第304話 クリスタル・オーハライズ(前編)
-クリス視点-
「ノンデリ男」
「露出狂女」
「そんなことない」
「オレだって」
「ぷっ!」
「はは!」
僕たちはフェンスにもたれかかりながら、肩を寄せ合って座っていた。
あたりはすっかり真っ暗で、フェンス沿いに点々と設置された魔法石の優しい光しか辺りを照らすものはない。
だから、星がハッキリと見てとれる。
クロノス神殿の屋上からのこの景色は昔から変わらなくて、大好きな星空だった。だから、隣に座っている僕の大好きな人にも見てもらいたかったんだ。
「すごい景色だなぁ」
ライのやつが星空を見上げてそう言った。
僕と同じことを思ってくれて、すごく嬉しくなる。
「……来て良かっただろ?」
「ああ……」
目をキラキラさせて、僕の隣で星空を目上げているライの横顔を見つめながら、僕、こいつの女になったんだな、なんて考えていた。
僕が男のことを好きになって、それに、あんなことをするなんて、思ってもいなかった。
だって、僕は……
昔のことを思い出す。
僕は先代聖剣の孫として育てられた、とは言っても、その先代聖剣とは会ったことすらない。
父と母とは小さいころに一緒に暮らしていたようだが、父がエクスカリバーを抜くことができず、僕に才能があるとわかったときには、クロノス神殿に預けられていた。
5歳くらいだったと思う。正直、あまり覚えていない。
クロノス神殿に預けられてからは、父と母とは会っていない。あとで聞いた話だと、僕を預けてからすぐにレウキクロスを出ていったとのことだ。
父はエクスカリバーを抜けなかったことがよっぽど悔しかったのだろうか。
そんなことを知る由もない小さい僕のまわりには、次期聖剣候補の子どもたちが集められていて、シスターや神官たちに育てられた。
一緒に育てられたのは僕を含めて7人で、聖剣候補というだけあって、小さいころから聖騎士による剣の訓練が行われた。
まわりの子どもたちは、剣の稽古がつらいとか、教官が怖いとか、家に帰りたいとか、色々言って泣いていた。
でも、僕はそのどれにも当てはまらなかった。
剣の稽古では言われたことはすぐできたし、教官のことは怖いと感じたことはなかった。だって、僕より弱そうだし。
それに、父と母の愛情を知らない僕は、家に帰りたいなんて気持ちにはならなかった、というか温かい家庭を想像できなかったんだ。
そんな僕に愛情を教えてくれたのはこの町、レウキクロスと、レウキクロスに住む町の人たちだった。
シスターたちは、僕を家族のように扱ってくれたし、町に遊びにいくと、商店街のおじちゃん、おばちゃんたちが実の子どものように可愛がってくれた。
だから僕は、聖剣になってこの町を守りたい。自然とそう思うようになった。
小さいころから、男勝りな女の子だったと思う。
言葉使いは乱暴だったし、遊びは活発なものばかりが好きで、男の子たちとばかり遊んでいた。だから、みんな僕のことを男だと思ってたんだと思う。
でも、女の子なんだから成長すれば身体に変化は訪れる。
胸が膨らみはじめたころ、僕たち聖剣候補は、ふざけて聖剣の保管場所に忍び込んだ。
「誰が聖剣を抜けるか勝負しようぜ」
そんなことを言っていたとおもう。
他の子どもたちが順番に聖剣を握り、一生懸命抜こうとふんばる。
そして僕の番がやってきた。そしたら、僕が握った途端、スポッとそれはもうあっさりと抜けてしまった。
一緒に遊んでいた子どもたちが、
「やばいやばい」
と騒ぎ出して逃げていくのを僕はボーッと眺めていると声が聞こえてきた。
剣の中からだ。
『次期聖剣は女か……貴様は今日から男として生き、戦いに身をおいて強くなれ』
『はい??』
僕が答える前に、僕の膨らみかけた胸は凹んでいった。
そして、下には……細長い……いや、いいだろう。とにかく男の身体になってたんだ。
でも、まだ小さい年齢だったからか。僕が女から男になったことに、ほとんどの人が気づかなかった。
でも、さすがに育ての親のシスターには気づかれた。
僕が聖剣を抜いたこと、実は女であること、このことは、クロノス教の偉い人たちしか知り得ない重要事項ということになり、隠匿された。
歴代の聖剣は男ばかりだったし、男の方が他国に対して脅威だと映るだろう、という国家ならではの考えだと思う。
