第324話 現状を受け入れた後の行動
「ねむい……」
昨晩、次の攻略対象がノアールだとわかったオレは、あまり眠れない夜を過ごして次の日を迎えていた。
おかげで作業が始まる時間になっても頭がシャキッとしていなかった。作業員のみんなが正門から町の中に入っていくところをあくびをしながら眺めている。
「ライ様?大丈夫ですか?昨晩はあまり眠れなかったんですか?」
オレの様子を見て、隣の天使が心配そうにのぞき込んでくれた。
「あーうん、なんだか寝付けなくってね」
「そうなんですか……では、ライ様は今日は休んでてください!わたしがライ様の分も頑張ります!」
むん!
リリィが両手をあげ、力こぶをつくるようなポーズをとる。だけど、華奢なリリィには全然似合わないポーズだった。
笑うよりも、その愛おしさに目を奪われる。
「……リリィはかわいいなぁ…」
「そんな……ありがとうございます……」
オレが眠たげな頭のまま、まじまじと言ったもんだから、リリィは恥ずかしそうに腕をおろし、もじもじとしてしまった。
「こんな可愛いリリィに力仕事を任せるわけにはいかないな。よし!気合入れてがんばるか!」
オレは、自分の頬をパンパンと叩いて、作業道具を持ち上げた。
「だ、大丈夫です!わたしがんばれます!」
しかし、リリィは食い下がってオレの道具を奪おうとしてくる。もちろん、リリィの力ではオレから道具を奪うことなんてできない。
「いやいや」
「任せてください!」
「そんなそんな」
オレは、一生懸命オレから道具を取ろうとしているリリィが可愛くって、ニコニコとその様子を眺めていた。
すると、
「はいはい、イチャついてないで行くわよ。あと、みんなが笑ってるわよー」
と、ソフィアが呆れ顔で指摘しながら、横を通り過ぎていく。
周りを見ると、作業員のみんなが、オレたちのことをニヤニヤ見ながら歩いていた。
オレとリリィのやり取りがバカップルのそれで、こそばゆかったようだ。
「あー……オレたちも行こっか」
「はい……」
周りの目に気づき、リリィも恥ずかしそうにしてしまう。
なんとも気まずい空気になったが、今日も今日とて復興作業の始まりだ。
オレはそっとリリィの手を取り、
「別に恥ずかしくないんだよ、だってリリィはオレの奥さんなんだから。あとさっきのリリィ、すごく可愛かった。気を遣ってくれてありがとう。いつも優しいリリィが大好きだよ」
と甘いセリフを小声でつぶやいてから歩き出す。
隣を歩くリリィは、赤くなって下を向いている。オレの清楚シスターは、いつまでも初々しくて、今日も最高であった。
♢
そんなこんなで、ウチナシーレの復興作業をすること1週間、オレたちは、黙々とガレキを町の外に運び出し、次に木材や石材などを搬入していった。
町のところどころでは、大工や土木屋によって建物が修復され始めている。
そんな様子を横目に、オレたち家族は正門で、ジャンや作業員たちと話し合いをしていた。
議題は、ウチナシーレの正門を元通りに直すのか、もっと強固な門に作り替えるのか、だ。
「この門さ、もっと頑丈なものにできないかな?」
「ほう?といいますと、どういったものでしょう?我らが王よ」
「……とりあえず、あのクソオークがまた来ても破壊されないような門にしたいよね」
「たしかにそうですな、我らが王よ」
「……じゃ、騎士団長であるあんたがどんな門にするのか考えといてくれよな」
「な!?それは荷が重いです!我らが!」
「王王!うるせー!!」
「はははは」
「ふふふ」
オレは割と本気でキレてるのに、みんなには全然伝わらない。困ったものだ。
そのあと、作業員や妻たちが笑っているのを無視して、司祭や魔法使いたちの知識を借りて正門の構造について詰めていった。
