森の中に突撃する。あまり鬱蒼としていない道を選んで歩いていった。
「ねぇ!ハーレムってなにー!」
ノアールの好奇心は誤魔化せなかったようだ。
「それはですねぇ。ライさんのお嫁さんってことですよ♪」
ふむ。まぁ、それくらいの説明なら許そう。えっちなのはダメですよ。ノアールはまだ子どもなんだから。
「お嫁さん!ノアはパパのお嫁さんだよね!」
「ん?んー?」
「ねぇねぇ!ノアもパパのハーレム!だよね!!」
「あー……ノアールは、娘だよね?」
「え?……」
すっ
左手を握っていた愛娘がオレの手を離す。そして、オレから距離を取って、リリィママの腕に抱きついてしまった。
「ノアール?あれ?」
「ノアール、どうしたんですか?パパが寂しそうにしてますよ?」
「ノア、お嫁さんだもん…」
「あ…えーっと…」
しょんぼりするノアールをみて、みんなも脚を止める。
「なんだか、ごめんなさい。私のせいで…」
「いや、ステラは悪くないよ。の、ノアール?」
「……」
ノアールはリリィの後ろに隠れてこっちにきてくれない。
「えーっと……ノアールはオレの娘であって、お嫁さんとは違うだろ?」
ここにきて、オレはまた間違える。覚悟がまだ足らなかった。
「なんでそんなこと言うの……パパ、きらい……」
「ぐ……でも、ノアールだって、パパだって…」
「パパはパパだもん……ノアはパパのお嫁さんだもん…指輪だってくれたじゃん…」
ちょんちょん
後ろからソフィアに突かれる。
「ちょっと、とりあえずお嫁さんだねって言っときなさいよ」
「え、でも……」
「そうじゃ、そういうべきじゃ」
ティナまで小突いてきた。だからオレは、深く考えずに、それにのってしまう。
「そ、そうだよね……ノアールはオレのお嫁さんだ。ごめんね?変なこと言って」
「ホント?ノアはパパのお嫁さん?」
「…うん」
抵抗を覚えつつ肯定してしまう。
「えへへ……だよね!許してあげる!パパ大好き!ノアはパパのお嫁さんだもんね!」
嬉しそうにオレの左腕に戻ってきたノアールを見て、オレは心臓のあたりがチクチクするのを感じた。
こんな、こんな不誠実な態度、絶対ダメだ…
でも…どうすれば…オレはどうすればいいんだ…
ノアールは機嫌を治してくれたが、オレの脳みそと心はダメージを受けていた。オレが苦しんでいる間に、オレたちは森を抜ける。
島の反対側には、崖に囲まれた秘境のような砂浜が広がっていた。漂流物はあるけど、周りには青い海と空、白い砂浜だけが広がっていて、すごく特別感のある空間だと感じた。
「すごーい!きれー!」
「だね!ボクもいくー!」
「ピー!」
ノアールとコハルたちが海に向かって走っていく。ステラやソフィアたちもゆっくりとそれに続いた。
オレは、その様子を立ちすくんで眺める。さっきのノアールお嫁さん事件のことを考えてボーッとしていたからだ。
オレの左右に妹と清楚シスターが残って、顔を覗き込んでくれた。
「おにいちゃん?」
「ライ様?」
「…え?なに?」
「だい、じょぶ?」
「うーん…」
「ライ様、さっきのノアールとのことですが」
「ぐぬぅ…」
「えっと…ライ様はノアールのこと、どう考えてるんでしょう?」
「…わかんない…愛娘で…大好きで…」
「それは…娘として以上の感情が?」
「おにいちゃんは…ノアールちゃんのこと…お嫁さんに、したい、の?」
「うぐぐぐ……」
「おにいちゃん…こわれちゃった…」
「ライ様…」
「ねー!みんなもコッチ来なさいよー!」
ソフィアが楽しそうに呼ぶ声がする。海に足をつけてパシャパシャと遊んでいた。
「おにいちゃん…いこ?」
「……」
オレは妹に引っ張られて、フリーズ状態のまま歩いていった。
♢
「ボー……」
ビーチで体操座りしてるオレの前で、オレの美少女たちが水遊びしていた。オレのお尻の下には、ステラとリリィが引いてくれたレジャーシート。隣には、コハルが勢いよくぶっ刺したパラソルが立っている。
オレは海水浴に来た家族の荷物番をしているお父さんみたいになっていた。ノアールのことを考えると考えがまとまらなくて頭の回転が鈍っている。
オレの目の前では、みんながスカートをたくし上げて、キャッキャと水遊びしている。
いい生足だ。素晴らしい。
「ママー!えいえい!」
「あ!こら!やりましたね!」
ノアールの生足がリリィの生足に水をかける。それに復讐するリリィ生足、水が滴るノアール生足。
「わぁお……」
「それで結局のところ、ライさんはノアールのこと、どうするつもりなんですか?」
「へ?」
隣をみると、白ストッキングを脱いだステラ生足が立っていた。
「んー…」
オレは、ステラ生足に顔を近づけて考え込んだ。えっと、オレは何を質問されたんだっけ?それにしてもいい生足ですね。
「やぁん♪そんなにジロジロ見られたらドキドキしちゃいます♪」
「あ、ごめんね。隣どうぞ」
「失礼します♪」
少し身体をズラすと、レジャーシートの隣にステラが腰かけた。オレにぴったりと寄り添って頭を肩にのせてくれる。
「で、なんだっけ」
「ノアールのことですよー」
「あー……ステラはどう思う?」
「ノアールをお嫁さんにすること、ですか?」
「うん…」
「昔の小さいノアールのことを知っているので、久しぶりに再会したときは戸惑いましたけど、ノアールのことを見ていたら、お嫁さんに迎えるのがいいと思うようになりました。
だって、ライさんと離れてから、2年間も頑張って修行してたんですよ?アリアさんに頼んで冒険者になってまで。ノアールのライさんへの気持ちは本物だと思います」
「そう…だよね…」
「ライさんはなんでそんなに悩んでるんですか?」
「え?だって、ノアールは娘だから…」
「んー、でも、すごく可愛くなりましたよ?」
「それは…見た目はね…」
「心が幼すぎるのを気にしてるんですか?」
「それも、あるね…」
「なるほど〜。ん~、私はそれでも別にいいかなって思いますけど、今度みんなにも相談してみましょうか?」
「そうだね。そうしてもらえると助かるかな」
「わかりました♪みんなには私から言っておきます♪とりあえず、今はライさんも遊びましょうよ♪せっかくの休日なんですし!」
「そう、だね…そうしようか!」
オレはズボンを捲り上げてから、ステラに連れられて海に向かった。
オレがステラの生足を見てたのが気に食わなかったのか、ソフィアが思いっきり水をかけてくる。
それを合図に、みんなも遠慮なく水をかけてくるもんだから、オレはニコニコ顔で復讐を誓った。
オレは紳士だから水をかけ返すなんて大人気ないことはしないのだ。仕返しは大人な夜の時間で行わせてもらおうじゃあないか。
キミたち、今晩、覚えてろよ、ニコニコ。
『ノアール攻略まではキスしかできません』
『……』
『わかりましたね?』
『はい…』
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