第327話 王様になる条件

「屋敷はどうでしたかな!我らが王よ!」


「……あー、おかげさまで快適です」


 屋敷をもらった翌日、オレたちは王城に呼ばれて、家族全員でそこに来ていた。


 首里城とか中国の皇帝が住んでそうな外観の城に案内され、会議室のような場所に通されていた。

 室内には、ジャンや、サンディア、マガティヌスなんかの高官がいて、オレのことをジッと見ている。


 なんか嫌な予感がした。


「満足していただけたようで!それは良かった!あれは王のために!わざわざ!避難民のみなが汗水垂らして用意をしましたからな!

 あー!準備したかいがあったなー!」


「……」


 なんだその恩着せがましい言い方は、とツッコミたいところだが受け取った当人がそうは言えない。オレは、黙って話の成り行きを観察した。


すると、


「と!いうことで!この書類にサインを!」


 ジャンから紙切れを渡される。

 その紙にはこう書いてあった。


---------------------------------------------------------------------------

契約書

 私、ライ・ミカヅチはリューキュリア教国の王様になります

             サインはここ⇒__________________

---------------------------------------------------------------------------


「……」


 ビリビリビリ。


 オレは無言でそれを破り、机にそっとおく。


「なんとご無体な!?」


「はぁ……やはり冒険者なんて野蛮人には王など無理なのだ……」


 オレの蛮行を見たジャンは驚愕していて、マガティヌスは心底嫌そうな顔をしていた。


「おい、サンディア、話が違うではないか……」


 ジャンのやつが、こそこそとサンディアに話しかけていた。

 やはりあいつの入れ知恵だったか。


「団長、ここは私にお任せを。

 んん!そうですか、ライは、みんなの好意を無下にするんですね」


「ぐぬ……」


 笑顔のサンディアが話しかけてくる。


「町がこんなに大変なときに、一生懸命働いて、あんなに豪華な屋敷をプレゼントしたのになー。作業員のみんなの気持ちが浮かばれないなー」


「ぐぬぬ……」


「実は、私も一緒に屋敷の掃除をしたんですが、みんな口を揃えてこう言っていましたよ。

 〈ここにあの英雄ライ様が住むのか!そりゃあ頑張らないと!〉、ウチナシーレに住むってことは!あの人ついに王様になってくれるのか!やった!今日は祝杯だな!〉、〈私!ライ様みたいな強い王様がいいと思ってたの!それにカッコよくて優しいところも素敵!〉。

 まだまだありますよ」


「わかった、もういい……」


 サンディアが女口調になったところで、キモくなり静止させる。


「……家に帰ってから、家族と相談します……」


「そうですか、前向きな答えを期待しています。それとティナさん、これを」


「うむ」


「ん?」


 サンディアが、さっきのふざけた契約書のコピーをティナに渡していた。


「説得お願い致します」


「任せるのじゃ」


「なっ!?」


 敵は身内にあり!そういうことなのか!?



-ウチナシーレ 屋敷 リビング-


「ほれ、サインせい」


「……ブルータス、おまえもか……」


「おぬしは何を言っておるのじゃ?」


「……なんで、ティナはサンディアに懐柔されてるの?」


「わしはただ、この国の王にはおぬしが相応しいと思っただけじゃ。おぬしはみなに好かれておる。もうよいではないか?ほれ、サインせい」


「……」


 なんだか、妙に優し気な笑顔を向けてくるロリBBAエルフに違和感を覚える。

 笑顔はカワイイけど、どこか白々しい。


「んー?そういえば、ティナ、この前ショウくんに連れられて孤児の子たちと遊んでましたよね?そこで、子どもたちにお願いでもされたんじゃないですか?」


「……ティナさん?」


「……」


 目を逸らすティナ。


「その子どもたち、サンディアに懐いてたわよ」


「あのやろう!なんてやつだ!子どもを使ってオレのティナを懐柔しただと!?許せん!」


「まぁまぁ、落ち着くのじゃ。そんなそんな、わしじゃって、子どもに頼まれたからと言って、愛する夫を売らんのじゃ」


「……だよねー?」


「ほれ、サイン」

 ニコニコ。


「なんかやだ!」


「むー、めんどうなやつじゃのう……みなも何か言ってくれぬか?実際問題、この国には強くて優しい王が必要じゃ。こやつでいいと思うがのう」


「そんな適当に……王様は選挙とか、王族とかから選ぶべきなんじゃ……みんなの故郷だってそうだっただろ?」


 オレは、助けを求めて嫁たちの顔見る。


「魔法使いの国では、他薦が多かった数人から、魔法の技量をみんなで審査して決めるわね」


「わしの国は血筋重視じゃな」


「エルネスタも血筋だった気がします」


「アステピリゴスは治癒魔法に長けた人格者、ですね」


「じゃあ!同じ宗教国家のリューキュリアもそうであるべきだ!オレ治癒魔法使えない!オレボウケンシャ!」


「リューキュリアの場合、信仰心が強くて、大司祭まで上り詰めた人の中から選挙するって言ってなかったっけ?」

 とクリス。

 ナイスアシストだぜ!