どうせなら、物理防御力だけじゃなくて、魔法防御力も高い門にしたいと考えたからだ。
♢
-数日後-
復興作業が始まる前の明け方のことだった。
「雷龍様…ちょっと…いい…ですか?」
「ん?なんだ?精霊使いの女よ」
珍しいことにミリアが雷龍様に話しかけていた。
この2人が話しているところなんて見た覚えがなくて、新鮮な気持ちになる。
「ショウくんが…あ、この子が…雷龍様に…お礼がしたいって…言ってて…」
ミリアがショウの手を引いて、雷龍様の前に差し出す。
その後ろには、ステラとティナもいた。ショウが雷龍様に失礼を働いたとき、なだめるためだろうか。
「なんだ!クソガキ!」
雷龍様は、なぜか急に不機嫌そうな顔になった。弱い人間が嫌いなのかもしれない。
でも、そんな雷龍様のことを気にすることなく、ショウはゆっくりと口を開いた。
「あの……かあちゃんのこと、天国に送ってくれて……ありがとう、ございました」
ペコリ。
そういって、頭を下げた。
オレはそれを見て涙が出そうになる。
小学生になったばかりくらいの小さい男の子が、すごく頑張って絞り出した言葉だと思ったからだ。
みんなもくるものがあったようで、うるうるとしている。ティナなんてもう、ほぼ泣いていた。
「良い心掛けだ!人間のガキ!貴様の謝礼を受け取ってやろう!」
このドラゴンには人の心はないんか?
あ、ドラゴンだったか。
「……僕、雷龍様みたいに強くなりたいです。どうすればなれますか?」
「なんだと?おまえなんかには無理だ!諦めろ!」
心は……
「僕もカッコいいドラゴンになりたいです!」
「なんだと!……がはは!面白いクソガキだな!どれ!我の血を飲ませて!」
「やめなさい」
ビシッ。
上機嫌になった雷龍様の頭をチョップするステラ。
マジで怖いもの知らずだな、とオレは震える。
「なにするのだ!スケベ女!」
「だれがスケベ女よ!ご飯作ってあげないわよ!」
「ふざけるな!そんなことしたらこの町滅ぼしてやる!」
「最悪!邪竜ね!討伐されないかしら!」
「誰が邪竜だ!ぶっ殺す!」
「雷龍様はカッコいいよ!」
「ほら!我はカッコいいのだ!クソガキもこういってるのだ!このスケベ女!」
「ステラお姉ちゃんは綺麗だよ!ケンカしないで!」
「なんだこのクソガキ!我に逆らう気か!食うぞ!」
「ぼ、ぼぼ、僕おいしくないよ!」
「どっちが子どもかわからんのじゃ……」
さっきまでうるうるしていたティナが、呆れ顔で3人の言い合いに茶々をいれる。
「なんだこのクソエルフ!」
「はいはい、なのじゃ……」
「まぁまぁ雷龍様、落ち着いて」
オレは雷龍様の後ろにまわり、肩を揉み揉みする。
そんなオレの方を振り返って雷龍様はギャーギャーと騒ぎ続ける。
「ライ!貴様の嫁が我を敬わぬぞ!しっかり躾けておけ!」
「はい、申し訳ございませんでした(棒」
オレは適当に褐色幼女の肩を揉みながら、大人しくなるまで接待し続けた。
まったく、すごい力があるのに子どもっぽいこのドラゴンには困ったものだ。
いや、そんなことよりも、ショウのことだ。あいつは、母親を失ったことを理解してツラい中、すごく頑張って現状を受け入れ、雷龍様にお礼まで言った。偉い子だと思う。
オレは、雷龍様の接待が終わったあと、ショウのもとに向かい、たくさん褒めて、存分に甘やかすことにした。
ショウのやつはなんだかよくわかってない様子だったが、肩車してやって、お菓子を渡してやると、嬉しそうにしてくれた。
そのあと、今日のショウの雄姿について、ジャンとリョク、ユウのやつにもこっそり報告し、褒めてやるように伝えておいた。
きっと、あいつらもショウのことをたくさん褒めてくれるだろう。
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