第311話 聖剣様を正攻法で攻略してみる

「なぁ……」


「なに?」


「恥ずかしいんだが……」


「嫁なんだから普通のことだ」


「そうかもだけど……」


 オレは、クリスと手を繋いでレウキクロスの町を歩いていた。


 クリスはいつもの聖騎士隊の服を着ている。

 そう、オレはあえて聖剣様のクリスと町を歩いている。

 民衆に見せつけるようにDA☆


「おお!ライのあんちゃん!聖剣様とデートかい?」


 さっそく第一村人が声をかけてきてくれた。


「うん、そうそう、こいつオレの女なんだ」


「ちょ!?キミ何言ってんだ!」


「おお!そうなのかい!前々から初々しいねぇってみんなで噂してたんだが!ついにか!おめでとうよ!」


「ありがとうな、おっちゃん」


「なんだいなんだい!クリスちゃんに彼氏ができたって!?おばちゃん聞き捨てならないよ!」


 第二村人登場、この人はクリスの昔馴染みだったはずだ。


「お、おばちゃん……あの……」


「私はね!クリスちゃんがこんなにちっちゃい頃から面倒みてたんだから!私の許可をとってもらわないと!」


「聖剣様の相手は、英雄のオレしかいないでしょ」


 オレはドヤ顔でおばちゃんに宣言する。


「ははは!ライ!あんた口だけは達者だね!いや!一応強いんだったね!私は見てないけどさ!」


「なら、今度オレの実力見せてやるよ。クリスより強いんだぜ?」


「ほんとかい!そりゃあ怪しいもんだね!口八丁もいいとこだよ!」


「ははは、それじゃまた」


 クリスの手を引いて、また歩き出す。隣のクリスがワーワー抗議しているが、適当になだめておく。


 少し歩いていくと、クリスのファンのメスガキ集団に囲まれた。


 若い子たちのジト目に若干たじろいだが、「こいつはオレの女だ」と肩を抱いて見せてやったら、全員に殺気を向けられることになる。


 怖いけど臆さない。

 だって、コイツはオレの奥さんなんだから、ウソはついていない。

 ……ガクガク……


「震えてるぞ?」


「だって、こんな大人数に睨まれると怖いんだもん……」


 オレたちの周りには、10人近い若い女の子がいて、一様にオレに噛みつきそうな顔をしている。


「はいはい、もう行くよ、みんなごめんねー」


 今度はクリスがオレの手を引いて、人垣をかき分けてくれた。


「ああ!聖剣様!」

「行かないで!わたしたちをおいて!」

「英雄ライ!ぶっ殺す!!」


 最後、めちゃくちゃ物騒なセリフが聞こえた気がするが気のせいだろう。

 うん、気のせいだ、きっと。


「で?」


「ん?」


 正門あたりまできて、クリスがオレの方に向き直る。


「なにが目的なんだ?」


「なにがって?」


「これだよこれ」


 オレと繋いだ左手を持ち上げて抗議してくる。もちろん手は離さない。


「目的?んー、おまえはオレのもんだって、みんなに知ってほしくて」


「なんだよそれ……」


「オレは独占欲が強い男なんだ」


「……複雑な気持ちだ」


「嬉しいだろ?キスしてやろうか?今ここで」


「やめろ」


「素直じゃないなー。ほら、もう行くぞ」


「おい」


 嬉しいくせに渋い顔をしている面倒なやつの手を引いて、正門から町の外に出る。


 すぐ近くの草原の方に行き、テントだらけの場所にやってきた。リューキュリアの避難民たちの野営地だ。


「あ!ライお兄ちゃんだ!」

 ショウがオレたちのことを見つけて駆け寄ってきてくれた。


「おお、今日も元気かー?ショウ」


「うん!元気!」


「それは良かった」

 わしわしと頭を撫でてやる。


「師匠!それにクリス師匠も!お疲れ様です!」

 続いて、リョクもやってきた。


「おつかれ〜、テント生活はなんも問題はおきてないか?」


「はい!おかげさまで食事も取れてますし、テントの中も快適です!」


 リューキュリアの人たちがレウキクロスのそばでテント暮らしを始めてから、数か月が経っていた。


 リョクが言う通り、レウキクロスから食事は支給されているし、その対価としてリューキュリアの避難民たちは、レウキクロスでの仕事を担っている。


 今のところ、お互いに損はない関係を築けているようで、とりあえず問題は起きてないようだ。


「よかったよかった」


「それで師匠、今日は何か御用ですか?……クリス師匠と、デートでしょうか?」


