第307話 金髪清楚シスターとの結婚式
-結婚式当日-
「ドキドキ……ハラハラ……ワクワク……」
オレは椅子に座った状態で、身体をそわそわと動かしていた。
「おぬし……少しは落ち着いたらどうじゃ?」
「だっ、だだだ、だって!」
「ライ!がんばって!ボクたちが応援してるから!」
「ピー!」
「お、おおお、おうよ!」
オレは、リリィ以外の妻たちと、結婚式がはじまるのを待合室にて待っていた。
そこに、
「おーい、そろそろ僕たちは席に着くよ。キミは呼ばれたら正面の扉から入場するように」
とクリスが声をかけてくる。
「わ、わわ、わかった」
「……ライ」
「なんだよ……」
「キミはいい男なんだから、大丈夫だ」
「え?」
クリスのやつに容姿を褒められたのは初めてだったのでビックリする。
「今日もカッコいいぞ、じゃ、じゃあまた……」
「あ、ああ……」
そんなオレたちのやり取りをみて、妻たちが笑いながら退室していく。
「そっか、オレの緊張を解くために……」
ありがとな、クリス。
あいつに心の中でお礼を言って、深呼吸をした。
「うん、だいぶ落ち着いた、バッチこい」
「それでは、新郎の方はこちらへ」
「はい!」
結婚式のスタッフの方に案内され、中央教会の式典会場への入り口の前に移動する。
姿勢を正して待っていると、
「新郎のご入場ー!」
と、聞いたことがある人の声が聞こえてきた。
観音開きの大きな扉に2人のスタッフが手をかけて同時に開けてくれる。
パチパチパチパチ。
扉が開くと同時に、結婚式に来てくれた人たちの温かい拍手で迎えられる。
オレは一人で赤いカーペットの上を、一歩一歩、ゆっくりと歩いていった。
客席は左右に何列も並んでいて、見知った顔がいくつもある。
後ろの方の左手には、リューキュリアの人たち、ジャンやサンディア、ユウ、リョク、ショウ、それに、一緒に働いたリューキュリア騎士団の何人かも来てくれていた。
そして、右手にはウチナシーレに一緒に出兵したときの聖騎士から数名、指揮官のユーリと何人か、それに門番のやつも来ている。
さらに進むと、前列左側はオレの妻たちだ。みんな美しい。それぞれに似合う色とりどりのドレスに身を包んで、笑顔で拍手をしてくれていた。
右手の前列はリリィに縁のある人たち、以前泊まっていた宿の女将さんであるマイラさんや、中央教会で一緒に働いていたというシスターたちが並んでいた。
そんなみんなの拍手をうけて、オレはゆっくりと祭壇の前に到着した。
「皆さま、ご着席ください」
祭壇の後ろにたったユーシェスタさんがそう言う。
すると、みんな一斉に着席した。オレは立ったままその場で待機だ。
「それでは、新婦入場に際しまして、司会を交代いたします」
そう言ってから、ユーシェスタさんが脇の扉から退場した。
その姿を目で追ってから、自分が入ってきた入り口の方に向き直る。
そして、少ししてから、
「新婦のご入場ー!」
と、交代した司会の方が入り口近くで声を上げると、また、大きな扉が開かれる。
開かれた先は、光り輝いているように眩しくて、つい、目を細めてしまった。
光ってる、そう感じるほど眩しかった。
ウェディングドレスを着たリリィがそこにいた。
真っ白の、純白のウェディングドレスを身に纏い、ベールで顔を隠して、ユーシェスタさんの腕を掴んでいる。
ユーシェスタさんが一歩進むと、リリィも一歩進み、止まる。
それを繰り返して、ゆっくり、ゆっくりと近づいてきた。
オレの周りはいつの間にか大きな拍手で溢れかえっていた。そして、みんなも席から立ってニコニコとリリィのことを眺めている。
オレも拍手したい。
でも、今はそんなことしたらいけないことになっているので、黙って真面目な顔を必死で作って立ち続けた。
コツ…コツ…
リリィがオレの目の前まで近づいてきたら、なぜだか泣きそうになってしまう。
こんな、こんな綺麗な子が……オレの奥さんで……ちゃんと生きててくれて……
だめだ、これ以上あのときの、リリィがピンチだったときのことを考えたら泣いてしまう。
だから、グッと堪えて、目の前のことに集中した。
リリィが隣に並ぶ。
ユーシェスタさんの腕を離し、それから、ユーシェスタさんがまた祭壇の後ろにゆっくりと移動した。
オレとリリィは、ユーシェスタさんが立つ祭壇に向き直る。
「これより、新郎ライ・ミカヅチと、新婦リリアーナ・クローバーの、結婚式を執り行います。開式の音色を」
ユーシェスタさんが指示を出すと、左手に備えていた10名ほどの音楽隊が演奏を始めた。さまざまな楽器の音色が教会内に響き、程なくして演奏が終わる。
なんだか、空気が綺麗になったような、そんな気持ちになった。
「それでは、クロノス様へ結婚のご報告を」
ユーシェスタさんはそう言ってから目を閉じて、
「時の神クロノス様、このたびは我ら信徒に幸せなひと時を与えてくださりありがとうございます――」
なんて口上を述べ出し、それがしばらく続く。
これはクロノス教特有の神への祝詞というものらしく、結婚式では必ず唱えるのだという。
祝詞が終わり、ユーシェスタさんが目を開ける。
「次に、クロノス様に捧げる誓いの言葉を、新郎、あなたなりの覚悟の気持ちを新婦へ伝えてください」
なんと、ここのセリフは新郎が独自で考えたセリフを言うことになっている。
一応、打合せはしたのだが、セリフは頑張ってオレが考えた。みんなは良い言葉だと言ってくれたが、不安もある。でも、もう言うしかない。
