第287話 復興作業

 犠牲者たちがクロノス神殿前に集められた当日、クロノス教魔導師団の方々が浄化の魔法をかけて、遺体を綺麗にしてくれた。


 そして、翌日には遺族がわかっている遺体から火葬が始まった。


 犠牲者は丁寧に扱われ、灰になっていく。


 とても、寂しい光景だった。


 その傍ら、町の中に散乱したオークの死骸も処分していく必要があった。町の外に運び出し、その辺の草原で焼却処分していく。

 こんなしんどい作業を、なんとリューキュリア騎士団の皆さんが手伝ってくれることになった。ジャンたちは嫌な顔をせず、手際よく死骸を台車にのせて町の外に運んでいく。


 もちろんオレたちも働いた。犠牲者の対応は申し訳ないが辛すぎて出来なかったが、オレたちは冒険者だ。モンスターの死骸なら対応できる。


 主にソフィアとティナ、ミリアの重力魔法が運搬作業で活躍し、前衛職は台車を引いて運ぶのを手伝った。


 このころには、オレの左腕も動くようになっていて、首から布でぶら下げる必要はなくなった。教皇様の回復魔法のおかげだ、本当に感謝しかない。


 そんな左腕の調子だが、力はまだ余り入らない。でも、普通に動かすには問題ないので、これくらいの作業なら問題なくこなすことができた。


 オークの死骸を運搬してるとき、ミリアは青い顔をしていたが頑張ってくれたし、リリィはみんなに寄り添って頻繁に回復魔法をかけてくれた。


 リューキュリアの人もレウキクロスの人も、大勢で働いたと思う。


 それでも、1日経ってもこの作業は終わらなかった。それだけ大量のオークが町に入ったのだ、と実感した。


 翌日も続けて作業し、なんとか暗くなる前には全ての死骸を処分し終わった。


 このころには、町の中もかなり元の様子を取り戻しつつあった。


 数日前には血まみれだった大通りは、浄化の魔法ですっかり綺麗になり、壊れた建物は大工さんたちが活気よく修理している様子が見られるようになる。


 今回の襲撃で、建物の被害はあまりない、とは言っても何軒かは燃えてしまったし、オレとクリスが戦った中央教会前は結構な損壊具合だった。

 だけど、町の人たちは文句なんて言わず、元気よく声を出して復興に前向きに取り組んでくれた。


 もちろん、オレたちもなるべく手伝った。


 家族全員で働いていると、


「おお!英雄様!今日もありがとうございます!」

「英雄ライ様じゃないか!英雄のあんたは休んでてくれよ!」


 そんなことをそこら中で言われる。勘弁してほしい。


 そのたびに、

「活躍したのは聖剣様ですよー、ははは」

 と適当に誤魔化しておいた。

 ……誤魔化せてる感じでもなかったけど。


 とにかく、オレのことはどうでもよくって、数日間レウキクロスの復興を手伝う日々を過ごすことになったのだ。


 その間、オレたちは中央教会で寝泊まりした。


♢♦♢


-ある日の晩-


「そういえば、リリィって結界魔法習得したんだよね?」


 今更ながら、巨大オークと戦った日のことを思い出して質問した。


 あのとき、リリィは、金色に輝く六角形が集まったような結界をたしかに張っていた。そのおかげで、リリィ自身も、あそこにいた多くの人たちも助かったのだ。


「はい、習得いたしました。あー……いえ、一応発動はできるようになりましたが、お母さんにはまだまだ及びません」


「そうなんだ?」


 首を傾げながら、隣にいるユーシェスタさんの顔を覗き込む。


「リリィは謙遜しすぎです。1ヶ月もせずに習得したことが凄いんです。結界の精度なんてすぐに習熟するでしょう。あなたはもっと自信をお持ちなさい。すぐに私なんて追い抜くことは明白です」


「おお、枢機卿のお母さんのお墨付きだ」


 一緒に食卓を囲んでいたユーシェスタさんが誇らしげにリリィのことを褒めてくれた。


「これだけ早く結界魔法を習得した人物は数えるほどしかいないはずです。ちなみに私は2ヶ月かかりました」


「リリィって修行はじめて2週間くらい?だったよね?」


「え、ええ……」


 母親に褒められるのが照れくさいのかモジモジとするリリィ。


「すごいじゃん!やっぱリリィは天才なんだね!」


「そうです!リリィはすごい子なんです!自慢の娘なんです!」


「オレも自慢の妻だよ!」


「そんな……ライ様……お母さんまで……」


「ふふ、リリィが恥ずかしがって何も言えないのって新鮮ね。ライにはちょいちょい反論するし」


「うふふ♪そうですよね♪今回の修行のときなんて1人でユーシェスタさんのところに行くなんて言い出して、ライさんのこと泣かしてましたし」


「なんですか?その話、面白そうですね、興味があります」


「ちょ、ちょっと勘弁してくれよー」


「ステラ、怒りますよ?」


「今のリリィなら怖くありませ〜ん♪」


「ステラ、話しなさい。このライという男がどんな人物なのかもう少し知りたいので」


「わかりましたー♪」


 お義母さんに話すのなら、もっといい話にしてくれー、と思いながら、笑顔が絶えない時間を過ごすオレたちだった。

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