第333話 国外への外出許可を求めて

「王になるのを4ヶ月延期させてほしい?ダメに決まっておろうが、バカタレが」


「そんな……マガティー……もっと優しくしてよ……」


「……」


 ノアールを迎えに行くと決めたオレは、さっそくジャンたちにそのことを相談に来ていた。


 ジャンは不在とのことだったので、王城の中を彷徨って見つけたマガティーこと、マガティヌスに話しかけたのだが、今しがた一蹴されてしまったところだ。隣に、困り顔で笑っているサンディアもいる。


「まぁまぁ、マガティヌス大司祭、まずはライの事情を聞きましょうよ。ライ、その4ヶ月で何をする気なんですか?」


「もしゃもしゃ」


「……ところで、ライ……なんで雷龍様が一緒に?」


 オレの隣には雷龍様がお供していて、骨付き肉にかじりついている。一人で屋敷を出たところ、なぜかついてきたのだ。お散歩でもしたかったのかな。


「さぁ?知らんよ、気まぐれじゃね?」

 と小声で答えておく。


「そうですか……それで、なんのための延期なんですか?」


「ウミウシって町に残してきた娘、まぁ血は繋がってないだけど、娘だと思ってる子がいてさ、その子を迎えに行きたい」


「なるほど、ウミウシといえばグランアレス自由国の町でしたっけ?」


「そうそう、さすがサンディアくん、物知りだね」


「……で、なぜこのタイミングでその子を迎えに行く必要があるんでしょう?」


「オレの娘、ノアールっていうんだけど、ノアールは、今はウミウシのレストランで働いていて、2年くらい前に別れたんだけど、そのとき約束したんだ。強くなったら冒険に連れてくって」


「で、その子が強くなったと?」


「うん、聞いた限りだと、初級のモンスターを倒せるようにはなったらしい。オレとしては、オレの知らないところでモンスターと戦うなんて危ないまねして欲しくないし、王様としてウチナシーレに住むのなら、子連れでもいいかと思って」


「ふむふむ、つまり、冒険者業に見切りをつけてくれたってことでいいですか?」


「え?……いや、そういうことじゃないけど……」


 たしかに、サンディアが言う通り、オレがノアールを連れてこようと決心できたのは、王様になったからだ。

 冒険者のままだったら、危険な旅に連れ回すことを躊躇っていただろう。無意識にでも、少しずつ考え方が変わってきたのかもしれない。


「とにかくだ、オレはその子を迎えにいきたい。ウミウシに行くには馬車だと2ヶ月くらいかかるだろうし、往復で4ヶ月は欲しい」


「なるほど、事情はわかりました。ここからウミウシですといくつか山脈もありますし、それくらいはかかりそうですよね。ライの性格上、誰かに依頼して連れてきてもらうっていうのは嫌なんですよね?」


「絶対やだ、大切な人は自分で迎えに行きたい。もし人に任せて、道中何かあったら、オレは気が狂う自信がある」


「まぁ、ライならそう言うと思いましたが……困りましたね……王がそんな長い間、不在にするのは……」


「やっぱ難しいかな……」


「当たり前だろう、愚か者」


「マガティーひどい……」


「……」


「むしゃ、もう無くなってしまったのだ……ところでおまえたち」


 骨付き肉を骨ごと平らげた雷龍様が話しかけてくる。


「なんですか?雷龍様」


「ウミウシに行きたいのか?」


「そうですね」


「なんで2ヶ月もかかるのだ?」


「え?馬車で行けばそれくらいは……」


「我なら2日でいけるぞ!」


 ドン!腰に手を当てて、そりかえりながら自慢げなポーズをとる幼女。


「はぁ〜、そうなんですね~、それはすごい」


 オレは、突然どうした?、という思いで適当に答える。


「む?なんだか気のない返事だな。せっかく我が連れて行ってやろうと言ってるのに

なんかムカつくのだ。じゃあな、我、ステラにメシもらってくる」


「ん?んん??ちょ!ちょちょ、ちょっと待って!」


 部屋を出て行こうとする雷龍様を、オレはあわてて呼び止めた。


「なんだ?我、腹減った」


「えっとえっと……これだ!」


 ドーン!


 オレはアイテムボックスから、万が一のとき用にステラから受け取っていたクッキーの束を取り出し、暴食ドラゴンに献上する。


 お皿盛り盛りに盛られたクッキーを会議机の上に置くと、雷龍様は目を輝かせて、近寄ってきてくれた。


「おお!ステラのおやつか!食べてよいのか!」


「どーぞどーぞ」


 嬉しそうに食べ出す雷龍様。


「もしゃもしゃ!美味い!」


 ちょろいぜ。


「えーっと、それで雷龍様」


「もしゃ?」


「雷龍様がウミウシに連れて行ってくれるというのは、竜の姿になって、オレを背中に乗っけて、連れて行ってくれるってことでしょうか?」


「うむ!」


 マジかよ……なんていいドラゴンなんだ……


「ありがとうございます。では、お礼になにか……」


「ウミウシのステラの弟子とかいう小僧のメシが食いたい!」


 なるほど、やはり食欲だったか。


 ステラから聞いたのかな?と、カイリの料理のことを思い出す。

 たしかに、ステラ仕込みだからすごく美味しいし、海産物は珍しいから雷龍様も満足してくれる気がする。


 ウチナシーレでは、まだ漁が再開できてないし、海の幸は物珍しさもあるだろう。


 正直、ドラゴンへの献上品としてはコスパが良すぎる。


 この暴食ドラゴンが食べ過ぎた分は、ウミウシから帰る前にオレのポケットマネーで補充するば良いことだし、問題ないだろう。


「わかりました、ではよろしくお願いします」


「うむ!任せろ!」


「ちょっとライ!勝手に決めないでくださいよ!」


 オレと雷龍様のやりとりを聞いて、サンディアがキレ気味に割り込んできた。


「ん?なに怒ってんだ?2日でいけるんだし、行って帰ってくるのに1週間もかからないぞ?」


「だからといって、あなたはもう王様なんですよ!国外に出るのをそんなに簡単に決められては困ります!」


「うー……頭が痛い……」


「ライ?ちょっと!聞いてんのか!」


「じゃあ、おまえもついてこいよ」


「そういうことじゃねーって言ってんだ!」


「なんだこいつ」


「こっちのセリフだ!」


「マガティー、なんとかして」


「……」


 ギャーギャー騒ぐサンディアと無視を決め込むマガティヌス。


 結局、聖剣のクリスも同行するし、1週間くらいなら大丈夫だろうって話でまとまった。


 そもそも、オレだってそれなりに強いつもりだし、ウミウシはモンスターが出る場所が近くにない、平和な町に行くくらい大丈夫だろう。


 ココからウミウシまでの道中は、最強ドラゴンの背の上だし、どこよりも安全だ。


 そう説明したら、

「一応考えてたんだ、バカそうな顔してた癖に」

 とか言ってきたから、サンディアのバカを羽交締めにしてひとしきり悲鳴を聞いて溜飲を下げた。


 別れ際に、

「王になったことはまだ誰にも言わないでくださいよ……」

 と釘を刺され、

「了解〜」っと手を振ってその場を後にしたのだった。

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