第288話 攻略さんに確かめること
オーク討伐から2週間が過ぎた。
レウキクロスの町は完全復興、とまではいかないが、戦いの傷跡は徐々に少なくなっていた。
オレたちが手伝えることもあまり無くなった折を見て、今日はみんなから離れ、1人になれる場所に向かっている。話さないといけない人物がいるからだ。
レウキクロスの正門に向かい、すっかり顔見知りになった門番に挨拶してから外に出る。
10分ちょっと歩いた先の、誰もいない小高い丘の木の下で腰を下ろし、深呼吸をした。
レウキクロスの方を眺める。今日もクロノス神殿の上には巨大な輪っかが浮かんでいた。
そんな風景を眺めながら、あの人に対して話しかける。
いつもみたいに、心の中で。
『攻略さん、いますか?』
『……』
回答はない。
『攻略さん、今回ばかりは話をさせてください。これからのあなたとの関係について、とても大事なことなので』
『……なんですか?』
頭の中に声が響く。攻略さん、その人だった。
『答えてくれて、ありがとうございます』
『……』
『今回の一件、あなたはどこまで見えていたんですか?』
そう、レウキクロスが襲われたこと、リリィが危機に晒されたことについて、攻略さんと話すためにココにきたのだ。
『……』
『答えてください。それ次第では……いえ、答えていただけないのなら、オレはもうあなたに頼らない』
なぜこんなことを言うのか。攻略さんは恩人だったはずではないのか。
単純に考えれば、攻略さんのおかげでリリィを助けることができ、レウキクロスも守ることができた、と捉えることもできる。
あのとき、馬車を止めて待機しろ、と言ってくれたからだ。
だから、ギリギリ間に合った。
しかし、同時に疑問も浮かんでくる。
『あのとき、あなたはレウキクロスにオークたちが襲撃することを予知していましたね?』
『……』
『答えてください』
『……予知、とは違いますが、可能性として把握はしていました』
『じゃあ!………じゃあ、なんでレウキクロスに残れって、リリィのそばを離れるなって、言ってくれなかったんですか?』
予想はしていた回答だった。
だけど、興奮しそうになる。冷静に、冷静にと言い聞かせて、攻略さんの次の言葉を待った。
『それは、その道を選択すれば、あなたが死ぬ確率が高かったからです』
なんだって?
『どういう意味ですか?』
『そのままの意味です。これ以上は言えない規則です』
『……それじゃあ、あそこでもし、馬車を止めなかったらどうなってましたか?』
『リリィは死に、あなたも、仲間も壊滅していた可能性が高いです』
『……なんで今になって……あのとき教えてくれてれば!もっと上手く!もっとリスクをおかせずに戦えたのに!もっと!もっとちゃんと準備して!あいつらを迎え撃つことだって!たくさんの人を救えたはずだ!!なんで!!』
冷静に話そうと決めていた。でも、我慢できなくなって怒鳴るような言い方になってしまう。
知っていたなら、こんな惨状、生み出さなかったかもしれない。
そんな、言い知れない悔しさがオレを支配していた。
『言えない規則なんです、未来のことは』
『……過去のことは言えるってことですか?』
『いえ、今も危うい会話をしています』
『そう、ですか……』
『………申し訳ないとは、思っています…』
『え?』
はじめて、攻略さんからそんなことを言われた。あまり感情があるような人物だとは思ってなかったので驚く。
いや、しかし、馬車を止めろって言ってくれたときは、かなり焦った雰囲気で大声で止めてくれた。
あれがあったから、この人はオレたちのこと心配してくれてるのかな?そう思うことができていたのだ。
『……』
『あの、つまり、こういうことですか?攻略さんは色んな未来が見えていて、その中で最善になる可能性が高いルートを選んで、オレにアドバイスしている?』
『……否定はしません…』
肯定はできない、が間違ってはいない、というように聞こえた。
『答えれないんですね?』
『はい』
そういうルールがあるようだった。
つまり、この人は神様じゃなくって神の使いだから厳しいルールの上でオレと話している。もしくは、神様だけど、天界には破れないルールが存在する。
そんなところだろうか。
『じゃあ、今回の件……攻略さんはどう考えてオレにアドバイスを?』
1番重要なことを質問する。
この回答次第によっては、もうこのスキルに頼らないことも考えていた。
『……あなたたちが、全員生きて、笑えるように。そう、考えていました』
『……そう…ですか…』
なら、もう何も言えない、そう思ってしまう。
やっぱり、この人はいい人なんだ。
生きる道を選んだ。
それだけじゃなく、笑顔でいられる道、そう言ってくれて、オレの信頼はまた取り戻されていく。
『……』
『わかりました。攻略さんは味方、なんですよね?』
『……我々は、人間に肩入れできません。しかし、あなたのことは好ましく思っています。私から言えるのはそれだけです』
『そうですか、わかりました。………うん!わかりました!ちょっとモヤモヤするけど!大丈夫!』
『……』
『攻略さん!』
『なんですか?』
『今回は!リリィを救ってくれてありがとうございました!!』
『……あなたの感謝を受け入れましょう』
『はは!なんですかそれ!攻略さんも不器用な人ですね!あのときは必死に止めてくれたじゃないですか!一歩でも動いたら許さないとかなんとか!オレ結構嬉しかったんですよ!攻略さんもリリィのこと心配してくれてるのかなって!』
『……それでは失礼します』
プチ。
『あれ?』
わかりやすく、通信が切れた感覚が伝わってきた。それから何度呼びかけても攻略さんは答えてくれなかった。
怒らせちゃったかな?からかいすぎた?
まぁいっか、次スキル使うときにでも謝ろう。
そう思ってオレは腰を上げる。
そして、スッキリとした気分で、大好きなみんなと笑い合える時間を想像しながら、レウキクロスへの帰路を歩いて行った。
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