第323話 攻略対象はまさかのあの子で!?

 ノアールに人探しを手伝ってもらった翌日、オレは、昨日と同じ昼休憩のタイミングで、ノアールに意識共有で呼びかけた。


『もしもしノアール?』


『もしもーし!えへへ、毎日パパとお電話できてノア嬉しいな……』


 今日もオレの娘はめちゃくちゃ可愛かった。なので、オレもついついニコニコしながら甘々なセリフを口走る。


『うん、ノアールは今日も可愛いね。オレもノアールとお話しできて嬉しいよ』


『ホントに!?あのね、ノアね……ほんとはもっとパパとお電話したかったの……でもね……あんまりお電話すると迷惑かなって……』


『そうなの?』


『うん……』


 ノアールたちとお別れしてからもう2年近くは経っていたと思う。今までのことを振り返ってみると、ノアールとの電話は週に1回程度だった気がする。


 そっか、ちょっと少なかったのかな、と反省した。


『寂しい思いさせてごめんな。これからはもうちょっと電話の回数増やそうか』


『ほんとに!?やったー!』


『あはは、そんなに喜んでくれるとは、パパは幸せ者だな』


『だってノアはパパが大好きだから!あ!今日も人探しだよね!ノアがんばる!』


『ありがとう。それじゃあ、さっそくお願いしようかな。えーっと、今日探して欲しいところは……』


 オレは目を瞑って攻略スキルのマップを確認した。


 およ?


 その人物は、なんとウミウシにオレたちが建てた旅館にいるようだった。


 旅人なのか?と考える。


 でも、昨日、港には町の人しかいないってノアールが言ってたけど……と首を傾げる。

 いやいや、とにかく確認してもらおう。


『えっと、旅館に行ってもらえるかな?魔法使いさんは旅人なのかもしれないから』


 オレは、気を取り直してノアールにお願いすることにした。

 しかし、


『旅館ー?アリアさん、ここって旅館だよね?』


『ん?』


『だよねー?え?パパとお電話中なの。あ、パパ、もしもし?』


『あー、うん、もしもし』


『ノア、いま旅館にいるよー?』


『え?』


 昨日に引き続き、ノアールの近くに転移魔法の使い手がいる?

 そんな偶然あるのか?とオレは首をかしげる。


『えーっと、今旅館にいるのは誰かな?』


『んー、アリアさんとシスターと、働いてる子たちが6人だよ』


『ほほう?』

 全員知ってる人だった。


『泊まってるお客さんはいないの?』


『いるけど、カイリにぃの食堂に行ってるみたい』


『そうなんだ?』


『うん』


 なるほど?

 つまり、オレの知り合いの中に転移魔法の使い手がいるってことなのか?


 美少女って条件にしたから、年配のシスターとマッチョのアリアさんは違うだろうし、孤児院の子どもたちの中に美少女っていたっけ?


 うーん、全員小さい子だった気がする。見当がつかない。


『うーむ?』


『ノアもうちょっと探してみる!』


『あ、うん、ありがと』


 悩んでいると、ノアが旅館のまわりも確認してみると、言い出した。

 ありがたく、その提案を受け入れる。


 オレは、目をつむりマップを確認すると、攻略対象の赤い点は、旅館から出てぐるりと建物を周り、崖沿いにある灯台の方に移動した。


 これは一体誰なんだ?

 やっぱ孤児院の子どもの中にいるのかな?


『パパぁ』


『んー?』


『灯台まで来たけど、誰もいないよー?』


『え?……ノアール、今灯台にいるの?』


『うん』


『周りに誰もいない?』


『うん、いないよー』


『……』


 それって、つまり……今回の攻略対象は……


『パパぁ?』


『あ!うん!わかった!ありがとな!灯台の近くは崖が危ないからあんまり近づかないように!』


 オレはノアールの声を聞いて、焦って早口でまくし立てた。


 そんなことがあるはずがない、そう思いながら、娘との会話に集中する。


『はぁい、パパは心配性だなぁ。ノアもう大人だよー?』


『ははは、ノアールはまだまだ子どもだろ?』


『むー!そんなことないもん!パパのバーカ!』


『ガーン!これが反抗期か……』


 オレは、はじめてノアールにバカと言われ、ショックを受ける。それをそのまま口にしていた。


『あっ!ちがうの!ごめんなさいパパ……ちょっと悔しくって……パパたちがいなくなったあと、ノアも成長したんだもんって思ったら……』


『あ、ううん、オレの方こそ無神経でごめん。成長したノアールの姿、見てみたいな』


『うん!いつでも帰ってきてね!それでね!今度はノアールも連れてってほしいの!』


 そういえば、大きくなって強くなったら連れて行く、と約束してたなと思い出す。


『なるほど、ノアールは強くなったのかな?』


『うん!すっごく強くなったんだから!アリアさんにもこの前冒険者になれるって褒めてもらったよ!』


『アリアさんに?……ノアール、危ないことしてないよな?』


『え?えーっと……あ!ノアお仕事あるんだった!またね!パパ!』


 ブチっ。


「おお?」


 都合が悪くなったのか、突然通信を切るノアール。


 ノアールのことは今度説教しつつ、危ないことをやってるならやめさせるとして、

 それよりも……


 オレはまた目をつむって攻略スキルのマップを確認した。


 灯台にいた赤い点は、旅館の方に戻り、カイリの店の方に走っていく。


 これって、つまり、そういうことだよな……


 オレは攻略対象の転移魔法の使い手の目星がついて、嬉しいはずなのに、大いに頭を悩ませることになってしまった。



 その日の晩、オレは1人テントの中で寝転びながら、攻略スキルのマップを目の前に表示して、攻略対象の赤い点を眺めていた。


 赤い点は、カイリの店の上に表示されている。


 つまり、ノアールたちの自宅だ。


「………攻略するかどうかは別にして、はっきりさせておく必要はあるよな…」


 オレはやましい気持ちを押し殺して、「攻略対象に設定」と呟いた。


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ノアール

 好感度

  78/100

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「やっぱり……」


 なんと、転移魔法の才能がある人物とは、ノアールだったのだ。


「うー……」


 オレは頭を抱えて、テントの中でゴロゴロ転がりだす。


 だって、娘だぞ!?

 血は繋がっていないとはいっても!

 オレのことをパパと言って慕ってくれてる子なんだぞ!


 それを!

 そんな保護対象である愛娘を攻略するなんて!!


「……さすがに無理だ……」


 オレは記憶の中の小さいノアールのことを思い出しながら、ぽそりと口にした。


 さすがのオレでも、自分の娘に手を出すことはできない。


 でも……仲間としてパーティに入ってもらって、転移魔法を覚えてもらえるなら……


 いや、そんな自分本位な考えはダメだ。ノアールの気持ちも考えないと。


「うーん……」


 オレはまたゴロゴロと回転を再開した。


 何度考えても、どうすべきか結論を出すことができず、眠れぬ夜を過ごすことになってしまった。

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