第337話 黒髪ロングパッツン猫耳美少女

 それから、ドラゴン航空による空の旅は続き、数度の食事休憩と睡眠休憩を挟んで目的地まで近づいてきた。


 ウチナシーレを出てから2日目の夜、真っ暗な空の上から懐かしい景色が見えるようになってきた。

 目線の先には、町の明かり、ウミウシだ。


「あそこなのじゃ!」


 ティナがテンション高めに指をさす。


「わかっておる、クソエルフ」


「はやく降りるのじゃ!」


「まぁまぁ、ちょっと待ってね、ティナ、このまま着陸したら大騒ぎになるよ?」


「認識阻害魔法を使うから大丈夫じゃ!」


 ティナが片手を掲げると透明な膜が雷龍様ごとオレたちを囲っていった。


 オレが嫁たちとホニャホニャするときに使っていた魔法の特大版だ。そう思うと、なんだかムラムラしてくる。いやいや、今はそういうときじゃない。


 オレがムラムラと戦っていると、巨大な透明膜は雷龍様をすっぽりと囲い終わった。


「ほれゆけ!雷龍!!……さま!」


 そして、雷龍様の背中をペチペチと叩くティナ。


「……このクソエルフ、我への敬いが足りておらぬのではないか?」


「気のせいですよ、ティナは雷龍様がカッコよすぎてテンション上がってるだけですから」


「そうなのだ?」


「そうですよー(棒」


「なら、よいのだが……とりあえず降りるか。我、腹減った」


 そして、雷龍様は、バサバサと翼を羽ばたかせながら、真っ直ぐに降下をはじめた。


 徐々にウミウシの町が大きくなっていく。


 今の時間は夕食時なので、民家の灯りが灯っていて、町全体の形が確認できた。


 ノアールが働いているカイリの店もクロノス教の孤児院の子どもたちが働いている旅館も灯りが灯っている。

 みんなに会うのが楽しみだ。


 そして、雷龍様が港に着陸した。


 本日は、ドラゴン航空をご利用いただき、ありがとうございました、なんて、オレは頭の中でアナウンスを行っていた。


 キョロキョロと周りを確認する。周りには誰もいない、夜の港はすごく静かだった。


 みんなで背中から降りて、雷龍様がポンっと人間に変身する。


 オレが作った釣り堀の方を見ると、ノアールが描いたであろう、魚釣りの看板が新設されていて、楽しそうに釣りをしている家族が描かれていた。

 それを見て、元気にしてるんだな、と笑顔になる。


「我!腹減った!」


「そうですね、じゃあさっそくカイリの店に行ってみましょうか」


「ステラの弟子の店だな!楽しみなのだ!」


 オレたちは腹ぺこドラゴンを従えて、カイリのお店を目指す。ま、目の前なんだけどね。


 オレたちは、港のすぐ近くにあるカイリの店まで歩いていって、オレが先頭に立って店の中を覗いた。


 店の中は満席だった。店内はワイワイと賑わっていて、トトとキッカが忙しそうに料理を運んでいってるのを見つけることができた。

 2人とも、ずいぶん大きくなった。元気に育ってくれていて良かったと思い、少しウルっとくる。


 カイリとユーカは厨房だろうか?


