第338話 猫耳美少女に愛され過ぎて…

「はい♡パパ♡あーん♡」


「…あーん……もぐもぐ…」


「美味しい?」


「うん。美味しいよ。ありがとう」


「えへへ♡次はなに食べたい?」


「ノアールにお任せしようかな」


「はぁい♡」


 オレは、膝の上に座るノアールに夕食を食べさせてもらっていた。猫耳美少女がうっとりした顔をしながら至近距離にいてドギマギする。


 それにお姫様抱っこみたいな体勢で、尻尾がオレの腰に巻き付いて離そうとしない状況もなんとも悩ましいことだ。ノアールの小さいお尻がオレの膝の上でぷにぷにと……。

 いかんいかん!この子はノアール!この子はノアール!オレの娘なんだ!いくら可愛いからってそういうのはダメだ!


 オレは必死に自分と戦っていた。


 カイリの店でノアールと再会したオレたちは、一旦ノアールを落ち着かせてから、お店の閉店時間まで働いた。店を閉めた後は、2階の居住スペースに移動し、リビングにてカイリの手料理をご馳走になっているところだった。


「…なぁ」

ジト目のクリスが話しかけてくる。


「なにかな?」


「僕が聞いた話だと、ノアールちゃんはキミの娘同然って話だったよな?」


「ソウダヨ…」


「それに、これくらいの小さい女の子だって」

クリスがノアールの身長をジェスチャーで表現していると、


「ノア小さくない!」

シャー!

ノアールが大きな声でクリスを威嚇してしまった。


「あ、ごめんね。ライから聞いてた話だと、そうだったからさ。今は立派な女の子だもんね。謝罪するよ」


「…いいよ、許してあげる」


「ありがとう」


「はい!パパ!お魚だよ!」


「あ、うん。ありがと…」


 ノアールがオレに向き直り、再びお箸をオレの口に運んでくれる。嬉しいと言えば嬉しい。久しぶりの再会だし、こんなに可愛い娘に接待されるのは父親冥利に尽きるだろう。

 でも、問題は……ノアールがオレ好みの美少女すぎるということ。


「えへへ/// パパ大好き♡」


「う、うん……オレも大好きだよ…」


 うっとり顔のノアールのことをもう一度確認する。


 髪の毛は、前世で馴染み深い黒髪だ。その黒髪を腰あたりまで伸ばしていて、綺麗に真横に切り揃えている。

 前髪も同じ切り方で、いわゆるパッツン切りというやつだった。日本人らしいというか、巫女さんみたいな感じで黒髪によく似合う髪型だと思う。


 2年前は、オレの腰くらいまでしかなかった身長は、びっくりするくらい伸びていて、体感2倍サイズになっていた。今となってはソフィアと同じくらい、頭の猫耳の分を入れれば、ソフィアより背が高いことになる。


 そうそう、ノアールといえば猫耳だ。ノアールの猫耳は、外側は黒い毛並みに覆われていて、内側は白い。猫らしい尻尾も基本は黒で、先端の方だけ少し白い部分がある。


 髪の色もあいまって、黒猫が擬人化したような女の子だ。


 顔は……うん。すごく可愛い……

 

 以前は、子どもらしい丸々とした輪郭だったのが、成長したことにより顎がシュッとしている。まん丸の目に、長いまつ毛、オレのことをうっとりと見つめる、その顔はメスのそれであった。


 ……いやいや!何言ってんだオレ!?


 とにかくだ、文句のつけるところがない美少女ということだ。そんなノアールは、大きくなったのに、服装は昔とあまり変わっていない。

 

 黒のシンプルなワンピースに、くるぶしに巻き付くようなデザインのサンダルを履いている。

 半袖のワンピースには、少しだけフリルがついているので女の子らしいのだが、肩紐が片方ズレていて、ポロリしそうなほど防御力が低い。


「ノアール、脱げちゃいますよ?女の子なんですから、もっと気をつけないと」


「はぁーい」


 さっきから隣のリリィに肩紐を何度も直してもらっている。


 そして、その無防備ワンピースから覗くお胸には……なぜかブラをつけていない小ぶりなお胸がチラチラと……


 いや、見てないよ?ちゃんと目はそらしてるよ?でも、チラチラ見えるんだもん。オレは悪くない。悪くないんだ。


 …ごくり


 ノアールは無自覚なのか、さっきからポロリをオレに見せようとしているのではないかと思うほど無防備だ。目のやり場に困るのでどうにかしてほしい。あとでリリィにそれとなく伝えておくか。


 ノアールにブラを頼む、と。


 …変態親父と思われるだろうか?

 リリィに引かれた顔をされるのを想像して、冷や汗が流れる。


「どうかしたの?パパ?」


 ノアールがオレの顔に近づき覗き込んでくる。近い近い!ただでさえ膝の上で密着してるのに!


「ううん……なんでもないよ。ノアールかわいくなったなー、と思って」


「ホント!?えへへ!嬉しいな!最近ね!町のみんなもノアは可愛い可愛いって言ってくれるの!

でもね!パパに可愛いって言われるのが1番嬉しいな!」


「そう?」


「うん!」


「そ、そっか…へへ……」


 美少女からの甘いセリフに、オレはつい、ニヤけてしまう。


「あんた…」


「あっ…」


 ソフィアが、ティナが、リリィが、オレのことを見ていた。

 おまえ、まさか自分の娘まで?そんな顔だ。


 いやいや!違うんです!と思うが、今反論すると逆に怪しいのはわかっていた。だからオレは、真顔に戻って、動揺しないように意識して、ノアールの接待を受け続けることにした。



「パパぁ…むにゃむにゃ…」


 翌朝、なんだか顔のあたりがむずむずして目が覚めた。


 昨晩は夕食のあと、みんなのジト目をスルーしてオレは屋根裏部屋で眠りについたのだ、1人で。


「パパぁ♡大好き♡」


…オレは、1人で寝てたはずだ…


「ペロペロ♡」


「はっ!?」


目を開ける。ノアールがオレに抱きついて、ほっぺたをペロペロと舐めていた。


「の、ノアール!?」


「あ、おはよぉ♪パーパ♪」


「な!?ななな!?なにしてるの!?痛てっ!?」


オレは、ずざざっと後ろに下がり、屋根裏の低い天井に頭をぶつける。


「えー?一緒に寝てただけだよ?」


 目の前には、なんにも着てないすっぽんぽんのノアールがいた。

 あらまぁ、女の子らしい身体になってからに……ちがう!!


「なんで服着てないの!?」


「だって暑いんだもん」


「せ!せめて服を着なさい!」


「えー?」


「ライさーん。ご飯ですよー。あ……」


「あ…」


ステラが階段から頭を出し、オレたちのことを交互に見る。


「あー……」


 さすがのステラも「うふふ♪お邪魔しちゃいましたね♪ごゆっくり♪」とは言わない。なんとも言えない顔をしている。

 そりゃあそうだろう。ステラは、小さいころのノアールを知ってるから。うん。気持ちはわかる。オレも同じ気持ちだ。


「これは!違うんだ!!」


オレは、朝から必死に言い訳するはめになってしまった。

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