第291話 龍の来訪
レウキクロス中に警鐘が鳴り響いていた。
敵襲を知らせる警告の鐘が……
「きゃ……キャー!!」
悲鳴が上がったら、もう大パニックだ。
「逃げろ!敵襲だー!」
「モンスターだ!」
「いやー!助けてー!」
町の人たちがバタバタと逃げまどい、何人もの人たちが聖騎士たちを押し退けて神殿に入ってこようとする。
オレたちの周りは聖騎士たちのおかげで空間があいていたが、それも時間の問題のように見えた。
ど、どうすれば……こんなとき、どうすればいい……
オレがあわあわしていたら、隣に金髪の聖騎士が現れ、大剣を背中から抜剣した。
ピシャン!
エクスカリバーから天に向けて光の筋が放たれる。その光は剣の延長線上で収束し、その場に留まり続ける。
「皆のもの!!落ち着け!!ココには!!英雄ライと!!聖剣クリスタルが健在だ!!どんな敵にも負けはしない!!」
シーン……
大パニックだった国民が一斉に静かになる。
「落ち着いて!!あわてず神殿内に避難せよ!!子どもと女性を優先し!!弱いものを守れ!!アステピリゴス国民としての誇りを忘れるな!!」
「……こ、こちらに!皆さんゆっくりと進んでください!ゆっくりです!」
クリスの掛け声のあと、聖騎士たちが人だかりの整理を行い、ゆっくりと国民が神殿内に入っていく。
聖剣様の言葉によって国民のパニックはかなり落ち着いた。
「さすがだな」
「まぁ、これくらいわね」
「で、おまえ、あれに勝てるの?」
オレたちは2人して空を見上げた。
警鐘の元凶となったそいつをジッと見つめる。
「………うーん…」
「だよなぁ…」
レウキクロスの正門の方を見ると、その頭上、遥か空の高みに、巨大な翼を持つ生き物が近づいてくるのが分かった。
龍だ。
「あー……なんだっけ?英雄と聖剣がいればなんでも倒せるんだっけ?」
「キミ……よくこんなときにふざけてられるな……」
「いや、だって……この町、呪われてるんじゃないか?」
龍のシルエットはどんどん近づいてくる。
今、正門の上を通過した。
あー終わったかも……
攻略さん……なんで警告音すら鳴らしてくれないんですか……
このまえ和解したはずの人に恨みをこめてそう思った。
しかし、
「竜のおねえちゃん?」
「え?」
ステラの呟きを聞いて、緊迫した空気が一気に霧散する。
「竜のおねえちゃん?」
「竜のおねえちゃん?」
クリスとハモって、もう一度空を見上げた。
「あ…雷龍様だ」
雷龍キルクギオス、その人であった。
雷龍様がオレたちの頭上を通り過ぎ、そしてレウキクロスの上空をグルグルと旋回しはじめる。
「雷龍様?キミ、なに言ってるんだ?それに、ステラさんも……まさか……知り合いなのか?」
「うん、この剣をくれた人」
「じゃあ、敵じゃないんだな?」
「た、たぶん……」
「たぶんって……不安しかない…」
「オレだって、雷龍様が何しに来たのか知らないし……」
オレたちがハラハラと会話していると、拡声器で発せられたような大きな声が上空から聞こえてきた。
「我は雷龍キルクギオス。我が眷属、ライ・ミカヅチに会いに来た。ライ、すぐに姿を現せ」
「え?オレ?」
「おい、キミを御所望だ、いってらっしゃい」
「ちょっ!?押すなよ!!」
両肩を後ろから掴まれ、グイグイと押される。
「いいから早く行けよ!」
「生贄じゃないんだから!押すなって!」
「あの、ライさん、クリスさん。こんなところでおねえちゃんに声をかけて、もし大通りにでも着地してきたら、何人かペチャンコに……」
ステラが恐ろしいことを言い出す。
「た、たしかに……」
「ライ、早く姿を現せ」
再度声を発したと思ったら、雷龍様はレウキクロスの上空に浮いてる輪っかに着地した。
両足でがっしりと輪っかを掴み、退屈そうに羽に顔を擦り付けている。
ひ、ひとまず、ペチャンコ事件は回避されたようだ。
「ライ殿!こちらに!」
教皇様が青い顔で走ってきてオレを呼んだ。
「は!はい!」
すぐに案内に従い神殿の中に入る。
教皇様に案内された部屋に入るとエレベーターのように上昇し出した。
すぐに開けた場所に到着し、エレベーターを降りると、そこは、クロノス神殿の最上階、輪っかと同じ高さにある屋上だった。かなり広い屋上で、サッカーの試合でも出来そうなほどだ。
そして、輪っかの上で毛繕いでもしているような動きをしている雷龍様を見つけた。
レウキクロスの輪っかは少しずつ回っているので、雷龍様もゆっくり回っていて、緊迫したシーンのはずなのに、なんだかシュールに感じる。
いや、そう思ってるのはオレと、雷龍様に会ったことがある3人だけのようだ。
オレとステラ、ソフィアとリリィ以外は、みんな冷や汗をかいたり、青い顔をしたり、一様に目の前のドラゴンに恐怖を覚えているようだった。