一呼吸、息を吸い込んでから口を開いた。
「……私、ライ・ミカヅチは、新婦リリアーナ・クローバーを一生涯愛し、幸せにすることを誓います。
彼女のことを誰からも、どんなことからも守り抜き、健やかに、幸せな日々を歩んでいくことを約束します。
私は、リリアーナ……リリアーナ・クローバーが……隣にいてくれることがなにより幸せです……今まで彼女に貰ってきた幸せを、これから精一杯、返していきたいと思います……
これからも、オレと歩んでくれるだろうか?リリィ……」
「……ぐすっ……」
ベールの下のリリィが泣いているのがわかった。
オレの目からもさっきから涙が止まらない。
「新郎、素晴らしい宣言です。
それでは続いて、新婦、あなたからも新郎への愛の誓いを」
「はい……わ、わたし、リリアーナ・クローバーは……新郎ライ・ミカヅチのことを、一生涯……いえ……たとえ生まれ変わっても、愛し続けることを誓います。
わたしは、ずっと、ずっと、探していました。わたしを幸せにしてくれる方を。そして、出会いました。あなたに。
あなたと出会ってから、わたしの世界はキラキラと輝き出し、いつもどんなときも幸せに満ちていました。先ほど、あなたはわたしに幸せを貰っていると言ってくれましたが、それはわたしも同じです。
わたしは……わたしは、あなたのことが……誰よりも誰よりも大好きです。これからも、隣にいさせてください」
「ぐすっ、ぐすっ…うん…うん……」
泣きながら、気持ちを伝えてくれるリリィの言葉につい頷いてしまう。
「新婦の誓いも素晴らしいものでした。
新郎、泣きすぎですよ。打合せ通りやりなさい」
「ふふふ」
「ははは」
観客席から、微笑ましい、と言った感じの小さい笑いが起きる。
「ずびっ!はい、すみませんでした」
「よろしい。それでは、新婦の母である私からも一言」
え?そんなの打合せにあったっけ?
「リリアーナ」
「はい」
「良き夫を見つけましたね」
「はい……」
「もし嫌なことがあったら私の元に帰ってきてもいいですよ。あなたは自慢の娘です」
「お母さん……」
「愛しています、リリィ」
「私も愛しています、お母さん……今まで育ててくれて……ありがとう……」
「………んん!」
泣きながらお礼をいうリリィを見て、ユーシェスタさんももらい泣きしそうになっていた。でも、ギリギリのところで耐える。
「ライ・ミカヅチ」
「はい!」
「私は、あなたのことが最初は嫌いでした」
「存じております!」
「ははは」
また観客から笑いが起きる。
「しかし、あなたは、以前私に言いましたね?
〈リリィは命に代えても守る〉、と。
私は、あなたがそれを実際にやってのけるところをしっかりと見ていました。あなたになら、娘を任せれます。
英雄ライ!娘を頼みます!!」
「お任せください!!」
パチパチパチパチ。
打合せにない母と娘、そしてその旦那とのやり取りが終わり、会場から拍手が起こる。
オレたちは3人して涙を流していた。
「……んん!それでは!新郎、新婦に誓いのキスを!」
ユーシェスタさんが大きな声で宣言したので、オレたちは向き合った。
リリィが少し頭を下げたところに近づいて、両手でベールをめくる。
とても、とても美しい女性だった。
「リリィ、いつも綺麗だけど、今日はもっと、もっとすごい……すごく綺麗だ……」
上手く言葉に出来ない。
「ありがとうございます、ライ様も素敵です」
オレたちは小声で話す。
「リリィ、ずっとずっと愛してる」
「わたしも、あなたのことを愛し続けます」
リリィが顎を上げて目を閉じた。
そこにゆっくりと近づいて、触れるだけのキスをする。
「皆様!拍手を!」
「わぁぁぁぁ!」
パチパチパチパチ!
歓声と拍手が同時に起こる。
すごく、すごく幸せな時間だった。
今の時間を忘れないように、しっかりとリリィとの思い出を作っておこう。そう思って固まっていた。
「新郎、もう結構です」
「はっ!?」
ユーシェスタさんの声で我に返って、ゆっくりとリリィから離れた。
「よろしい」
「ふふ」
やはりまた、誰かがクスクス笑っている。
こ、このやろう……こっちは必死なんだぞ……
「では!皆様!花カゴをご用意ください!新郎新婦の退場と共に!彼らに祝福を!!
新郎新婦!ご退場!!」
リリィがオレの腕を掴み、並んで出口の方に歩き出す。
音楽隊が演奏をはじめる。
「おめでとー!」
「リリィちゃん!素敵よー!」
「お幸せにー!」
オレたちが一歩ずつ出口に向かっていくと、みんながお祝いの言葉を述べてくれながら、カゴいっぱいに入った花びらを頭の上に向かって投げてくれる。
色とりどりの花びらの雨のようだった。
「すごい、キレイだね」
「はい……わたし……とっても幸せです……」
「オレも、オレも死ぬほど幸せ。あと、それとさ……」
「はい、なんでしょう」
「どんな花よりもリリィが1番綺麗だよ」
「そんな……ライ様……」
リリィは赤くなって嬉しそうに笑ってくれた。
「へへ……」
「聞こえてるぞー!セリフくさいぞー!」
「ははは!!そうだな!小っ恥ずかしいやつだ!!」
サンディアとジャンのやつが笑いかけてきた。
観客たちも同調して大いに笑う。
あいつら絶対あとでしばく。
そう思いながらも、オレたち2人は満面の笑みでその場を後にした。
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