こうして僕、クリスタル・オーハライズは、名実ともに男の聖剣様になったのだ。
しかし、子どもだった僕のことは、すぐには公表されなかった。
しばらくはそのまま男として剣の稽古に参加し、力をつけていく。そして、剣の稽古の時に例の問題が発覚した。
他の男が僕に触れると、その人は、めちゃめちゃな痛みを感じるということに。女の人が触っても何もないのが不思議だったが、男だけが僕に触れない。
だから、僕は男性と距離を取ることになる。
これもエクスカリバーのせいなんだろうとわかった。でもわかったからって、どうにもできない。エクスカリバーは、最初語りかけてきたとき以降、いっさい話ができなかったからだ。
だから、僕は男性と触れ合えない事実をさっさと受け入れて、
「一生、独身だなー。いや、男として結婚はできるのか?いやいや、でも女の子に興味ないしな~」
と楽観的に考えていた。
そればかりか、
「エクスカリバー、キミが結婚してくれるのかな?ははは」
とかも考えたりした。
そんな軽口にも、この剣はまったく反応してくれない。冷たいやつである。
それから1人で修行を続け、16歳で僕は、次期聖剣として公表された。
町の人たちは大いに祝ってくれて、お祭り騒ぎだった。
少し恥ずかしかったけど、みんながお祝いしてくれて、これでこの人たちを守れるんだ、と思うと誇らしかった。
その日、町の食堂で商店街のみんながお祝いしてくれて、すごく楽しく過ごしていた。でも、そこで言われたことがチクリと心に刺さることになる。
「クリスくんは最近1人でいることが多いけど、昔はたくさん友達がいたのにねぇ。最近あの子たちとは遊んでないのかい?」
ん?
あれ?
もしかして、僕って友達いない?
それもそのはず、僕が聖剣を抜いてからは、まわりにいた聖剣候補の子どもたちは自分の家に帰っていったからだ。
だから、聖剣として公表されたころにはすっかり友達と呼べる人なんていなかった。
むむ、これはマズい。
聖剣にも友達は必要だ、そういえば最近あんまり遊んでないし、誰かと遊びたい。
そう思って、それから僕は友達を作ろうとした。
聖剣として、聖騎士隊に混ざって訓練してるとき、同世代の男たちに声をかけてご飯に誘ったりしてみた。
でも、彼らは、聖剣様、聖剣様と敬ってくれて全然距離が縮まらない。
それもこれも、聖騎士隊長が、
「なにが聖剣だ、実力を見せてみろ」
とか言って斬りかかってきて、一撃で勝っちゃったせいなのだろうか。
いや、だって突然だったし、あの人強かったから手加減できなかったんだもん。
と、いうことで、僕の【聖騎士隊で友達を作ろう作戦】は失敗する。
じゃあどうするか。
聖剣という身分でみんなが僕を恐れるなら、姿を変えて聖剣じゃないところで友達を作ればいいじゃあないか。
そして、僕は冒険者になった。
エクスカリバーに頼み込んで髪の毛を黒くしてもらい、意気揚々と冒険者になった僕だったけど、やはりなかなか友達になってくれる人は見つけれなかった。
みんな、僕が強すぎて、自分たちと組むのは相応しくないとかなんとか言って離れていく。
うーん?僕は友達が欲しいだけなんだけどなぁ?
そうこうしてるうちに数年が過ぎ、何度かやばいモンスターを倒していたら、いつの間にか特級Aの冒険者になっていた。
うーん?僕、別に冒険者ランクに興味ないんだけど?
と、友達が欲しい……
対応に話し合える、どうでもいい話をバカみたいに話せるやつが。
今思えば、友達が欲しすぎて焦っていたと思う。
そんなとき、出会ったのがライだった。
レウキクロスのギルドで、ギルドの中を物珍しそうに見て回ってるあいつを見て、最初は、「お!あいつ同世代くらいだな!よし!友達候補だ!話しかけてみよう!」、それくらいの気持ちで話しかけた。
するとライのやつは、最初っから態度が悪くて、僕に遠慮なく話してくる。
おお!今までにいないタイプだ!
小さいころ、適当に友達と会話していたころを思い出す。なんだか懐かしくなって、ライと話していると楽しくなった。
だから、こいつともっと仲良くなりたい、そう思ったんだ。
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