第305話 クリスタル・オーハライズ(後編)
ライと出会ってから数日後、ライたちとパーティを組むことになった。
ライのやつは可愛いお嫁さんばかりを連れてきて、なんなんだコイツ……と正直引いたけど、一緒に冒険すると、やっぱり楽しくって、久しぶりの友達っぽい会話にワクワクした。
それに、ライのお嫁さんたちも、みんないい人たちだってすぐにわかった。
だから、この人たちなら友達になれるかも、そう思った僕はすごくテンションが上がっちゃって、いつもの調子で実力を出し過ぎてしまったんだ。
ミリアさんに強化魔法をかけてもらって大岩を斬り刻んだときは、「あ……やってしまった……」と冷や汗が出たのを覚えてる。
また、
「オレたちとは実力が違い過ぎる、さいなら」
って言われるかもと思って、すごく焦った。
でも、ライの反応は予想外で、
「べつにオレにだってできるし……」
みたいな強がりを言って、それを聞いたみんなも笑っていた。
この人たちは、僕の力を見ても変わらず接してくれる。
それがわかっただけで、すごく嬉しかった。今まで僕から離れていって人たちとは違う。そう感じた。
それからは、みんなと一緒に冒険してるだけで楽しくって、特にライとバカみたいな会話をするのがなにより楽しかった。
早く次の日になって、またしゃべりたい。
早く明日にならないかな、そんなことをずっと考えていたと思う。
♢
それから、リョクたちに出会った。
見ず知らずの他国の子どもたちだ。
ライたちには縁もゆかりもない子どもたちなのに、彼らは一生懸命助けようと行動した。そんな姿を見て、深入りしないことを推奨した自分を恥じた。
そんなのダメだ、カッコ悪い。
この人たちはなんてカッコいいんだ、そう思った。
それから、なんだか、ライのことが時折カッコよく見えるようになった。
リョクたちと楽しく過ごしていたら、ある日、アステピリゴス聖騎士隊とリューキュリア騎士団がレウキクロスの正門前で戦っていた。
僕はすぐに駆け出した。
レウキクロスを!町の人を守るんだ!
正門前に到着した僕は、町を守るためにリューキュリアの騎士を斬ろうとした。
でも、ふと思った。
ライならどうするだろう。
それに、今斬ろうとしてる人は、リョクたちの知り合いかも。
それに気づいた僕は、ぎりぎりで峰打ちで留めることができた。
戦いのあと、リューキュリアの人たちが何も悪くないと知って、心底ホッとした。道を踏み外さないように、僕を成長させてくれたライたちにすごく感謝した。
それからライは、リューキュリアの人たちに食糧を届けるなんて言い出した。そんなことしても無駄だ。正直そう思った。でも、尊い行いだと感じて、協力したいとも思えた。
コイツと一緒にいると、優しくなれるのかも、僕ももっと成長できるかも。そう思ったら、なんだか妙にライのことを意識するようになってしまった。
1人の男性として……
でも、僕の身体は男だし、あいつもそう思ってる。恋愛なんて諦めた僕はなんだか変な気持ちになった。
今さら、男のことを好きになったって……
どうせ、エクスカリバーのせいで、男は僕に触れることすらできない……
キスだって……
ぶんぶん。
ライとキスすることを想像して、すぐやめた。叶わない夢を追いかけても辛いだけだ。
♢
ライたちがウチナシーレに出発したら、すぐにオークたちが襲ってきた。
僕は、緊急時のマニュアル通り、クロノス神殿の前で教皇様を守った。
聖騎士隊長は正門の守護だ。彼はすごく強い、大丈夫、きっと大丈夫だ。
願うように言い聞かせた。
でも、半日ももたなかった。
彼が戦死したと報告があったのは、オークたちが町になだれ込んできた後だった。
僕は叫んだ。
「命をかけて国民を守れ!!」
そして、多くの仲間が死んでいった。
焦燥の中、必死で戦っていると、ライとの約束を思い出す。
〈リリィを守ってくれ〉
リリアーナさんはどこだ!?
