第321話 ついにはじまる復興作業

「それじゃあ、おまえら!始めるぞー!」


「うぉぉぉ!!!」

「やってやらー!!」

「絶対復興してやるー!!」


 ジャンの掛け声と共に、道具を持った作業員たちが正門から町の中に入っていく。


 ついに、ウチナシーレの復興作業がはじまった。


「がはは!我偉いだろう!これで町もすっかりさっぱりだ!褒めろ!」


 幼女に戻った雷龍様がステラの前に立って偉そうにしていた。無念に散っていった魂たちを浄化したことを褒めてもらいたいらしい。


 どう反応したものか、少し考える仕草をするステラ。


「……偉いわ、それにすごいわよ、おねえちゃんは」


 しかし、今回は素直に褒めることにしたようだ。


「おお!ステラにしては珍しい反応だな!もっと褒めろ!それとおやつをたくさん寄越せ!」


「はいはい、えらいえらい。はいこれ」


 ステラは、「せっかく褒めたのに…」と言いたそうな顔で、アイテムボックスからデカい骨つき肉を取り出して雷龍様に渡していた。


 おやつとは一体?


「むしゃむしゃ!美味い!」


 雷龍様にとっては肉もおやつらしい。


「よし、オレたちも行くかー」


「はい!師匠!」

「いこー!」


「ショウもくるのか?」


「うん!」


「うーん……」


 ウチナシーレは破壊された町、つまりガレキだらけだ。まだ小さいショウには危ない気もするのだが。


「わしが見ておくから大丈夫じゃ」

「ミィも…」


「ほんと?なら安心かな?」


 ミリアに関しては、むしろミリア自身が心配なのだが。


 チラッ。


 オレは、ソフィアのことを見る。

 ミリアのこと頼める?の意図であった。


「大丈夫よ、わたしもいるから」


「そっか!ありがと!みんな、オレからあんまり離れすぎないようにな!なにかあれば意識共有で!」


「はい!」

「わかったー!」

「わかりました」


 みんなが頷くのを確認してから、オレたちは全員で固まってウチナシーレの中に足を踏み入れた。


 さぁ、気を引き締めて作業に取り掛かろう。



 オレたちはまず、比較的被害が少ないエリアを担当することになった。


 ジャン曰く、犠牲者の弔いは終わったとのことだが、ガレキの下には、まだ遺体が取り残されてる可能性は少なからずある。それを子どもたちに見せるリスクを少しでも減らしたいという配慮だった。


 もちろん、リョクとショウの実家の近くも避けることにした。リョクは現状を理解しているが、無残に破壊された実家を見せてトラウマを増やす必要はないと思ったからだ。


 もちろん本人にも説明して納得してくれた。相変わらず頭がよくて聞き分けのいい弟子である。


 しかし、早熟したリョクと比べ、ショウはまだまだ子どもだ。


 さっきまで元気だったショウは、ウチナシーレに踏み入れてからキョロキョロと落ち着かなくなり、どんどんと暗い顔になっていく。そして、ミリアとティナの手を握って離れなくなっていた。


「ぐす、ぐす……にいちゃん……かあちゃんが……かあちゃん……」


 ついに、ショウが泣きはじめてしまった。


 ウチナシーレについてから、いや、到着する前からみんなで説明はしていた。ショウのお母さんは天国に行ったんだと。


 でも、ショウは受け入れれなかった。この町の惨状を見るまでは。


 ウチナシーレから逃げるとき、ショウはユウの背中にしがみつき、よくわからないうちに外に連れ出されたとのことだ。だから、母親が亡くなったことも、町が壊滅したことも実感がなかったようだ。


 でも、目の前の光景を見て、ついに理解してしまった。お母さんがウチナシーレで待ってるなんてことはない、っていう事実に。


「ショウ……頑張ろう、にいちゃんもいるからな」


 なんとか弟を支えようとするリョク。


「うう……でも……かあちゃんが……うっ、うっ……」


 しかし、ショウが泣き止むことはない。


「ショウ……」


 オレたちはどうしたものかと悲しい顔をしながら、みんなでショウのことを支える。

 でも、言葉では上手く元気づけることはできず、寄り添うことしかできなかった。


「わしとミリアで支えておる。みなは作業を頼むのじゃ」


「……わかった、ソフィアもここにいて」


「わかったわ、任せなさい」


「よし、リリィはオレと、ステラとコハルはペアで動いて」


 こくり。


 みんながオレの指示を聞いて、ガレキの撤去を始めてくれる。


 クリスのやつは聖騎士隊の指揮があるから近くにはいなかった。


 オレたちは黙々とガレキの撤去を進めていった。



 しばらく作業してから向こうの様子を確認すると、ショウはミリアの背中にコアラのようにへばりついて眠っていた。心の整理がつかなくて疲れ果てたようだ。


「師匠、すみませんでした」


 ショウの傍に寄り添っていたリョクが作業道具を持ってこちらにやってくる。


「いや、しょうがないよ、全然気にしてない。むしろ、おまえたちはすごいって思うよ。がんばってる。……それに、おまえは立派な兄貴だ、えらい」


「ありがとうございます、師匠。これからは僕も手伝いますね!」


「おう、一緒に頑張ろう」


「はい!」


 普段、オレが褒めることはあまりないので、お互いに照れくさくなったが、茶化されることはなかった。


 こうして、リョクとソフィアが加わって、どんどんとガレキを撤去していく。


 特にソフィアの魔法の活躍が素晴らしかった。やはり、重力魔法の使い手がいると

数十倍の速度で作業が進むので見ていて気持ちがいい。


「疲れたらちゃんと休んでねー!」


 そうみんなに声をかけながら、オレたちは適宜休憩をとって復興作業に取り込んだ。



 復興作業1日目を終え、みんなで町の外のテント地に戻ってくる。


 なんだか人だかりができているのでそちらを見ると、行列の正体は、オレが設置したシャワールームであった。

 簡易的なものではあるが、昨日のうちに作成したシャワールームが大人気になったようで、かなり長い列ができている。


「うーむ、10部屋じゃ全然足りなかったか……」

 と行列の長さを見て考える。


「あと、女性専用のも欲しいわね。男どものスケベな顔が気になるわ」


「たしかに……」


 ソフィアの指摘通り、湯上りの女性のことを見て、ひそひそニヤニヤと話している若い男性たちがいるのがすぐにわかった。


 気持ちはわかるが、そういうのはよくないよ、キミたち。


 ということで、オレはシャワールームの増設に動くことを決める。


 ちなみに、お湯の原動力はサンディアたち司祭にお願いしているので、軽く挨拶してから増設作業に入ることにした。


「お疲れー」


「あ、ライ、お疲れ様です。このシャワーというのはすごいですね。すごくさっぱりします」


「だろー?水で身体を拭くより何倍も気持ちいいよな」


「はい、でも、好評すぎてこの有様ですけど、はは」


 サンディアは行列を見ながら困った顔で笑う。


「だな、もうちょい増設するよ。お湯の方は頼んだ」


「それは助かります。はい、お湯の方は任せてください」


 オレは、サンディアに手を振ってから、アイテムボックスからシャワールームの材料をポイポイと取り出す。


「よし、やるかー」


 夕食までには、数部屋は増設できるだろう。

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