「雷龍様は一体どうされたんでしょうか?」
と首を傾げるリリィ。
「うーん、思い当たらない」
「ねぇ、早く声かけた方がいいんじゃない?誰か焦って攻撃とかしたら町が滅ぶわよ?」
「たしかに……」
ソフィアの一言で、事の重大さに気づき、雷龍様の方に近づいて大声で声をかける。
「おーい!雷龍さまー!ライでーす!お呼びでしたのでー!参上しましたー!」
オレの声に雷龍様がゆっくりと首を動かし、オレの方をみた。飛び上がって、バサバサと羽ばたいてこちらに来て、
ドスン
と目の前に着地する。
「絶対攻撃するな!攻撃したものは厳罰に処す!」
クリスが青い顔をしてる魔導師や騎士たちを制していた。
そんな人間たちのことなど、全く意に介さない様子で雷龍様がオレに話しかけてくる。
「ライ、貴様、死にたいのか?」
「え?ななな、なんのことでしょう?」
「貴様は自殺志願者かなにかなのか?愚か者め」
「お、おおお?あの、とりあえず人間の姿になってもらえないでしょうか?後ろの人たちがビビりまくってるので……」
「なぜ我がそのようなことをしなければならぬ」
これは困った。なんか怒ってるみたいだ。
「おねえちゃん!人間になったらご飯作ってあげるから!」
ステラが隣にきてそんなことを言う。
あ、そう言えば、この人ファビノ食堂のファンだったな。
「……よかろう、ステラに感謝するがよい」
メシにつられた雷龍様の身体が光に包まれていく。
真っ白になったかと思うと、ポンッ、と褐色の幼女が現れた。
ゆっくりと空中から降りてきて、オレたちの前に両足をつける。
相変わらずボロいローブだけを身にまとい、その下は竜の鱗で作ったようなビキニアーマーを装着していた。
お尻からはぶっとい尻尾、頭の両サイドにはギザギザの角、銀髪ロングの髪をたなびかせた幼女は、獰猛な銀色の瞳でオレのことを睨んでくる。
「ありがとうございます、変身していただき」
「よい、ライよ、これを飲め」
ピッ。
雷龍様がおもむろに自分の手首を引っ掻いたかと思うと、ドバドバと赤い血が流れ出した。
「ええ!?何やってるんですか!痛そう!やめてください!リリィ!ヒールを!」
「は!はい!」
リリィを呼び寄せ回復魔法をかけてもらおうとするが、
「こんなもの痛くもなんともない。よいから飲め」
拒絶する雷龍様。
「なにもよくないですって!なんなんですか急に!こわい!」
「おねえちゃん!ちゃんと説明して!説明しないとご飯作ってあげないわよ!」
「……なんでそんなこと言うのだ!?話が違うではないか!!人間になったらメシ作ってくれるって言ったのに!!」
雷龍様はステラを見て、ガーン!、という顔をする。
「めんどうだのう……」
そして、しょんぼりとしながら手首を舐め、傷口を治癒する。すぐに出血は止まり、傷もなくなった。
「これも消しておくか」
言いながら地面に飛び散った自分の血液に青い炎を口から吹きつけて蒸発させた。
「さて、説明、説明しろ、ということだったな」
うーん?と顎を持って首を傾げる雷龍様。
「いや、先にメシを食わせろ」
「なんでよ?」
「おまえがまた嘘をつくかもしれぬからだ、ステラ」
「はぁ……じゃあ、食堂を借りましょうか。ライさん、教皇様に話してもらえますか?」
「え?ああ、そうだね、そうしよう。聞いてみる、ちょっと待ってて」
オレはその場から離れ、後ろで冷や汗をかいている教皇様に状況を説明した。
オレは雷龍様にこの剣を授けてもらっていて、一応眷属だと言ってくれているということ、雷龍様はステラの料理に目がなくって、今すぐ食べたいと言っているので、食堂を貸して欲しいということ、を。
「な、なるほど……ライ殿…あなたは底が見えない人だ……つまり、雷龍様はこの町に危害を加える気はないということですね?」
「た、たぶん……」
「たぶん…ですか…」
「はい……なに考えてるのか、よく分からない人なので……」
「そうですか……いえ、わかりました。すぐに食堂の用意を!」
「はっ!」
教皇様が控えていた魔導師に指示を出し、何人かがバタバタと下の階におりていった。
「あの、たぶんオレたち以外は同席しない方がいいと思います」
「承知しました。では、雷龍様のおもてなしお願い致します。くれぐれも、よろしくお願い致します」
顔を近づけられ、笑顔で圧をかけられてしまった。
まぁ、今回のことはオレがらみだし、レウキクロスに被害なんて出たらたまったもんじゃないだろう。
申し訳ないです、お気持ちお察しします、と思いながら、オレは深々と頭を下げた。
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