第326話 屋根のある暮らし

 みんなで協力しながら復興作業をはじめてから2ヶ月くらいの月日が経った。


 ウチナシーレの町全体を直すにはまだまだ時間がかかりそうだが、ある一区画の整備はだいぶ進んだと思う。

 ある一区画というのは、比較的被害が少なかったエリアで、復興を進めやすいと判断した場所だった。その判断は正しかったようで、ついに人が住めるくらいまでのレベルになってきたと思う。


 あとは、この区画から正門までの通行ルートを整備すれば、少しずつ移住をはじめてもいいと考えていた。


「正門までの道も、少し手を入れれば安全に通行できそうだな」


 オレは、復興が進んだ区画から正門まで歩いてきて、隣を歩くジャンやサンディア、マガティヌスに話しかける。


「そうですな!」


「これなら、あと数日でみんなを住まわせることができそうですね」


「だな、そういえば、住居の権利関係は大丈夫なのか?あとから、ココは俺の家だ!とか揉めると大変だぞ?」


「そこは問題ない。……貴殿の助言通り、住宅に関しては仮の権利書という形で発行することにした。町の復興が進み次第、元の持ち主に戻すか、難しければそのまま住んでもらう予定だ」


「なるほど、さすが大司祭、仕事ができる」


「……」


 マガティヌスには相変わらず嫌われているみたいで、オレが声をかけるとムスっとしているが、オレの言葉はちゃんと聞いてくれてたようだ。


「とにかく、もともとこの町に住んでいた人には、最低限、屋根のあるところで暮らしてもらいたいと思ってる、身元確認とかは?」


「ああ、司祭が使える真偽判定魔法を使い、ウチナシーレの住民だと確認できた者だけを復興エリアに住まわせることにする」


「てことは、やっぱりいたのか?」


「ああ、いつの間にか入り込んでいた浮浪者がいた」


「なるほど……」


 オレは懸念していたことが的中し、複雑な気持ちになる。


 避難民たちは1000人近くいるのだ。

 その中に、ウチナシーレ出身じゃないものも混ざり込んでいるかもしれない。そう思ってマガティヌスに話しておいたのだが、的中してしまったらしい。


「じゃあ、そいつらのことは、犯罪歴がなくてこれからも働く気があるなら、別区画に仮住居を与えてやってくれ、その後のことは働き具合によって考えよう」


「承知した。しかし、本当に追い出さなくてよいのか?」


「んー……もともとウチナシーレの郊外には貧民街があったんだろ?」


「……そうだな」


「じゃあ、そいつらも国民なんじゃないか?」


「しかし……いや、王の言葉に従おう……」


「王じゃない。たとえ浮浪者であってもさ、一緒に逃げて協力してきたんだろ?チャンスは平等に与えられるべきだ。ダメそうだったらそのときに追放すればいい」


「承知」


「あと、貧民街なんてものが生まれる政治は許さない。そこはみんなで考えよう」


「なんだかんだ王様やってますねぇ、ライは」


 オレが真面目な話をしているというのに、サンディアのやつが茶化してくる。


「やってない、だまれ」


「はいはい」


「ははは!我らが王は素晴らしい王になるぞ!」


「ああー!もう!あとは任せたからな!」


 オレは、オレのことをからかうやつらに背を向けて、愛する妻たちの元にかえることにした。


 あんまりからかうと相談に乗ってあげないんだからね!



