第348話 攻略さんの謎のアドバイス

 ツキミ島でひとしきり遊んで、ステラが作ってくれたお弁当をみんなで食べ、またもうちょっと島を探検してから、オレたちは屋敷に戻ってきた。

 夕方に家に戻ると、仕事帰りのクリスとちょうど玄関前で出くわす。


「あ、おかえりー」


「おまえもな、お疲れー」


「うん、ありがと。ツキミ島はどうだった?」


「いいところだったよ。観光名所にできるんじゃないかな」


「へー」


「次はおまえも連れてくから」


「ん?うん、そのときはよろしく」


 オレは、クリスの素っ気ない態度に、逆に不安になる。今日、ついてこれなかったこと、気にしてるんじゃないだろうか。と。

 ちなみにオレは気にしてる。


「次は、ちゃんと連れてくからな」


「んん?もう、わかったよ。そんな、1日くらい予定が合わなかったくらいで怒ったりしないよ」


「そ、そっか」


「キミって意外と小心者だよね」


「なんだこいつ、ちょっとこい!」


 オレは、笑うみんなをスルーして、クリスを引っ張っていった。こいつにはオレの気持ちをわからせてやらないといけない。


『キス以外のことは――』


 クリスを引っ張って階段を上っていると攻略さんが茶々をいれてきた。


『わかってますって!』


 オレは、階段をのぼったところの廊下の壁にクリスを押しつける。


「なんだよ?」


 両手を押さえつけられたクリスは恨めしそうにこっちを睨んできた。やっぱりこいつはオレの気持ちがわかっていないようだ。


「おまえが仕事をしてるときだって、オレはおまえのこと忘れてなんてないぞ」


「だ、だから、わかったってば……」


 睨むのをやめないが、眉は下がり、顔が赤くなるクリス。


「今度はちゃんと連れてくからな」


「わかったよ…」


「愛してる」


「うん…」


 それからオレは、クリスに優しくキスする。クリスもなんだかんだで嬉しそうに受け入れてくれた。


「んっ……キミってさ…」


「なんだよ」


「キザだよね…」


「そうかな」


「そうだよ……ねぇ……する?」


 ムラっ!!


『ピコンピコン』


『……』


「もうご飯の時間だから…」


「そう、だよね……ならもっとキスしてほしいかも」


「もちろんだ」


 こうして、オレのフラストレーションは徐々に溜まっていくのであった。



『お風呂に行ってください』


 夕食の後、自室で寝転んでいたら変なアドバイスが飛んでくる。


『なんすか、そのアドバイス』


『いいから行ってください』


『はいはい』


ガチャ


「ん?」


 目の前には、ピンクチェックと星柄の景色が並んでいた。


「はわっ!?……おにいちゃん……」


「ちょっとライ!今入ってるよ!えっち!」


「ご!ごめん!」


バタン!


 扉を開けたら、下着姿のミリアとコハルがいたので。突然のことですごくドキドキする。


「これが……ラッキースケベというやつか……いや…」


『攻略さん?』


 この事件を起こした本人に語りかける。


『……』


『どういうつもりですか?』


『……』


 返答はない。なんなんだ一体。



-翌日、早朝-


『トイレに行ってください』


『はい?』


『いいから行きなさい』


『……』


 オレはトイレの前に到着し、その場で首を傾げる。ドアは開けない。


 いやいや、昨日の今日でそんな手にはのりませんよ。どうせ誰か入ってるんでしょ?

 オレはくるりと踵を返した。

 ふふん、オレはそんなちょろくないんだからね。


「いたっ!なにすんのよ!」


「およ?」


 下を向くとロリ魔法使いが胸板にぶつかっていた。ぶつかったおでこをおさえて、キっとオレのことを睨んでいる。


「ごめんね。よちよち」


「やめてよ!」


 撫でたら、ペチッとはたかれてしまった。


「な、なんでそんな怒ってるの…」


「べつに…怒ってないわ…」


「ならキスしてもいい?」


「いいわよ…」


 ちゅむ、はむっ

 