 それに、ノアールも見当たらない。


「入らぬのか?」


「うーん、満席なので……」


「でも、クソエルフは入っていったぞ?」


「え?」


「ただいまなのじゃ!」


 店内を見ると、ティナがニコニコと入店済みであった。大きく両手を上げて、わしがココにおるぞとアピールしている。


 突然の大声の来客に、お客さんたちはポカンとして、店内は静まり返った。


「ティナおねぇちゃん!」


 静寂を破り、トトが最初に気づく。


「おじちゃん!これ3番テーブル!」


「え?ああいいけど……」


 トトは近くのおじさんにお盆を押しつけてティナのもとにかけてきた。


「ティナおねえちゃんだ!」


 キッカもティナに気づいて、その辺の机にお盆を置いて駆け寄ってきた。


「あれ?キッカ?おっちゃん、これ頼んでないけど……」


「おぉ!よしよし!トト!キッカ!ういやつよのう!」


 お客さんたちのことガン無視して、3人は抱き合った。

 ティナは2人のことを抱きしめて満面の笑み、というかほにゃほにゃのふにゃふにゃになっていた。


「これはまずいな……オレたちでフォローしよう」


「うふふ♪そうですね♪」

「参りましょう」


 オレはみんなに目配せしてから店の中に入った。


「すみません、うちの子たちが、これ3番テーブルですよね?」


 オレは、さっきトトがお盆を押し付けた男性のところに行って、お盆を受け取る。


「ん?おう、あれ?あんちゃんってトトちゃんたちの?」


「はい、保護者的な存在です。お預かりします」


 キッカのお盆の先にはリリィが向かってくれる。


「お預かり致します」


 ペコリと上品に頭を下げてから、お盆を持ち上げ、

「ビールと焼き魚定食のお客様ー!」

 と声を出してくれた。


「では、私は厨房に♪」


「お願い!」


「我のメシは!?」


「とりあえず、おねえちゃんは2階に行ってて、ソフィアお願いします」


「わかったわ、こっちよ」


 ソフィアの案内に従って、他のメンバーは建物の反対側の入り口に回ってもらうことにした。

 とりあえず、店内のことは3人で回して、他のメンバーは2階の居住スペースで待っててもらうことにしよう。


「ただいまです♪」


「ステラねぇちゃん!?」


「わぁー!おかえりなさい!」


 厨房からカイリとユーカの驚く声が聞こえてきた。なんだか嬉しくて、自然と笑顔になる。


 ところで、ノアールはどこにいるのかな?かな?

 と、オレはそわそわしながら周りを見る。店内にはいなそうだけど、どこにいるんだろう?


 ノアールのことを気にしながら、10分くらい働いていると、お店の入り口から知らない美少女が大きな袋を持って入ってきた。


「カイリにぃ!食材買ってきたよ!」


 そう言いながら、黒いロングヘアーをなびかせて厨房に走っていく。


「おう!ありがと!そこ置いといて!」


「うん!すぐホールやるから!」


「頼む!」


 あの子は誰だろう?新しく従業員でも雇ったのだろうか?

 まぁ、この混雑具合だし、仕方ないか。


 そして、厨房から、さっきの美少女が再び姿をあらわし、出会い頭にリリィとぶつかりそうになる。


「あ、ごめんなさい。オーダー入ります」


「……ママ?」


「え?あの??」


「ママ!!」


 黒髪ロングの美少女がリリィに抱きつく。


「えっと??」


 リリィは不思議そうな顔で首を傾げている。


 黒髪の美少女は力一杯リリィに抱きついているが、リリィはどうしたものかと両手を上に上げていた。


 ママ?ママだって?

 その子のことをよく見る。


 頭には猫耳、お尻には黒い尻尾、黒髪ロングのパッツンヘアーだ。

 どこかで聞いたことがある特徴だ。


 でも、オレが知ってる女の子とは、大きく違うところがあった。

 身長だ。

 オレの記憶の中では、ティナよりも小さかったはずなのに、今はソフィアくらいの背丈になっている。


「も、もしかして……あの……ライ様……」


 リリィが美少女の背中を抱いて、よしよししながら、オレの方を見た。


「パパ?」


 リリィの言葉を聞いて、黒髪猫耳美少女もこっちを見る。


「パパ!」


 リリィに抱き着いていた美少女が、今度はオレに向かって突進してきた。


 その子は目から涙を流していて、でもすごく嬉しそうな顔で、オレはとっさに受け止め抱きしめる。

 勢いをころすように、くるりと一回転して、その子の顔を見た。


「パパ!おかえりなさい!」


「ただいま、ノアール」


 オレの娘は、オレの超どストライクな美少女に成長していた。

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