-1週間後-


 避難民たちの町への移住が完了した。


 正門付近にあったテントたちは、すっかり姿を消していて、そこに広がる草原を見ると少し寂しさも感じることができる。


 目標にしてきたことがやっと達成できたときの幸せな、どこか喪失感のような寂しさだろうか。


「やっとココまで来たかー」


 オレは、草原を眺めながら、しみじみと言う。


「まだまだ、これからですよ」


「サンディアくんは真面目だねー」


「ライには言われたくないです」


「そうかなー」


「そうですよ」


「じゃ、観念して屋敷に住んでください、我らが王」


「おまえまでそれを言うのか、我らが王じゃない」


「……真面目な話、私はライに王になって欲しい」


「……」


「あなたの考え方、特に他人を思いやる気持ちに惚れてるんです、私は」


「やめろ、キモい」


「真面目な話です、キモがるな」


「はぁ……オレは自分勝手な人間だ。他人のことに興味はない」


「そうは思えませんね」


「世界の裏側がどうなってたって構わない。戦争があっても助けになんていかない」


「でも、顔を知ってる人がそこにいたなら、助けにいきそうなもんですけどね」


「……」


「否定しないところが素晴らしいです」


「だまれ」


「はいはい」


「オレは自分勝手な人間だ」


「はいはい」


「それに自己中だ」


「はいはい」


 オレは、はいはいしか言わなくなったサンディアと一緒にウチナシーレの町の中に戻っていった。


 こいつは、オレのことを全然わかっていない。

 オレに王様なんて務まらない。勘違いも甚だしいもんだ。



「おぉ〜、立派な屋敷だ……ホントにいいのかな?」


 オレたちは、家族全員でウチナシーレの港近くにある屋敷に訪れていた。


 ジャンたちに、ココに住め、と言われて鍵を渡された屋敷だ。


 ウチナシーレの建物は、白壁にオレンジっぽい屋根の家が多く、この屋敷も同じ特徴を持っていた。


 外観だけを見ると、海辺のリゾートホテルみたいな様相で、居住用というよりも別荘みたいな印象を受ける。


 庭に植えられたヤシの木がより一層リゾート感を演出していた。


「とりあえず中に入りましょ」


「そうだね」


 オレはソフィアに促されて、ドアノブに鍵を差し込んだ。玄関を開け、屋敷の中に入る。


「広っ」

 つい、そう呟いた。


 中に入ると、広いロビーが迎えてくれて、そこには、南国っぽい観葉植物と、小さな噴水が設置されていた。水瓶を持った天使がコポコポと水を発射している。


 室内は、白い床に、白い壁、木目の高い天井で、まさにリゾートホテルのような雰囲気だった。

 噴水の向こうには大きな階段がある。普通の家にはない無駄に横幅が広い階段だ。


「これは……豪華すぎないか?」


「これくらいならよいのではないか?王様なのじゃしのう」


「……いやいや」


「せっかくくれるって言うんだし、貰っときなさいよ」


「うーん?」


「ボク探検してくる!」

「ピー!」


 オレが悩んでいると、好奇心を我慢できなくなったコハルがピーちゃんを頭に乗っけて走りだした。


「コハルちゃん…まって…ミィもいく…」


「いいよ!一緒に行こ!」


 コハルがUターンしてきて、ミリアの手をとってまた走っていった。ぽかへいもトコトコとそれに続く。


「あ、コハル、ミリアまで……まぁいいか、うん、せっかくもらったんだしね。ありがたく受け取ろう。また王宮に住めとか言われるのもイヤだし」


 オレは、2人が嬉しそうに屋敷を探索する様子を見て、ありがたく頂戴しようと決めた。

 オレたちだけ贅沢なのは申し訳ない気もするが、せっかくみんなが用意してくれた屋敷なのだ。その好意を受け取ろう。


 妻たちも喜んでくれてるようだし、うん。


「こちらのお屋敷、レウキクロスの屋敷と同じくらいの大きさでしょうか?」


「うーん、むしろ、あそこより大きいような気もするけど」


「キッチンが広いって聞いてますので、私はそっちを見てきますね♪」


「うん、わかった、いってらっしゃい」


「ステラ!我のメシを作れ!」


 ステラの後ろに雷龍様が続く、今日も食欲にしか興味がないようだ。


「じゃあ、オレたちは一緒に見て回る?」


「お供いたします」

「いいわよ」

「ついてくのじゃ」


「とりあえず、それぞれの個室をどこにするか決めよっか」


 オレが階段の方に向かおうとすると、


「ホントに僕もいいの?」


