第346話 ウチナシーレを潤す施策

 夕方、王城から屋敷に戻ってきて、リビングで買い出しに出ていたリリィたちと話をする。

 商店街を回ったところ、一応ノアールの下着とパジャマなどは手に入ったと教えてもらった。ただ、やはり品揃えは少なくって、選ぶほど物は充実していないとのことだった。

 これは、ディグルムさんに店を出してもらって、頑張ってもらうしかないな、と考える。


「ねー、ママー……」


「なんですか?」


「やっぱりこれ、邪魔くさいよぉー…」


 ノアールがワンピースの下のブラの紐を引っ張って、渋い顔をしていた。


 グレーベースの白水玉のブラがチラリと見える。オレは即座に目を逸らした。娘の下着とか…気まずい…。


 気まずそうにしているオレのことをリリィがチラっと見てひとこと。


「…パパに嫌われますよ」


「えー?そうなのー?パパ、ノアのこと嫌いにならないよね?」


「んー……大人のレディらしくしてくれた方がパパは嬉しいかなー」


「えー?なら我慢しよーかなー…」


「ノアールは偉い子ですね」


「うー…ママはいつからブラしてたの?」


「え?それは…」


 リリィがオレのことをチラリと見る。恥ずかしいのだろうと察し、オレは頷いてからそっと席を外した。



 夕食まで少し時間ができたので、オレは自室にて攻略スキルを開いた。青白いスクリーンが空中に表示される。


「………ノアールの好感度を確認」


-----------------

ノアール

 好感度

  98/100

-----------------


「うっ……」


 オレはほろりと涙を流す。嬉しさと背徳感の二律背反に押しつぶされそうだった。


『泣くほど辛いなら、攻略対象から外しなさい』


『……いやです…』


『なら、もう覚悟を決めたらどうですか?いいじゃないですか、相思相愛なんですから』


『あなたに倫理観はないんですか……』


『あなたにだけは言われたくありません』


『ひどい……』


「ライさーん、ご飯ですよー」


「はぁーい!」


 オレは夕食のことだけを考えることにした。腹が減っては戦はできぬのだ!


『ダメ人間』


『……ツラい…』



「港の復興は進んでるか?」


「はい。港の方はだいぶ整ってきてます」


 翌朝、オレは慣れない王様業務に取り組んでいた。今日も今日とて王城の会議室にてサンディアたちと会議の日々だ。


「港は、っていうと、他に何か問題が?」


「船、ですね。かなりの船が沈んだか燃えてしまったので、港が復活しても肝心の船が足りません」


「なるほど。だとすると、ウチナシーレ名物の海産物も大量には取れないな」


「ですね。一応今の住民の分はまかなえそうですが、外に出す余裕はありません。つまり、輸出するものがあまりないので、国庫も潤わないことになります」


「なら、他の作業の優先順位を下げて、船の製造を急いでもらうかー」


「それなんですけど、造船所の職人が足りてないのでなかなか進まないんですよ」


「ふーむ……アステピリゴスから大工を派遣して貰うとか?」


「んー……あまり他国に頼りすぎるのもよくないので、まずは自国内の地方都市から募集しましょうか」


「そっか、そうだよな。あとは、なにか観光名所みたいなものがあれば、観光客が増えて国が潤うかな?」


「それはそうですが、現状、路地一つ入ればボロボロですし、お客さんを呼べるでしょうか?」


「まぁ、やってみないとわからないけど、オレがウミウシでやった手法がそのまま応用できるかと思ってる」


「というと?」


「釣りと温泉」


「また聞いたことがない単語ですね」


「説明してしんぜよう」


 オレはドヤ顔でサンディア、マガティヌスたち高官に説明する。感心した顔で聞いてくれるもんだから、つい饒舌になってしまった。


「なるほど。それで実際にウミウシが栄えたなら可能性はありますね。素晴らしいアイデアです」


「だろうだろう」


「……たまに役に立つから頭が痛い…」


「なんか言ったかい?マガティー?」


「……」


「反逆者ー!」


 さっきまで部屋の隅で大人しく座っていたノアールが立ち上がり、マガティヌスを指さしていた。すぐにリリィママがノアールをたしなめに入る。


「ノアール、静かにしてなさい。パパと約束したでしょ」


「はぁーい…」


「子連れとは……嘆かわしい…王としての自覚が…」


 マガティヌスがブツブツ文句を言い出した。


「おじいちゃん、イライラしてるの?」


 おいおいノアールさん、その状態のマガティーは触れない方がいいぞよ。


「……」


「あー!無視した!ひどい!」


「リリィ、ノアールのことお願い」


「承知しました。ほら、ノアール行きますよ」


 ノアールがリリィママに手を引かれ会議室から出ていく。


「あのおじいちゃんクビにした方がいいよ!ママもそう思うでしょ!」


 扉が閉められたら、すぐにノアールの大声が聞こえてきた。会議室に笑いが起きる。


「ノアール、大きな声を出さないようにしましょうね。もう大人なんですから」


「えー!でもー!」


 そして、声が遠ざかっていった。


「ふふ、たまにはこういう会議も和みますね」


「すまんね、みんな。で、釣り堀と温泉の件なんだけどさ」


「それですけど、建設費も人員も足りませんよ?」


「そこはディグルム商会に丸投げしようと思う。場所を用意して、利益独占していいって言えばたぶん全部やるよ」


 ディグルムには、手紙を受け取ったらなるべく早く来てと伝えてあるので、ウチナシーレに到着したら、まずその話をしようと思う。


「なるほど、それではお言葉に甘えましょうか」


「よし、観光名所としてはそんなところか?いや…あとは、海水浴場とか?せっかく海に近いんだし。こっちって海で泳ぐ文化ってあるんだっけ?」


「一応ありますが、海には魔物が出ますからねぇ」


「そうなんだ?」


「はい。なので、魔法使い同伴でないと海に入る人はいなくて、わざわざそこまでして海で遊ぼうって人は少ないんですよ。お金持ちだけですかね」


「なるほどな。なら、それを解決すれば新しい観光名所にできるってことか。どうにかできないか考えておくよ。港の湾内にある無人島とか、プライベートビーチにしたら良さそうだし」


「ああ、ツキミ島のことですか?」


「ツキミ島?あの無人島の名前そんなんだったんだ。月見となにか関係あるのか?」


「ウチナシーレの湾の形が三日月ですからね。そこからとってツキミ島だそうです。昔はあの島で月見祭りというのをしてたらしいですよ。今となっては廃れた文化ですが」


「ほー?なら、それも復活させようぜ。祭りは儲かる、らしい」


「人員が…」


「頭が痛くなるな…」


「ま、まぁ、検討はしてみましょう」


「そうだな」


 そんな感じでこの日の会議はしばらく続いた。港の復興に、造船所、観光名所の企画など、やることは山積みだ。

 ツキミ島という無人島のことも気になる。暇なときにでも探検に行ってみるとしよう。


「あ、それと、来週の頭にライの戴冠式がありますので、よろしくお願いしますね」


「あ……」


 帰り際にサンディアに言われ、オレは、「そんなんあったね」、という顔をする。


「え?国民に向けたメッセージ、考えてありますよね?」


「忘れてた……」


「……居残りをお願いできますか?陛下」

ニッコリ


「はい……」


 ということで、オレは残業に勤しむことになった。王様も大変だー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る