第312話 教皇様にお願いしてみよう

「もう用は済んだのか?」


「んー、まぁだいたいは済んだかな~。ユーリにはクリスはオレの女だって聖騎士隊に広めとけって言っといたし、あとはクロノス神殿かな」


「……は?今なんて言った?」


「クロノス神殿に用が」


「そこじゃないよ!ユーリになんて言ったって!?」


「明日になればわかる」


「ああああ!!僕は聖剣なんだから!聖騎士隊のみんなとは、毎日仕事で顔を合わせるんだぞ!みんなにどんな顔されるか!」


「ウケるw」


「ウケないよ!!」


 ぎゃーぎゃーと文句を言うクリスの手を引いてクロノス神殿に向かって歩き続ける。


 とにかく、オレはレウキクロス中の人たちにオレたちの関係を認めてもらいたいのだ。



-クロノス神殿 2階-


「教皇様に謁見したい?ダメに決まっておろう、帰れ」


 クロノス神殿についたら、シンラ枢機卿を見つけたので話しかけてみたところ、オレのお願いはすぐに断られた。


「このジジイめ」


「誰がジジイだ!不敬罪でしょっぴくぞ!」


「自分、レウキクロスの英雄だからな~、そんなことしたら暴動にかもな~?」


「こ、こいつ……」


「あはは、すみません、シンラ枢機卿。聖剣の僕のお願いでもダメでしょうか?」


「……いいでしょう。ただし、陛下の前ではその手を離しなさい」


「はい……」


 手を繋いでいることを枢機卿に指摘され、忘れかけていた羞恥心がまた出てきたらしい。恥ずかしそうに下を向くクリスであった。



 そして謁見の間、


「ようこそいらっしゃいました。英雄ライ殿、聖剣クリス殿」


 玉座に座った教皇様が優しい声で語りかけてくれる。


 オレたち2人は片膝をついたまま、頭を下げてお礼を言う。


「突然の謁見にお時間を割いていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


「いえいえ、どうぞお二人ともお立ちください」


 オレたちは、お言葉に甘えて立ち上がった。


 教皇様の後ろには枢機卿のジジイが1人、謁見の間のレッドカーペットのまわりには聖騎士隊が10名ほど並んでいた。


「それで、本日は何用でしょうか?」


「折り入って、教皇様にお願いがあって参りました」


 オレは、顔をキリっとして教皇様に強い意志があることを訴えかける。


「そうですか、ライ殿の願いであれば、できる限りのことをしたいと思います。なんでしょうか?」


 そんなオレの顔に何かを察したのか、笑顔から真面目な顔になる教皇様。


 そこへ、ここぞとばかりにオレは考えていたセリフを口にした。


「ここにいる、聖剣クリスタル・オーハライズを私にいただけないでしょうか?」


「き、キミ!?なにを言って!」


「おい、謁見中だぞ、大声出すなよ」


「むぐっ……」


 オレに指摘され、静かになるクリス。


「えー……それは……どう言った意味でしょうか?教皇たる私にも、個人の方を報酬にするなんてことはできないのですが……」


 さっきまで真面目な顔をしていた教皇様は、今は困り顔だった。


 あれれ?


「では、クリスとの結婚を認めてもらえないでしょうか?」


 なんか違ったのかと思って、別方向から攻めてみる。


「それは?………いえ?私はクリス殿のご両親ではないので許可もなにも?」


 さらに教皇様は困った顔をする。


 あれ?


「貴殿は先ほどからなにを言っておるのだ!悪ふざけに来たのなら直ちに退室せよ!」


 そして、シンラ枢機卿に怒られて追い出されてしまった。


 首を傾げながら振り返ると、閉まる扉の向こうで、教皇様は笑いながら手を振っていた。


「あれー?」


「キミはバカなのか?」


「いやいや。聖剣様を娶るんなら、教皇様に許可を求めるのが筋かと思ってさ。で、謁見の間でさ。オレがクリスをくださいって言うだろ?

 すると、〈いいでしょう、聖剣にふさわしいのは英雄だけです。2人の結婚を認めます。誓いのキスを〉みたいな展開になるかと」


「なるわけないだろ、バカたれ」


「あれー?」


 首を捻っているオレの手を引いて、クリスが歩き出した。


 なんだかんだ、手を繋いで歩くことには慣れたらしい。


 おかしい、こんなはずではなかったのに。


 オレは、屋敷に帰りながらずっと首を傾げていた。



-レウキクロスの屋敷 リビング-


「でさー、こんなことがあって」


「もぐもぐ、ライはおバカだなー!」

「ピ〜」


「ライ様はそういうところも素敵です」


 夕食のとき、オレのクロノス神殿での失敗をクリスのやつがみんなに話し出した。


 みんなクスクス笑っている。

 なんか納得いかない。


「それで、あんたは結局なにがしたかったのよ?」


「クリスちゃんを…みんなに…自慢、したかった…の?」


「まーそれもあるかな」


「キミって……」


 オレが肯定すると、少し恥ずかしそうにするクリス、


「うふふ♪ライさん♪他にもあるんじゃないですか?」


 ステラが何もかもを察した様子で笑いかけてきた。オレが説明しないと、ステラが話し出しそうだったので、正直に白状する。


「……その、クリスを本当の意味で幸せにしたら、させてくれるかと思って……」


「はい?なに言ってるんだキミは?」


「うふふ♪つまりですね。ライさんは、私たちみんなをまとめて抱きたいけど、クリスさんが全然折れないので、今度は正攻法で攻めてみようとしたわけです」


「……」


 言い当てられ、なんだか気まずくなる。

 今までは、寸止め作戦で無理やり同意を得てきたのだが、クリスにはそれが通じなかったから、今回のような行動に出たわけだ。


「キミって……なんか、今日一日嬉しかった気持ちが裏切られた気分だよ……」


「ごめん……でも、おまえをちゃんと幸せにしたいって気持ちは嘘じゃないから、それは信じてくれ」


「ライ……」

「クリス……」


「見つめ合っておるところ悪いのじゃが、結局のところ、こやつはスケベなことしか考えておらぬぞ」


「……」

 せっかくいい感じだったのに、このロリエルフめ。


「さっきから、おまえらはなんなのだ?全員発情した匂いをさせおって、さっさと交尾して発散してこい。くさいのだ」


「………ん?全員?」


 雷龍様の発言を聞き、疑問が生まれる。


「……」

「……」


 みんな、黙っていた。


「……今から全員を抱きます」


「ダメよ」

「イヤじゃ」


「雷龍様、この2人は発情してますか?」


「しておるな」


「……」

「……」


「僕は帰るよ、またね」


 パシッ。


 立ち上がろうとするクリスの手を掴む。


「雷龍様、コイツは?」


「発情しまくっておる」


「やるぞ」

「やらない」


「ならおまえは1ヶ月お預けだ」

「……」


「ソフィアとティナも1ヶ月お預けね」

「……」

「……」


「嫌なら全員今すぐオレの部屋に来い」


 お楽しみのはじまりであった。

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