「ん?」


 クリスのやつが謎の確認をしてくる。


「だって、僕は聖剣としてウチナシーレに派遣されてるわけでさ……屋敷に住むのはなんか違うような……」


「何言ってんだ?聖剣とかうんぬん以前に、おまえはオレの嫁だろ?」


「そ、それはそうだけど」


「だから問題ない、おまえはココに住め」


「……命令すんな」


「なんだこいつ」

「キミこそなんだ」


「はいはい、うっとうしいわね、行くわよ」


「むっ」


 今日も口が悪いソフィアたんであった。


 鬱陶しいと言われた復讐に、階段をのぼるときにスカートの中のぞいてやろうかな、と思う。


「おぬし……」


「なにもしてないよ?」


 オレが姿勢を低くしようとした途端、隣のエルフにジト目を向けられた。

 ちっ、勘のいいエルフだぜ。


「ははは」


 オレは笑って誤魔化しながら、5人一緒に2階の探索をすることにした。



「わぁー!久しぶりのベッドね!」


 ボフッ。


 ソフィアが個室に入ってベッドを見つけると嬉しそうにそこに飛び込んだ。


「ソフィア、お行儀が悪いですよ」


「えー?はぁーい……」


 案の定、リリィお姉ちゃんに怒られたソフィアがむすっとしてベッドの上に座る。ペタンと女の子座りをしていて可愛らしい。

 その隣のベッドの縁にリリィも腰掛けて、ソフィアとお話を始めていた。


 美少女2人がオレの前でベッドの上に。


「ふーむ」


 つい、顎に手をもっていき、考え込むようなポーズを取ってしまった。


 ベッドの上に美少女が2人、そしてその2人はオレのお嫁さんで……


「おぬし、なにを考えておるのじゃ」


「え?わかってて聞いてる?もちろんあのベッドの使い道だよ。ティナはえっちだね」


 オレは早口で回答する。


「……」


「なに言ってるんだキミ?さすがに引くよ」


 黙るティナと、引き顔のクリス。


「ん?おまえこそ素直になれよ。この前みたいにわからせてやろうか?」


「うぇぇ…」


 心底イヤそうな顔をしてくるクリス、素直じゃないやつだ。


「……なんかムラムラしてきた」


 オレは、この数ヶ月、テント生活で満足に嫁たちを抱けなかったことを思い出す。


 ベッドと、個室というプライベート空間を目の当たりにして、脳みそがそっちに向かって走り出した。


 だって、ここなら誰の目も気にせず、嫁たちを愛せるのだから。


「したい」


「ダメじゃ」

「ダメに決まってるだろ、まだ昼だぞ?」


「めんどくさいなぁ……」


「おい」

「おぬし…」


 オレは、ロリエルフと聖剣女をスルーして、ベッドの方に向かう。


 ソフィアとリリィがベッドに座り、仲良さそうに話している。


 オレは2人に近づき、肩にそっと手をのせた。


「ライ様?」

「……なによ?」


 そのまま、ゆっくりと押し倒す。2人に抵抗はない。


「可愛い2人としたい」


「ライ様…」

「だめ…」


「お願いします、ツラいんだ、2人が可愛すぎて」


「……」

「……」


「それにベッドに座って誘惑なんてするから、これはリリィとソフィアのせいでもある……気もする」


「誘惑なんてしてないわ、えっち…」


「ツラい…リリィ助けてほしい…」


「わたしは…大丈夫です…はむっ…」


 オレは同意を聞いた途端にリリィにむしゃぶりついた。


「リリィはいつ食べても美味しいね。ソフィアは?ソフィアも食べたいな」


「……いいよ…んむっ…」


 こっちも堪能する。


 このあと、後ろに突っ立ってた2人が混ざりにくるのに、そんなに時間はかからなかった。


 へへへ、屋敷もらってよかったなぁ。

 ホントによかった。

 幸せだ。



 4人を満喫したあと、屋敷を探検してたコハルとミリアを探しにいき、見つけたらすぐに襲いかかり、そこにステラを呼び寄せて愛を確かめ合った。コンプリートである。


 素晴らしい運動を行った後、新しいキッチンでステラが料理を作ってくれて、みんなで夕食を食べてから、それぞれの個室に解散することになった。


 こんな豪華な屋敷をもらって、ついさっきまで恐縮していたはずなのに、今となっては快適すぎて、手放すことなんて微塵も考えていなかった。現金な男である。


 とりあえず、明日からはジャンたちにもう少し優しくしてやろう、と思うオレなのであった。

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