第258話 聖剣としての再会

『ピロンピロン』


 ん?


 みんなで朝食を取っていると、頭の中に警告音が鳴り響く。


 攻略スキルさんが緊急のときに知らせてくれる音だ。

 なんだろう?


 こっそりと目を閉じて、内容を確認する。


------------------------------------------------------------------------------------------------

2日以内にリリアーナに結界魔法の修行を開始させてください。


リリアーナ以外の全員で教会に赴き、リリアーナがいないときにユーシェスタに話しかけてください。


1人ずつ、リリアーナのことが大切だという気持ちをユーシェスタに伝えるとよいでしょう。

------------------------------------------------------------------------------------------------


『なんですか?これ?』


 頭の中で攻略さんに質問する。


『……』

 しかし回答はない。


 リリィはすでにオレの奥さんだ。

 攻略対象でもないのに、なんのアドバイスなんだろう?


 ………え!?もしかして!?


 不安になって、すぐにリリィの好感度を確認する。


-----------------------------------

リリアーナ・クローバー

 好感度

  100/100

-----------------------------------


 ほっ、カンストしたままだ。下がってるわけじゃない。


 つまり、好感度が下がったから、改めて攻略しなさい、というアドバイスではないようだ。

 では、なぜ?

 また疑問が生まれる。


『攻略さん?あのー』


『……久しぶりに確認したわりに、図々しく質問してきますね』


『ご、ごめんて……』


 めんどくさい彼女みたいなことを言われる。

 言われてみれば攻略スキルを使ったのは久しぶりだけど……


『そうですか、めんどくさいですか』


 ゲゲ!?

 そうか頭の中で思ったことは、攻略さんに伝わるのか。


『あ、あー……す、すみませんでした。オレが幸せなのは攻略様のおかげです。なにとぞご容赦ください』


『……とにかく、アドバイスに従わなければ、あなたは一生後悔するでしょう』


『な、なにを……』


「おにいちゃん?」

 ぷにぷに。


 隣のミリアに声をかけられ、目を開ける。


 机の上のぽかへいがオレの腕を突いていた。


「おねむ…なの?」


「ううん、ちょっと考えごと、ありがとな」


「うゆ…はむ…」


 ミリアはその答えで安心したのか、パンをハムハムと食べ始めた。


 目の前のぽかへいは首を傾げている。


「なんでもないよー」


 ぽかへいの頭をよしよしと撫ででおいた。


 ペシッ。


 しかし、その手を払われ、オレから離れていくウサギのぬいぐるみ。

 お?こいつまた反抗的になってきてる?

 もう一回わからせないといけないかな?