彼女は神殿にはいなかった。なら、中央教会にいるはずだ。視線をそちらに向ける。
すると、中央教会に向かう一際大きなオークを見つけ、僕は走り出した。
聖剣としての役目を忘れ、仲間たちのと約束を守るために。
どれくらいあの巨大オークと戦っていただろう。
覚えていない。
朝がきて、また夜になったころには、左腕を斬られていた。
でも、倒れるわけにはいかない。
気づいたら右脚もなくなっていた。
意識も、もう……
目が覚めたら、隣には知らないシスターがいて、何かを僕に飲ませてくれていた。
そんなことより、目の前でライが戦ってる。
ボロボロだ。
僕も戦わないと。
身体は動かない、脚もない。
いやだ、大切な人なんだ。
やっとできた友達なんだ。
負けないでくれ。
死なないでくれ。
ちがう、僕が助けるんだ。
そう思って、全ての力を込めてエクスカリバーをオークめがけて投擲した。
ライが、あいつを倒してくれた。
すごい、僕では敵わなかった相手を。
そうか、僕より強いやつなんていたんだな。
ライと少し話したら、僕はまた意識を失った。
次に目が覚めたときには、ライは重篤だった。リリアーナさんと魔導師が4人がかりで必死に回復魔法をかけている。
頼む、死なないでくれ。
僕は今までに感じたことがない、大きな不安を感じた。胸が張り裂けそうだった。
ライが目を覚ましたとき、僕は泣きそうになって、それを誤魔化すために、いつもの様子を振る舞って軽口を叩いた。
「僕より強いやつがいるなんて」、と。
すると、泣きそうだったことなんて忘れるくらいビックリすることが起きた。
僕の身体が女の身体に戻っていたんだ。それも、小さいころとは比べ物にならないほどナイスバディな女性の身体に。
す、すごい……
これなら……僕も恋ができるのかな?
ライと……
すぐにそう思った。
でも、そんなこと誰にも相談できずに数日を過ごすことになる。
だって、ライの奥さんたちになんていうんだ?
「僕、ライと浮気したいです」
そんなのダメだ。
それに、今はレウキクロスが大変なときだし、恋愛なんてしてる場合じゃない。
そう言い聞かせて、聖剣としての役目に集中した。
でも、仲間の遺体の前で泣いてる僕を支えてくれたあいつへの気持ちは、どんどん、どんどん大きくなっていく。
だから、浮気とかじゃなくて、真剣にお付き合いがしたいって、ライのお嫁さんたちの相談することにした。
怖かった。
みんなのことも大好きだから、嫌われたらって……すごく不安だった。
でも、そんなの杞憂で、みんなすぐに受け入れてくれて、なんなら、どうやってライのことを落とすのかアドバイスまでしてくれた。
だから、必死になって彼女たちのアドバイスを聞いた。
服も全部選んでもらって、その……下着とかも……
それで、ライのやつをその気にさせるために、身体を密着させろとか、パンツくらい見せちゃえ、なんていう過激なアドバイスも実行することになってしまった。
今思えばどうかしてたと思う。
痴女じゃないんだから……ははは……
でも、彼女たちに相談したおかげで、僕は僕らしいデートをすることができて、僕とライらしい、今まで通りの、今までの延長線上の素敵な関係になることができた。
みんなの言う通り、想像以上のスケベヤローだったけど……
でも……僕もすごく良かったし……いやいや!さっきのことはもういいんだ!僕の挑発もやりすぎだったし!
そんなことよりも、今は隣で肩を並べて寄り添えていることが、なによりも嬉しかった。
僕はコイツのことが大好きだ。
♢
-主人公 視点-
「連れてきてくれてありがとう」
クロノス神殿の屋上で、隣にピッタリと寄り添うクリスにお礼を言う。
「ううん、僕の方こそ、来てくれてありがとう」
「意外と謙虚」
オレは、いつもの調子でクリスのことをからかってみた。
「うるさい、キスするぞ?」
「上等だ、むしろオレからしてやる」
そして、キスしてやる。
キスしてると、オレたちの関係が変化したんだというのが実感をおびてくる。
それを刻み込むように、もうちょっとイチャイチャしてから、屋敷に帰ることにした。
♢
屋敷に戻ると、妻たちが駆け寄ってきて、
「どうだったどうだった!?」
とクリスに詰め寄る。
「えっと……」
どう答えたものかとクリスがあわあわしていると、
「またライの番(つがい)ができたのだ。クリス、おまえもう抱かれたのか。人間はスケベで敵わんな」
と、骨つき肉を食いながら雷龍様が登場。
クリスが真っ赤になっていく。
そして、
「詳しく!詳しく教えてよ!」
と妻たちに連行されていくクリス。
「ははは」
オレはぼっちになってしまったが、その様子にひと笑いし、今日は大人しく自室に戻ることにした。
もしついて行っても、オレたちのデートについてクリスが恥ずかしそうに説明する、という公開処刑の光景が目に見えていたからだ。
そんなの……オレだって恥ずかしいからたまったもんじゃない。
と、いうことで、シャワーを浴びて疲れを癒してから、ぼふっとベッドに飛び込むのであった。
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