第345話 王様としての初仕事

 あのあと、リリィと一緒にノアールに屋敷の案内を続け、終わったところでみんなで夕食を食べた。

 そのとき、明日にでもノアールの服を買いに町に出るという話をして、ティナも同行を申し出たので、3人でお買い物しましょうか、ということになった。残念ながらオレは王様としての仕事があるのでついていけない。まぁ、町中なので大丈夫だろう。

 ただ、問題なのは、ウチナシーレは復興途中の町なので、商品があまりないかもということだ。そのあたりについても把握しておきたいので、調査がてら商店街を回ってきます、と話をして、ご馳走様をした。


 んー、商品の充実かー……そういう問題もあったな。王様として、なにか対策を考えなければと思う。すぐに思いつくのは、ガルガントナで何度もお世話になったあの商人。手紙を出しておくか。いや、手紙を出すとしても、サンディアたちに相談してからにしようと思い、自室に戻る。


 ベッドに寝転ぶとノアールが部屋に突撃してきて、「パパと一緒に寝たい!」と言ってくれたので、リリィを呼び、一緒にベッドの配置を直して、3人で寝ることにした。

 そのときノアールが、なんでベッドを縦に並べていたのか仕切りに聞いてきて、めっちゃ気まずかった。オレは適当に誤魔化していたので、ノアールはリリィに何度も質問する。リリィママも気まずそうだ。


 リリィ、すまん。と思いながら、オレは眠りについた。



「いってらっしゃーい」


「いってきまーす!」


 翌朝、商店街に向かうノアールとリリィ、ティナを玄関で見送ってから、オレも身支度を始めた。お昼くらいには王城に行くつもりだったので、ちゃんとした服に着替えようと思う。


 自室に戻る前に、ちらっとリビングを覗くと、ソファに寝転んだロリ魔法使いを発見した。足をパタパタさせながら、魔導書を読んでいて、たまにスナック菓子を手に取って食べていた。

 オレには気づいていないようだ。

 パタパタする足からは、縞パンが見え隠れする。


 ごくり……


「ねぇ、ソフィア、何読んでるの?」


 ゆっくり後ろから近づいて、落ち着いた声で話しかける。


「んー?ノアールの魔法について、調べてるのよー」


 ソフィアはオレの方を振り返らずに魔導書をめくっていた。


「へー?ところでさ」


「なによ?」


 ペロリ、オレはスカートをめくらせていただく。


「ん?なにすんのよ!へんたい!」


 すぐにアイテムボックスから杖を取り出し、殴ってこようとするクソガキ。オレはその杖を余裕の表情で受け止めた。


「ソフィアが誘ったのが悪い」


「なんのことよ!」


「おパンツ見えてたよ?」


「…し、知らないわよ!」


「だから、ソフィアが悪いよね?」


「なに言ってるのよ!あんたさっきから!ノアールが出かけたからってすぐにこんな!」


「いいから黙って…」


 抱かれろ、そう言おうとしたら、『ピコンピコン』、脳内に攻略さんからの警告音が流れる。


んん?


 ボリュームは小さめだからそこまで緊急性はなさそうに聞こえるが、オレはすぐに目をつむった。


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ノアールを攻略するまで、キスまでしかしないでください。

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「……」


 唐突な攻略さんのアドバイスにゲンナリする。テンションだだ下がりだ。オレはたぶん、しなしなになっていたと思う。


「ど、どうしたっていうのよ…」


「ごめんね。へんたいで…」


「え?……べつに…」


「キスだけしてもいい?可愛いソフィアとキスしたいんだ…」


「…いいけど…」


ちゅ


「へんたいでごめん…ありがとう…」


 オレはソフィアにお礼だけ言って、とぼとぼと自室へと帰ることにした。着替えて仕事でもして忘れよう……はぁ…ゲンナリだ…。


「え?…あっ……なによ、べつに…したって良かったんだから…」


 テンションが氷点下になったオレは、後ろで、ツンデレがデレていることを知るよしもなかった。



-ウチナシーレ 王城 会議室-


「――以上が、ライ殿が留守中に起きたことだ」


「なるほど。まぁ、特に大きな問題はないな」


「そうだな」


 オレは、王城の会議室にて、マガティヌスより報告を受けていた。留守中、特に問題は起きてなくて安心する。


「ところで、市場の商品って品数はどうなんだ?十分な商品は揃っているのか?」


「市場ですか?今は、食糧を優先的に地方都市から取り寄せているので、娯楽品はほとんど出回ってないと思いますが」


「衣料品とかは?」


「数は出てないかと。この前、見て回った感じですと、中古品が多かったですね」


「なるほどねー、やっぱそうだよね」


「何か気になることでも?」


「ん?いや、今日、ノアールたちが町に出て服を買うって言ってたから気になって。それに、ある程度欲しいものが充実してた方がみんなのゆとりになるかもと思って」


「なるほど、それはそうですが、今は余裕がある民が少ないので、需要は低いかもですね」


「んー、そこは補助金みたいなものを国から出すとか?」


「補助金とは?」


「国から国民への支援金かな。1人いくらずつとか配って、好きなもの買っていいですよ、みたいな。きっとみんな喜ぶよ」


「ふむ……素晴らしいアイデアだとは思いますが…」


「ライ殿は、国庫の厳しさを理解してないようだな」


 言いよどむサンディアに代わって、マガティヌスがビシっと発言してくれる。


「ならオレのポケットマネーで」


「それは論外だ。王になったからには、もうその手は使わせん。王というのは、国の資金を工面してこそだ。身銭を切るなど、あってはならない」


「なるほど、そういうものかぁー」


「当たり前だ」


「ですが、マガティヌス大司祭、補助金という考えは覚えておいてもいいかと思います。今後、民の幸福度を上げる、良い施策かと」


「……そうだな。それは聞き入れよう。すぐに実現できるかは別だがな」


「ありがとう。検討の方、頼むよ」


「……」


「あ、それとさ、もし良かったら知り合いの商人にウチナシーレへの出店を勧めてもいいかな?」


「商人に知り合いが?」


「ああ、ガルガントナのディグルム商店ってとこなんだけど、かなり大きい商店だし、物の充実につながるかと思って」


「どこかで聞いた覚えがある商店ですね。わかりました。土地は余ってるので、店舗の場所は用意しましょう」


「ありがとう。出来れば商人がやる気を出すような一等地を頼む」


「承知しました」


「じゃあ、ディグルムにはオレから手紙を出しておくから」


「待たれよ」


 よし、会議は終わりかな、と席を立ちあがったらマガティヌスに厳しい顔で呼び止められた。


「な、なんすか?」


「王として、書状を出すべきだ」


「え、でも、知り合いだし」


「貴殿は王としての自覚を持つべきだな」


「はい…わかりました…」


「ふふ、それでは陛下、書状の書き方を教えますのでこちらへ」


「おまえは陛下って呼ぶな」


「はいはい」


 ということで、リューキュリア教国国王としてのはじめての書状は、ディグルムへの出店依頼となった。

 同時に、アステピリゴスのルーナシア陛下にも手紙を出しておく。国王になったことと、これから国交を開きたいという申し出をしたためる。


 こうして、オレは、王様っぽい仕事を無事やり遂げることができた。まぁ、いつも通りと言えばそうなのだが、王様になると決めてからは初めての仕事だったので実は少し緊張していたのだ。

 でも、こいつらとだったら、上手くやっていける気がする。オレは、たしかな手ごたえを感じていた。

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