 いや、今はそんなことはどうでもいいか。それよりも、攻略さんからのアドバイスだ。


 今まで攻略さんのアドバイス通りにして、悪いことが起きたことはない。逆に、無視して何が起こるのかはわからない。


 しかも、【一生後悔する】、なんて不吉なこと言われたら放ってはおけない。


 やはり、従うしか、従わせていただくしか選択肢はないだろう。


 そう結論づけて、

「みんな、ちょっといいかな?」と声をかける。


 みんなに今日の予定を伝えることにした。



「あ!おーい!ライ!みんなー!」


 全員でリリィが修行に行ってる中央教会めがけて歩いていると、正面から金髪のイケメンが駆け寄ってきた。


「帰ってきたなら声かけに来てよ!心配するだろ!」


「あー、すまんすまん」


 クリスタル・オーハライズ、レウキクロスで聖剣様と崇められてる男だ。


「髪の毛……金色…だね…」


 ミリアがオレの後ろに隠れながら、クリスの頭を見ながらつぶやいた。オレたちが見知っている黒髪は見る影もなかったからだ。


「あ、そうだよね。改めて、僕はクリスタル・オーハライズ。アステピリゴス聖騎士隊で聖剣の地位を拝命してるものだよ。今まで黙っててごめんね」


 クリスは自己紹介のあと、丁寧に頭を下げた。オレには昨日謝ってたけど、パーティのみんなにも謝りたかったようだ。


「別にいいわよ、知ってたし」


「そうじゃな」


「マジかよ……でも、ライが気づいてたなら、そりゃみんなも知ってるよね…」


「ホントに気づかれてないと思ってたんですね〜。クリスさんって意外とお茶目で可愛いですね♪」


「む、ステラさん…」


「すみませーん♪ライさん意外の男に興味はありませんよ♪」


「よろしい」


「……えー!クリス!?クリスって聖剣様だったの!?だからあんなに強かったんだー!!それがエクスカリバー!?なんで刀にしてたの!?どうやって形変えたの!?」


 コハルがクリスに詰め寄っていた。


「あれ?コハルにも説明したよね?」


「したけど、うたた寝してたわよ」


「マジかよ…」


「あはは、キミたちは相変わらず面白いなー」


 クリスは、コハルをドードーと落ち着かせて、聖剣について説明をはじめる。


「エクスカリバーは所有者の意思で好きな武器に変形できるんだ。でも、真骨頂を発揮するのはこの大剣の形状で、市民の皆さんにも大剣モードしか見せてないんだよ。だから、この姿のときは大剣で戦うようにしてるんだー」


「へー!面白いね!ボクもエクスカリバー使ってみたい!」


「ははは……エクスカリバーは所有者と認めた者以外が触るとブチ切れて攻撃してくるよ?」


「なんだそれ、呪いの武器かよ」


「……ははは…」


 冗談で言ったつもりだったのだが、見るからにテンションが下がるクリス。


「ん?どうかしたか?」


「いや、べつに…」


「なんかすまん」


「ううん、大丈夫。それで、昨晩はどうだった?」


「あぁ、それなら――」


 オレは昨晩、無事に食糧を届けて、民衆に食べさせるのに成功した、という内容をクリスに伝えた。


「おぉー、それは良かった。さすがエポナ様の力だね。でも、ホントに神様として信じさせるなんてスゴイよ」


「うちのティナは超美人だからな!オレは成功することを確信していた!」


「やめるのじゃ、人前で…」


「ははは、でもそうだよね。ティナさんはどこか神秘的なところがあるし、神様だって言われても納得かも」


「わかってるじゃないか!でも、ティナはオレのだから!」


「おぬし…」


 ティナは恥ずかしそうにしているが、特に止めはしない。


「はは、えーっとさ、水を差すのは悪いんだけどさ、そもそもの問題って……」


「ん?あー、そうだな、オレたちがやったことは問題の先延ばしに過ぎない。依然として彼らはピンチだ」


 クリスにつっこまれて冷静に回答する。オレたちが渡した食糧は、節約しても1週間ほどしかもたないだろう。


 つまり、1週間後、また同じ問題が発生する。食糧不足だ。


「だよな……ちなみに、これからのプランは?」


「ノープラン」


「まぁ…そうだよな、解決する方法なんてそうそう思いつかないよな…」


「そこはほら、聖剣様の財力でなんとか」


「いやいや、そりゃ、あと1ヶ月とかは延命できるかもしれないよ?でもさ、そのうち、レウキクロスの人が在庫不足で食糧売ってくれなくなるよ。この町の食糧が不足したら神殿にも目をつけられるし」


「まぁ、そうだよなぁ。じゃ、おまえもなんか考えといてよ、よろよろー」


 そう言い残して、オレは立ち去ろうとする。オレは忙しいのだ。リリィのために中央教会に行かねばならぬのだ。


「は?ちょ!!おいおい!それはあまりにテキトーすぎないかい!?」


 クリスがなんか言ってるが、手を振ってスルーして歩き続ける。


「すまぬな、家族の問題なのじゃ」


「そうね、今はこっちを優先するわ、じゃ、また」


 妻たちもオレについてきてくれる。


 そんなオレたちの後ろ姿を見ながら、


「……なんだよ、戦争になるかもってときに……はは、でも、そっか、家族優先か……ホント、いいパーティだな…」


 聖剣と呼ばれている男は笑顔で彼らを見送っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る