第289話 アステピリゴス教国からのお礼

 攻略さんと話してから1ヶ月の月日が過ぎていた。

 この期間、オレたちは中央教会でのんびりと過ごさせてもらい、主にオレの体調の回復に努めてきた。


 あれから数日に一度、オレはクロノス神殿に通い、教皇様に左腕の治療を続けてもらった。今となってはすっかり元通り動くようになって、ちゃんと力も入るようになった。

 さすが教皇様、アステピリゴスで最も治癒魔術に長けた人物、というのは伊達じゃなかったようだ。


 治療期間は結構長い期間かかってしまったが、オレの体調はほぼ万全といえるまで回復した。そろそろ冒険者業を再開してもいいかもな、と考えるほどまでに。


 そうそう、リューキュリア騎士団とウチナシーレの人たちだが、森の中から、レウキクロスのすぐ隣の草原まで居住地を移していた。


 さすがに町の中に全員を収容するのは難しい、ということではあったが、アステピリゴス教国からテントの設営や、食事の配給などが行われており、正門からの入場にも制限はかけられていない。


 この対価として、町の復興作業の労働力としてウチナシーレの人たちは働いていた。


 ウチナシーレの人とレウキクロスの人が一緒に働いているのを見ると、2国間のいざこざも今回の件でかなり薄まったように感じることができた。


 このまま、交流を深めて仲良くなってほしいと願うばかりだ。


 コンコン。


「ライ様、そろそろお時間です」


「あ、うん、わかった、今行く」


 リリィに呼ばれたので、中央教会の個室から廊下に出た。


「……素敵です、ライ様」


「ホントに?変じゃないかな?」


「馬子にも衣装ってやつね!」


「似合ってますよ♪」


 オレは着なれない正装に身を包んでいた。

 似合ってるか不安だったが、みんな褒めてくれる。

 ……ソフィアは褒めてるのかどうかよくわからないけど。


 オレが着ているのは、白を基調とした聖騎士隊の式典用衣装だ。至る所に金の刺繍や装飾が入っており、中世ヨーロッパの貴族服を軍服に改造したらこうなるだろうか、という雰囲気だった。

 結構派手に思えて、着こなせていないように感じていたが、みんなの顔を見た感じ大丈夫そうだった。


「それでは、参ろうかのう。主役が遅刻などしたら大恥をかくところじゃ」


「そうだね、そうしようか。いや、その前に……みんなも超綺麗だよ……綺麗すぎて…魂抜けそうだよ…」


 嫁たちの姿を順番にじっくりと見る。


 みんな、それぞれに合ったドレスに身を包んでいた。すごく、すごく綺麗だった。


「当たり前じゃない!わたしたちは英雄様の妻なんだから!ほら!ミリアもちゃんと見てもらいなさい!」


 ソフィアがミリアの肩をもって前に押す。


「う、うみゅ…おにいちゃん…みて?」


「うん…ミリア…綺麗だよ…ソフィアも最高…」


 そんな感じで全員のドレス姿を順番に褒めて回った。


「じゃから…そろそろ時間じゃと言うのに…」


「あ!だよね!行こうか!」


 ティナの呆れ声で我に返り、オレたちは中央教会の正面から外へと出た。クロノス神殿へと向かうために。


 すると、


「英雄様がいらっしゃったぞー!!」

「ライ様ー!」

「英雄様ー!」

「この前はありがとよー!きまってるぞー!」

「みんな可愛いー!!」


 町の人たちが、大勢集まって、オレたちに歓声を浴びせてくれた。


「な、なにこれ……」


 予想もしていなかった光景に、オレは一歩後ずさる。


「皆さん、今日の式典を楽しみにしていたんですね」


「わぁー!みんなー!ありがとー!」

 コハルが手を振ると、民衆たちは歓声をあげる。


「ほれ、おぬしが主役なのじゃから、手くらい振ったらどうじゃ」

 ティナに肘で小突かれる。


「ええ?……じゃ、じゃあ……」


 オレは乗り気じゃなかったがおずおずと手を振ってみせた。


「わぁぁぁぁ!!」


 溢れんばかりの歓声だった。


「ライブ会場かよ……」


「大人気ですね♪さすが英雄様♪」


「マジで恥ずかしいからさっさと行こうぜ……」


 オレは愛想笑いを浮かべながら、人垣をかき分け、そそくさとクロノス神殿に向かった。


♢♦♢


-クロノス神殿 1階-


 クロノス神殿の中もたくさんの人で溢れかえっていて、正面の無駄に広い階段には聖騎士たちが左右に整列していた。


 国民が入れるのは一階までのようで、階段付近は聖騎士によって固められていた。


 階段の前まで歩いていくと、ウチナシーレに出兵したときに指揮を取っていた男に話しかけられる。たしか、ユーリとかいう聖騎士だ。


「ライ殿、こちらからお上がりください、奥様方もどうぞ」


「う、うん、ありがとう……」


 促されるまま、聖騎士たちの間を歩いて、階段を登っていく。


 その場にいる全員がオレたちのことを見ていた。

 そんなに見ないでほしい……


「おどおどするでない。緊張してもよいが、こういう場では堂々としているだけでよいのじゃ」


「わ、わかった……」


 王族のティナは慣れているのか、実に優雅に歩いていた。


 というか、オレとミリア以外は割と様になっている。みんな、堂々としていてカッコ良かった。


 リリィはユーシェスタさんに礼儀作法を仕込まれ、ステラは元騎士団長だし、コハルは元貴族、ソフィアは……もともと堂々としているか。


 オレとミリアはみんなのことを、しゅごい……なんて思いながら階段を登り切る。


 階段の上には、大きな扉があり、その扉を左右の聖騎士の方が開けてくれる。


 この先は、オレたちのために開いてくれた式典会場だった。

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