第334話 ノアールのことを家族に説明しよう

 ウミウシへの外出について、サンディアたちの了承は取り付けてきたので、次は家族に事情を説明することにした。


 屋敷のリビングにメイドたちを集めて、真面目な話をしようとする。


 集まってきたメイドさんたちのことを眺めていると、うん、今日もみんな可愛いなぁ、と自然と顔がニヤけそうになる。


 最後に、ミリアが小走りで走ってきて、ぽかへいを抱っこしてポフっとソファに腰かけた。フリフリのメイドスカートがふわっと持ち上がり、その中が見えそうになる。


 むらっ……ふるふる。


 いかんいかん、これから話すことは真面目な話題だ。オレは雑念を振り払い、顔をキリッと作ってから話し始めた。


「みんなに集まってもらったのは、話しておきたいことがあるからだ」


「また僕たちに変なことさせる気か?」


 オレが真面目な空気を作ったというのに、クリスのやつがイヤそうな顔を向けてきた。


「ん?それはして欲しいって意味か?」


「ちがうが?」


「とりあえず、おまえは黙ってろよ、あとでお仕置きしてやる」


「くっ、最悪だ……」


「うふふ♪クリスさんもこっち側だったんですね♪」


「え?ステラさん何言ってるの?」


「いえべつに♪」


 そのやり取りはなんですか?2人ともオレにお仕置きされるのが大好きってことですか?最高ですね、あとでしてあげますよ?


 いかんいかん、ちがう、今は真面目な話だ。


「んん!でね、みんなに話しておきたいことなんだけど、ノアールを迎えに行こうと思ってるんだ」


「ノアールじゃと?あのノアールのことを言うておるのか?」


「うん、ウミウシにいるオレたちの家族のノアール」


「そうか!それは名案じゃな!わしは賛成じゃ!」


 ティナは、話をよく聞かない段階で嬉々として賛成する。

 よっぽどノアールに会いたかったらしい。


「えーっと、ボクは、そのノアールちゃん?に会ったことなんだけど、ティナと仲良しの子なんだっけ?」


「おにいちゃんが…たまに…意識共有で話してる子…だよね?」


「そうだね、コハルとミリア、それにクリスは会ったことない子だから、ノアールのこと、ちゃんと説明するよ」


 そして、オレは3人に説明をはじめた。


 ノアールと4人の子どもたちがティナと同様に奴隷に落とされていて、それを助けたこと。

 子どもたちと数ヶ月一緒に過ごしたことで、ノアールは、特にオレとリリィに懐いてくれて、パパ、ママと慕ってくれていること。

 ノアールは今はウミウシのレストランで働いてるが、強くなってオレについて行きたいと言っていたこと。


 そして、最近モンスターと戦い出して、心配だから迎えに行くことを決心したこと。


 これらを順番に話した。


「なるほど、そういうことなら早く迎えに行ったほうがいいね。子どもは無茶するもんだから」


「だよな、それが心配で心配で」


 クリスが何か思い当たることがあるような顔で賛成してくれる。昔話を聞く限り、こいつもやんちゃだったみたいだから、共感するところがあるのかもしれない。


「で、そのノアールちゃんにはもう迎えに行くって伝えてあるの?」


「うん、昨日伝えた」


「ではすぐ行くのじゃ!アルテミスがまた飛んでくれるといいのじゃが!とにかくすぐ出発しようなのじゃ!」


「ティナ、落ち着いて、今回はなんと馬車の旅ではないのです」


 オレは、別に自分の功績でもないのに、立ち上がり得意げな顔をしてみんなの注目を集める。


「なんじゃと?」


「なんとなんとですね~、雷龍様、どうぞ」


 オレが声をかけると、雷龍様が走ってきて、リビングの机の上に飛び乗って高々と宣言した。


「我が連れて行ってやるのだ!」


 ドーン!


 腰に手を当て、尊大な態度を取るドラゴン幼女。


「ははぁー!ありがたき幸せー!」


 オレはすぐに膝をつく。


「……」


 メイドたちは呆然とその光景を眺めていた。


「む?ライ!おまえの話ではあのクソエルフも泣いて喜ぶと言ってたではないか!

なんだあの顔!」


 ティナの方を見ると、めっちゃ眉をひそめていた。


 このアホドラゴンに本気で頼る気なのか?

 そう言いたげな顔で、オレを見て目で訴えかけてくる。


「ティナ、雷龍様に乗せて行ってもらえば2日で着くらしいよ?馬車だと、ノア-ルたちに会えるのは2ヵ月後だ。わかるよね?」


「……」


 オレの言葉を聞いて、ぐぬぬ、という顔をする。

 そして、


「雷龍…さま…よろしくお願いしますなのじゃ…」


 ティナがオレの隣にやってきて、同じように膝をついた。


「わはは!ついに屈服したか!クソエルフ!おまえも我の眷属にしてやってもよいぞ!そこそこ強そうだしな!」


「……屈辱じゃ」


「静かにしてなさい、うまくいってるんだから」


「……」


 ぽそりとつぶやくティナに、オレも小声で注意しておいた。せっかく雷龍様がノリノリなんだから、この流れを壊したくないのだ。


「我に連れて行ってもらいたいやつは膝をつけ!がはは!」


 オレがみんなに目配せすると、ほとんどのメイドたちは、大人しくそれに従ってくれる。


 テーブルの上に立つ雷龍様の前に、オレたちは集まってきて、膝をつき頭を下げた。

 褐色幼女の前に跪くメイド集団と成人男性。はたから見れば怪しげな集団でしかない。


「がはは!良い気分なのだ!ライとその妾どもを服従させた気分なのだ!」


 なんだこの邪竜は……


「ん?ステラ!おまえも膝をつけ!」


 ステラの方を見ると、腕を組んで不遜な顔をして立っていた。

 唯一、跪いていないメイドがそこにいた。


「いやよ」


「なんでだ!?」


「おねえちゃんに膝をつく理由がないわ」


「じゃあ乗せてやらん!」


「じゃあご飯作ってあげない」


「いやだ!」


「なら乗せて」


「わがった!」


「ピー?」

 ふるふる。


 マスコットたちよ、不思議そうに首を傾げるのをやめてくれ。


 オレは、ピーちゃんとぽかへいを呼び寄せて、頭を撫でつつ黙らせることにした。


 とりあえず、これで家族全員でウミウシに向かうことができそうだ。

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