第290話 栄誉授与式

「ライ・ミカヅチ殿!そして奥様方のご入場ー!」


 入口のすぐ脇に立っていた魔導師の1人が大きな声でそう言った。


 まもなく、大勢の人たちに拍手で迎えられる。


 よ、よし!打合せどうりに!と気を引き締めて前に歩を進める。


 貴族や魔導師やクロノス教の偉い人たちに囲まれて、レッドカーペットの上を歩いていく。


 正面には玉座に座った教皇様、左右には枢機卿のジジイとユーシェスタさん。


 玉座から3段おりたところに聖剣様のクリスが立っていた。


 そのまま、彼らの近くまで歩いていく。


 そして、打合せで言われた通りの場所まできたら、片膝を折って跪いた。


「これより!我が国アステピリゴス教国に!多大な貢献を行った!ライ・ミカヅチ殿への!栄誉授与式を執り行う!」


 司会のセリフが一区切りすると、左右に並んでいた人たちとクリスが教皇様の方を向いて跪いた。


「教皇陛下より開会のごあいさーつ!」


 教皇様が立ち上がった音が聞こえる。


「ライ・ミカヅチ殿、この度は、我が国の危機に、身を徹して立ち向かっていただき、誠にありがとうございました。本日は、その御恩に応えるべく、このような式典に足を運んでいただき、重ねて感謝致します。せめてもの気持ちですが、我が国からの謝礼を受け取っていただければと存じます」


 そこまで話して、教皇様は席についたようだ。


「皆様!お直りください!」


 そして司会の言葉に従って、顔を上げて立ち上がった。


「次に!勲章授与!ライ・ミカヅチ殿!前へ!」


 オレは数歩前に進み、玉座の階段前で膝をついた。


 そこに、立ち上がった教皇様が勲章を受け取ってから降りてくる。


「この度は、本当にありがとうございました」


 優しい口調でオレの胸に勲章をつけてくれる教皇様。


 彼が離れたタイミングで、


「ありがたき幸せ!!」

 と言って立ち上がった。


 パチパチパチパチ。


 会場から大きな拍手が起きる。拍手が鳴り止むころに、また司会の人が話し出した。


「次に!謝礼品の贈呈を執り行う!シンラ・サクリハス枢機卿!」


 ジジイが一歩前に出て、筒状の巻物のようなものから紙を引き出して話し出した。


「ライ・ミカヅチ殿には!アステピリゴス教皇!ルーナシア・レウ・アステピリゴス陛下の名の下に!神級C冒険者のランクを授ける!

 これは!冒険者ギルド協会の同意をとったものである!」


 パチパチパチパチ。


「また!当方は金一封を提案したが!本人の希望もあり!それに代わる屋敷をレウキクロス内に用意させていただいた!」


 そこまで言って、巻物をもとの筒に戻し、オレの前まで降りてくるジジイ。


「……この度は我が国を救ってくれて、感謝する」


「はっ!頂戴致します!」


 面白くなさそうなジジイとは目を合わせないようにして、筒を受け取った。


 パチパチパチパチ。


「続きまして!ユーシェスタ・クローバー枢機卿!」


 ジジイがもとの位置に戻ったあと、ユーシェスタさんの名前が呼ばれる。


 ユーシェスタさんも一歩前に出て、筒から巻物を取り出して読み上げた。


「ライ・ミカヅチ殿!この度は!多くの国民の命を救っていただいたこと!国民に代わり感謝いたします!また!脅威となったモンスターの討伐後も!町の復興に貢献してくださった貴殿は!高潔な人物であることは言うまでもありません!

 そこで!クロノス教からは!聖典を授けます!」


 ざわ、ざわざわざわ。


 聖典、というワードに観客たちがざわつきだす。それだけ、異例の褒賞だということが伺えた。


「静まれ!式典の最中であるぞ!」


 シンラ枢機卿が場をいさめることで、式典は静寂を取り戻した。


「本件は!クロノス教大司教以上全員の合意である!異論のあるものは前に出よ!」


 シーン……


「それでは!授与を執り行う!ユーシェスタ枢機卿!前へ!」


 ユーシェスタさんが、巻物を筒に戻し、オレの前までおりてくる。


 そして、魔導師がお盆に乗せた本を運んできた。


 ユーシェスタさんがその本を持ち上げる。


「ライ殿、この度はありがとうございました」


「はっ!有り難く!頂戴致します!」


 オレは頭を下げながら、聖典と呼ばれた本と筒を受け取った。


 ユーシェスタさんが教皇様の後ろまで戻っていく。


「以上で!本式典を閉式とします!ライ・ミカヅチ殿!奥様方のご退場!」


 パチパチパチパチ。


 オレたちはその言葉を聞いてから踵を返し、オレを先頭にしてその部屋を後にした。


 扉が聖騎士2人によって閉められる。


「ふぅ……」

 と一息つこうとしたら、


「わぁぁぁ!!」

「英雄様ー!」

「ライ様ー!」

「ありがとー!!」


 クロノス神殿の一階にいた町の人たちがまた大きな声でお礼を言ってくれた。


 これは……帰るまではこの調子かもな……と覚悟する。


 覚悟して、また愛想笑いを浮かべながら手を振って階段を降りて行った。


 クロノス神殿の外に出たら、それはもう、更にすごい歓声だった。


 神殿に入りきらなかった多くの人たちがオレたちのことを見て、声をかけてくれている。


 恥ずかしい……なんて今は言えない。


 動揺しそうになるたびに、ティナに肘で小突かれるからだ。その度にキリッと顔を整えて平静を装った。内心、たくさんの人に見られてドキドキである。


 よし、中央教会までさくっと帰ろう。帰って、さっさとこの服を脱いでシャワーでも浴びて寝よう。そう思ってクロノス神殿の前から一歩踏み出したとき、


 カンカンカンカン!!


 大きな鐘の音がレウキクロス中に鳴り響いた。


 オレと妻たちは、その音が何かわからなかった。


 でも、聞き覚えがあったんだろう。つい最近、その鐘の音を聞いて、恐怖を味わった町の人たちはどんどん青い顔になっていく。


 敵襲だ。

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