「なら選挙しようぜ!」


「おにいちゃん…それだと結局…おにいちゃんに…なるよ?」


「ん?……いやいや、ははは……ミリア?オレ大司祭じゃないよ?」


「ライ様、ライ様はみんなに好かれてるんです。もし、リューキュリアのしきたりに則って選挙をしようと言っても、大司祭の地位を無理やり与えられて、選挙になってライ様が選ばれると思います。つまり、ミリアの言う通りになるかと」


「そんなばなな……八方塞がりじゃん…逃げたい…」


「逃げるのはカッコ悪いよ」

「ピー」


「でも、冒険できなくなるよ?」


「じゃあ、3食冒険付きを条件にしたら?」


「コハルたん、また適当なこと言って」


「もう!めんどくさいわね!いいからとっとと決めなさいよ!なるの!?ならないの!?」


「ソフィアたん…ひどい…」


 みんなにジッと見られる。

 そんなに注目されると、なんかオレが悪者みたいじゃないか……


「……キミがリューキュリアの王様になったら……僕はアステピリゴスの大使として、気軽に会いに来れるかもね…」


「クリス、おまえ……」


「い、今のは忘れてもいいよ!」


「ぐぬぬ……」


 オレは最後の一押しを押されてしまった。愛する嫁に。


 クリスにそんなことを言われたら、いつまでもうだうだ言ってるわけにはいかない。


「なっても、いいよ……王様……」


「やっと観念したか、ほれサイン」


「でも、条件がある……」


「なによ?早く言いなさいよ、どうせしょうもないことでしょうけど」


 はぁやれやれ、みたいなポーズをとるクソガキ。


 オレはそれを見て、手加減は必要ないと決心した。


「みんなが、1ヶ月、オレのメイドになってくれるならいいよ」


「はぁ?あんた何言ってんの?」


 ぎろり。

 オレは、オレが本気だということをわからせるためにソフィアをジッと見た。


「……わたしはパス、ティナ、お願いね」


「わしは……し、仕方ないのう…」


「だめだ、全員が了承しないならやらない。一応言っとくけど、1ヶ月、メイド服を着てる間は一切反抗を認めないから。オレがキミたちのことを好き放題にするんだからね。あ、もちろん屋敷の中で家族しかいないときだけね。あ、雷龍様は例外ね」


 オレは早口でまくし立てる。

 よし、これでこの契約に隙はないはずだ。


 嫁たちの回答を待つ。


「……ミィは…いいよ…おにいちゃんのメイドさんになっても…」


 はい、素晴らしい。


「わたしも、ライ様に身を捧げた身です……大丈夫です…」


「私はもちろんおっけーです♪好きにしてください♪」


 ほほほ、従順でいいね!

 まぁこの3人は予想通りの反応だ。


「コハルは?」


「ぼ、ボク?メイドってなにするのさ?」


「メイド服を着て、オレにえっちなことをされる」


「……へんたい」


「そうだよ?いいよね?」


「……なんかやだな」


 珍しく抵抗を見せるコハル。

 ほむ?あとに回すか。


「ティナはいいよね?懐柔されたんだし、言い出しっぺだし」


「……わしは……よし!覚悟を決めたのじゃ!好きにするがよい!」


 おっほ。


「クリス」


「いやだが?」


「だけど、オレが王様になったら、おまえとも気軽に会えるんだが?」


「……わかった、がんばる…」


「かわいいじゃん」


「うっさい…」


 はいおっけ、次。


「ソフィア」


「いや」


「拒否しても、2人っきりのときにメイド服着せて愛してやる」


「着ないわ」


「ソフィアたんのメイド服が見たい、絶対可愛いから」


「……」


「はぁ……着てくれないのか……生きるのが辛い……」


「ウソくさいわね」


「そんなことない、ソフィアのためにオーダーメイドしたメイド服があるんだ。実はずっと隠してたんだけど、ソフィアのことだけを考えて、可愛いソフィアのことを想像しながら、可愛いだろうな、可愛いだろうなって期待を膨らませて作ってもらったんだ。

 ……そっか……着てくれないのか……ツライな……」


「……そこまで言うなら」


 お。


「メイド服着てくれる?」


「ちょっとくらいなら…」


「ちょろいのじゃ」

「しー」

 ティナの声を遮る。


「可愛いメイドソフィアになってくれる?」


「……いいわよ」


 ちょろかわー!ひゃっはー!


「あとはコハルだけ!1人だけ反対とかカッコ悪いなー!」


「む!ボクカッコ悪くない!」


「ならメイドになってよ!」


「なってやるさ!ボクはかっこいいからね!」


「だな!コハルはカッコいい!」


「ピー?」

 ふるふる。


 ピーちゃんが首を傾げていて、隣のぽかへいが首を振っている。


 マスコットたちよ、なにか言いたいのかね?


 とにもかくにも、オレのメイドハーレムが実現することになった。


 さっそく一人ずつ、特注のメイド服を渡していく。


 おほー!早く見たい!気になる!

 でも、明日からにするか!


 あえて一晩我慢して!明日たっぷりと!

 それにメイド期間は1ヶ月もあるんだし!

 サイコーかよ!


 オレはウキウキ気分のまま、その日は眠りについた。


 この睡眠は英気を養う、ある意味そう言うことなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る