 オレとクリスが手を繋いでいることに気づき、少し恥ずかしそうにするリョク。


「あ!これは違くて!」


 パッとオレの手を離すクリス。


「お?おい、なんで離すんだ?」


 ムッとするオレ。


「だって、弟子の前だと恥ずかしくて」


「いいから繋ぎなさい、んっ!」


 再度手を繋ぐよう要求する。


「……」


 手を差し出すと、クリスは黙ってその手を握ってきた。


「ラブラブー!」

「おい!やめろ!失礼だろ!」

「えー?」


 無邪気なショウと大人なリョク、このやり取りもいつも通りでなんだか安心した。このあと、2人ともう少し会話して、手を振って別れる。


 次はジャンたちのテントに向かうことにした。


「こんにちはー」


 テントの中に入ると、ジャン騎士団長とサンディア司祭、マガティヌス大司祭が話し合っていた。


「あ、取り込み中でしたか?」


「いや!大丈夫だ!入ってくれ!」


 オレはクリスと手を繋いだまま、サンディアの隣に立ち、会議机の上の地図を見た。


 隣のサンディアがオレたちの手を見て、「こ、こいつ……」みたいな顔をしてきたが無視する。


「移住先って決まりましたか?」


「ああ!やはり首都を復興する方向で話はまとまった!」


「そうなんですね、それは良かった」


 ここ数ヶ月、リューキュリアの避難民たちをどこに移住させるべきか、ジャンたちは議論を繰り返してきた。


 首都ウチナシーレの現状調査や地方都市との打合せ、どこの町なら1000人の避難民を受け入れれるか、なんてことを話してきたのだ。


「やはり民の希望が多いウチナシーレへの帰還で話は進んでいる!地方都市からも復興作業の人材を派遣してもらうことになった!」


「なるほどなるほど」


 やはりそうなったか、と思う。避難民1000人だけじゃ、とてもじゃないが首都の復興は無理だろう。労働力が足らない。

 そこを補うために、リューキュリア国内の地方都市から人を集めることになったようだ。


「オレたちにできることがあったら、気軽に言って下さい。すぐに来ますので」


「かたじけない!さすがライ殿だ!そのときは頼りにさせていただく!」


「ありがとうございます、ライ」


「……」

 ペコ。


 ジャンとサンディアは笑顔でマガティヌスは渋い顔で頭を少しだけ下げた。


 このマガティヌス大司祭には嫌われたようだ。原因は、ティナをエポナ様と偽って民を扇動したから、である。


 なぜバレたかというと、レウキクロスへの救援をサンディアが求めたとき、リューキュリア騎士団に向けて叫んだ演説を聞いていたからだという。


 まぁ、しょうがないだろう、マガティヌスに嫌われるくらいどうってことない。


 それにこの人は、「このやろう!騙しやがって!」とか言ってこないし、大人だということだろう。納得はいかないが、あのときの食糧配給は必要なことだった、そう理解しているのだと思いたい。


「じゃあまた」

 オレは目的を終えたので、頭を下げてからテントを出る。


「ちょっと!」

 テントを出た後、すぐにサンディアが後を追ってきた。


「あん?なんだよ?」


「なんだよじゃねーよ!あんたまた奥さん増やすつもりか!」


 クリスと手を繋いでるのを再度見て、なんか言ってくるサンディア。


「つもりじゃなくて、既にコイツはオレの女だ」


 オレはクリスを抱き寄せてサンディアに見せつけてやった。


「お、おま!く、くそ……」


「サンディアくんも奥さんを娶ってはどうかね?」


 オレはドヤ顔でニンマリとサンディアにマウントを取る。


「悔しい……綺麗な人ばっかで……」


「はぁぁ……友達からの嫉妬ってきもちぃぃ」


「最低だよ、キミ……」


「ホントですね、クリスさん、やめた方がいいですよ、その人」


「あ?おまえまたしばかれたいの?」


 バッ!


 オレが手を伸ばすと、サンディアがすばやく後ずさる。


「お?力はまだまだだけど素早くはなったな」


「鍛えてますから……ライにいじめられるので……」


「引き続き励むように、じゃーな」


「はぁ……ではまた、いつでも来てください」


 なんだか諦め顔のサンディアに手を振って、町に戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る