 な、なんだかずいぶん積極的なキスな気がする…ムラムラするじゃないか…


「おはよ、ソフィア」


「……おはよ……ねぇ…」


「なぁに?」


「……いつするのよ…」


「へ?」


「ノアールが来てから……してないじゃない…」


「それって……し、したいってこと?」


「っ!?ばかばか!いつもはそっちから言ってくるのに!なによ!ばーか!」


「ああ!そんな!」


 ソフィアが地団駄を踏んで向こうに行ってしまった。


「したいよ、オレだって……でも…」


『ノアール攻略まで、キスより特別なことは禁止です』


『……』


 なんなんだ。攻略さんは一体なにがしたい。



-翌日、夜中-


『ピコンピコン』


『ん?』


 ノアールとリリィと川の字に寝ていると、頭の中に攻略さんからの警告音が流れた。でも、緊急性の低そうな音で、オレは別の意味で警戒する。


『…なんですか?』


『キッチンに行ってください』


『…なんか嫌な予感がする』


『早く行きなさい。行かないならノアール攻略はこちらで外しておきます』


『わかりましたって!』


 オレは、ゴソゴソとベッドから抜け出す。

 一体何だって言うんだ……


「……んにゃ……パパぁ?」


 キッチンまでやってきた。中を覗き込む。


「コクコク、ふぅ〜」


 暗いキッチンの中には、ロウソクの光に照らされたステラがいた。水を飲んでいるようだ。特に、えっちな感じの展開ではなさそうだ。


「……」


「あ、ライさん♪こんばんは♪」


 見つかってしまった。逃げるのもおかしいので、近づいていく。


「こんばんは、水飲んでたの?」


「はい♪ちょっと喉かわいちゃって、ライさんも飲みますか?」


「あー、そうだね。もらおうかな」


 ステラがオレの分のコップを持ってきて、水を注いでくれる。


 隣のステラは、水色の薄手のネグリジェを着ていて、すごくセクシーだった。オレの好きなパジャマの一つだ。


 ゴクリ…

 ついジロジロと見てしまう。


「はい、どうぞ♪あら?うふふ♪」


 オレが胸元を覗き込んでいたのに気づかれ、ステラが妖艶な笑みを浮かべはじめた。


 あ、まずい…


「もしよければ、私が飲ませてあげましょうか?」


「そ、それは魅力的な提案だね」


「うふふ♡」


 ステラがコップの水を一口、口に含み、ゆっくりと両手を首に絡ませてきた。そして唇が触れる。


「こくこく、ゴクリ…」


 水が流し込まれてきてそれを飲む。美味い。なんて美味い水なんだ。甘い味がする。


「ぺろ…ちゅぱっ…」


 舌が…ステラ…


 オレはステラの肩を掴んだ。我慢できな――


「パパぁ?」


「はっ!?」


 キッチンの入り口を見ると、ノアールが目をこすりながら立っていた。


「なにしてるのぉ?寝ないのぉ?」


「おおお!オレ!なにもしてないよ!」


「あらあら、いいとこだったのに……また今度ですね♪それとも気にせずしちゃいます?」


 とんでもないことを言い出すステラ。


「また今度で!」


「うふふ♪わかりました♪期待して待ってますね♪」


「う、うん……」


 そんなこと言われたら、オレだって期待しちゃうじゃないか…


「パパぁ?」


「あ、ごめんね。一緒に戻ろっか」


「うんー…」


 ノアールは眠そうにフラフラしていた。オレはそんなノアールをお姫様抱っこして部屋に向かう。

 その間にノアールは腕の中で寝息を立ててしまった。


 ステラがノアールを覗き込みながら言う。


「そろそろ、どうするか決めたほうがいいかもですね、ノアールのこと」


「決めるって?」


「ライさんのお嫁さんにするのか、どうか、です」


「……そう、だよね…」


「だって、そうしないと、ライさんと……えっちなこと、しずらいですから♪」


「えっちなこと……」


「じゃあ、おやすみなさい♪ライさん♪」


「あ、ああ…おやすみ…」


 手を振るステラと廊下でわかれ、オレはしばらくそこに立ちつくす。オレの、ライ・ミカヅチは、さっきのキスもあいまって臨戦体制になってしまっていた。落ち着かせようと思っても、言うことを聞いてくれない。


 …どうしよう…


 ノアールをベッドに寝かせて、隣に寝転び、ノアールの寝顔を見ていてもおさまらない。それどころか、むしろ父親らしからぬ発想が出てきてしまった。


 このまま、ノアールのことを……


 いやいや!なに考えてんだ!倫理観!倫理観を持とうぜ!


 オレはノアールのことを見ないように反対側に寝返りを打って、ぎゅっと目を瞑った。

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