第319話 故郷への帰還

 国境の2つの砦をこえてから2週間、ついにウチナシーレに到着した。


「おぉ〜、いいところだね」


 オレは、小高い丘から町の全貌を眺めながら、波の音を聞いていた。


「海が近いんだね!ボクはじめて見た!」

「ピー!」


「ミィも…はじめて…すごい…」


 海を見るのがはじめての子たちは目をキラキラさせている。


 オレたちの目の前には、三日月型の海岸に面した大きな町が広がっていた。


 海岸には大きな港があり、砂浜もある。それに、三日月型の海岸の沖には、小さな島があった。建物などはない、無人島だろうか。


 そして、ウチナシーレの町。


 オークたちに襲撃されたため、そこら中の建物が破壊されていたが、そこに目を瞑れば、とても立派で綺麗な町だった。


 全体的に背が低い一階建ての建物が多く、白塗りの壁にオレンジがかった屋根がのっている。


「なんだか、ウミウシを思い出すわね」

 とソフィア。


 オレもこの町を見て、同じことを思っていた。それに、残してきた子どもたちのことも。


「そうじゃな…子どもたちは元気じゃろうか…」


「元気だよ、ノアールとは定期的に会話してるし、それはティナにも伝えてるだろ?」


「うむ、しかし、自分の目で見て話したいと思うのじゃ……すまぬな、おぬしについていくと言ったのに」


「ううん、大丈夫、ティナの気持ちは自然なものだよ。オレも同じ気持ちだ。オレの方こそ、わがままで連れ回してごめんな」


「それを承知のうえでついてきてるのじゃ。じゃから、謝ったりするでない」


「うん、ありがと」


「おーい!我らが王よ!」


 オレとティナがしんみりと愛情を確かめ合っていると、ジャンのやつが騎馬で駆け寄ってきた。


「……王に対して、おーいはどうなんだ?」


「ははは!では王になっていただけるでしょうか!王よ!」


「考えちゅー……」


「ライ殿はなかなか頑固な方だ!まぁいい!まずはウチナシーレの正門付近に野営地を築く!しばし休息を挟み!復興作業は3日後からだ!そこでだな!」


「あぁ、今日の宴の準備ね、今行くよ」


「かたじけない!みながステラ殿の料理を待っているのでな!ステラ殿!お頼み申す!」


「はぁーい♪お任せください♪」


 ジャンはそれだけ言って、また騎馬でかけていった。


「それじゃステラ料理長」


「はい!お任せください!支配人!」


「はは、こんな素敵な料理人が奥さんだなんて幸せです」


「あぁん、ライさん♡大好きです♪もうちょっとお仕事ごっこしたかった気もしましたが、ライさんの甘いセリフでそんな気持ちも吹き飛んじゃいました♪」


「はは、じゃあ、料理しながら続きしよっか。料理長、補助はお任せください」


「うふふ♪それは楽しそうですね♪」


 オレは、ノリノリのステラと、呆れ顔のみんなを連れて宴の準備を始めることにした。


 避難民は1000人近くいる、今日の料理は大変そうだ。


「むにゃむにゃ……ふがっ!?もう着いたのか?我のメシはどこだ!」


「……」


 人の10倍以上食べるドラゴンが馬車の上で目を覚まして騒ぎ出す。


 うん、あの人の相手はステラに……いや、今日ばかりはオレが頑張るか。



 ウチナシーレへの帰還をお祝いする今夜の宴は、それはもう大いに盛り上がった。


 ところどころから、大きな笑い声と、それに泣き声が聞こえてくる。

 故郷に帰ってこれて嬉しい。そんな涙だった。


 ジャンは、泣いている人を見ると肩を組んで酒を飲み。大声で笑う。


「ははは!泣け泣け!もっと泣いて喜べ!がはは!」


 そんな感じだ。ジャンの屈強な体格でバンバンと背中を叩かれた人は、めちゃくちゃ痛そうにしていたが、でも、そんな彼のおかげで泣いていた人も笑顔になる。


 みんな嬉しい気持ちは一緒なんだ。


「よかったなぁ……」


「ほんとにそうですね♪」


「料理、お疲れ様……」


「いえいえ♪」


 オレとステラは並んで鍋をかき混ぜながら、リューキュリアの人たちのことを見ていた。


「今日は大変だったね……」


「いえ♪やっぱり私はみんなに笑顔になってもらえて、料理が大好きなんだなって思いました♪」


「ステラはすごいなぁ……オレはもう、ヘトヘトだよ……」


 この鍋から何杯のシチューを手渡したか、もはや記憶にない。50をこえたあたりで数えるのはやめた。おかわりしにくる人も多かったので、相当な数を配ったはずだ。


「うふふ♪それじゃあ頑張ったライさんには、あとでマッサージしてあげますね♪」


「いやいやそんな、大変だったのはステラの方なんだからさ」


「あら?ライさん、普通のマッサージのこと言ってます?」


「へ?普通の?それってどういう?」


 オレは鍋をかき回しながらステラの方に顔を向ける。


「うふふ♪」


 なぜか舌なめずりしながら、今更味見をしていた。


 ペロリ……


 わざわざ舌をよく見せるように……


「……やっぱりマッサージしてもらっちゃおうかな!」


「いいですよ♪」


「ワクワク」


「元気出てきましたね♪」


「スケベに育ちおってからに」


 オレたちがニコニコしている横で、シチューが入っていたお皿をペロペロと舐めまわしている雷龍様が横槍を入れてきた。


「おねえちゃんは黙って食べてなさい」


「じゃあデザートも寄越せ!」


「はいはい」


 ドサッ!


 ステラがアイテムボックスからドーナツの山を取り出して雷龍様の前に置く。


「良い心掛けだな!」


 そして、もしゃもしゃと食べ出す大食いドラゴン。


 で、あなたはいつまで一緒にいる気なんですか?

 まぁ、別にいいんだけど。


「それじゃあ、そろそろマッサージ、します?」


 ドラゴンの相手が終わったら、ステラが色っぽい顔でオレのことを見た。


「お願いします!」


 すかさず同意する。


 そしてオレたちは、その辺にいたサンディアに鍋を押しつけて、自分たちのテントに戻ることにした。


 ステラのマッサージはそれはもう、それはもう、すんごかった。


 疲れた身体に染み渡るぜ。

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