第322話 攻略対象が滞在している場所は?

 シャワールームを3部屋増設し、それを少し離れたところに設置して女性専用という看板を立てた。


 そのことをサンディアに報告し、女性の司祭を向こうのお湯担当によろしく、と伝えてから、みんながいるテントの方まで戻ろうとする。


 途中、仕事を終えたクリスと合流し、みんなでステラのご飯を食べてひと段落となった。


 みんなが寝る準備を始めたころ、オレはゴニョゴニョとそれらしい理由を述べてからみんなから少し離れる。


 少し歩いたところで、キャンプ地とウチナシーレの町を眺めながら、口を開いた。


『もしもし、ノアール、起きてるかな?』


『……はぁーい!パパ!こんばんは!』


 意識共有の向こう側から、猫耳幼女の声が聞こえてくる。


 いつも通り、元気な声でパパと呼んでくれる。


『こんばんは、ノアール。ウミウシでの生活は楽しい?』


『うん!楽しいよ!カイリにぃとユーカねぇがよくケンカしてるけど、すぐ仲直りするの!』


 遠く離れた地にいるノアールは、ウミウシでの生活を楽しそうに教えてくれる。


 オレはノアールと定期的に通話を続けてきたが、いつも明るい声で楽しそうに話してくれるノアールが愛おしかった。

 血は繋がっていないし、種族も違うけど、自慢の娘だ。


『そっかそっか、それは良かった。ところで、ノアールに聞きたいことがあるんだけど』


『なぁにー?』


 ここからが本題だった。


 なぜなら、オレが攻略スキルで検索した【転移魔法を使えるようになる可能性がある美少女】は、現在、ウミウシに滞在しているからだ。


『あのさ、ウミウシにすごそうな魔法使いって来てないかな?』


『魔法使いー?ソフィアねぇねみたいな?』


『まぁ、そうだね。ティナみたいな人かもしれないけど』


『ティナねぇね?うーん……ノア、見てないよー?』


『そうなんだ』


 おかしいな。攻略スキルでは、たしかにウミウシにマーカーが表示されているのだが……


『〈救いの十字架〉の人たちって、ちゃんと護衛に来てくれてるよね?』


 救いの十字架というのは、ノアールたちの護衛を依頼している冒険者クランのことだ。もしかしたら、その護衛の人が探し人なのかもと考えて質問した。


『うん!みんないい人だよ!』


『今来てる人たちって、どんな人かな?』


『えっとぉ、1人はルゥさんって人でデッカイ剣を持ってるよ!もう1人は、アリアさん!』


『おぉ、そんなんだ、アリアさんが来てるんだね』


 アリアさんは、クラン〈救いの十字架〉のリーダーであるムキムキのシスターだ。オレが子どもたちの護衛を依頼した人でもある。


『うーん?』


 と、いうことは、転移魔法の使い手は、この2人ではなさそうだ。

 アリアさんは格闘戦と回復役、ルゥさんは大剣使いということだし、そもそも男性のようだ。

 検索条件とは一致しない。


『どうかしたのぉ?パパ?』


『ん?んー、ちょっと探してる魔法使いの人がいてね』


『そうなんだ!ノアが探してあげる!』


『おぉ、それは助かるな、ありがとなノアール』


『えへへ!大好きなパパのお願いだもん!何でもするよ!』


『おぉ……』


 自然と大好きと言ってくれる娘に癒される。反抗期のそぶりが全く見えない理想的な娘であった。


『ありがと、嬉しいよ。今日は遅いからまた明日連絡するね』


『うん!わかった!お電話待ってるね!おやすみなさい!』


『うん、おやすみー』


 ということで、ノアール協力のもと、転移魔法の使い手探しが始まったのであった。



-翌日-


 朝から復興作業がはじまったが、ショウの様子は相変わらずで、町に入る前からティナの背中にがっちりくっついていた。


「ティナ、大丈夫?」


 小さいティナには、おんぶは辛いかと思って確認する。


「うむ、重力魔法で浮かしておるから大丈夫じゃ」


「そっか、じゃあ、昨日と同じチームで作業しようか」


 そう声をかけてから、作業員たちのあとに続くことにした。



-お昼休憩-


 いい時間になったので、作業を一旦中止し、お昼ご飯のために町の外に出てきた。


 安全のため、キャンプ地で食事を取ることにしている。みんなで食卓を囲みながら、オレだけ少し離れてノアールと会話することにした。


 ノアールに意識共有で呼びかける。


『もしもし、ノアール』


『はぁーい!こんにちは!パパ!』


『こんにちは、今日も元気だね』


『えへへ、パパとお電話できると思ったら嬉しくなっちゃったの!』


『そうなんだ、オレもノアールの声が聞けて嬉しいよ』


『ほんと!?ノア嬉しい!』


『ははは、えっと、さっそくなんだけど、人探しを手伝ってもらっていいかな?』


『うん!』


 オレは言いながら、目をつむってマップを確認する。


 転移魔法の使い手(才能がある人)は、相変わらずウミウシに表示されていた。今は港付近にいるようだ。


『じゃあ、魔法使いっぽい人を探してみようか』


『はーい!』


『まずは港あたりから、いいかな?』


 マップを見ながら、対象の美少女がいる場所にうまいことノアールを誘導しないとな、と思いながら提案する。


『みなとー?ノアいま港にいるよ?』


『え?そうなんだ?』


 まさかのちょうど港にいるらしい。誘導する必要がなくてラッキーだ。


『じゃあ、その辺りにいる人で、魔法使いっぽい女の人を探してもらっていい?』


『うん!ノアに任せて!』


 元気よく答えて、ノアールが探索を開始してくれる。


『うーん、うーん?』


 ノアールは歩き回っているようで、たまに首を傾げるような声が聞こえてくる。

 そして、


『町の人しかいないよー?』

 との報告が返ってきた。


『あれ?そうなんだ?』


『うん、みんな知ってる人ばっかりだよ?』


『うーむ?』

 と、いうことはウミウシの住民の中に転移魔法の使い手がいるのだろうか?


 あの町に魔法使いっぽい人いたっけ?

 と思い出そうとするが、話が長い町長くらいしか思い出せなかった。


「ライー、午後の作業がはじまるよー」

「ピー」


「おー、今行くー」


 首を傾げていたらコハルに呼ばれてしまった。


『ノアールごめん、お仕事に戻らないと』


『わかった!お仕事がんばってねパパ!大好きだよ!』


『おお、ノアールは本当に可愛いな。オレも大好きだよ。ありがとう、頑張るよ』


『えへへ、パパに可愛いって言ってもらっちゃった……じゃあまたね!』


『うん、また』


 オレは一旦通信を切って作業に向かうことにする。


 明日にでもまた、ノアールに協力してもらい人探しを続けようと考えていた。

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