第254話 エポナ様大作戦

「先ほどは、醜態を、失礼しました」


「いや、大丈夫だよ」


 落ち着いたサンディアは、テントの中の椅子に座り、オレとジャンも机を囲んで座っていた。

 みんなにも、椅子を出して座ってもらっている。


「それで、あなた方は?」


 オレたちは、リョクとショウの面倒を見ていて、その縁があってリューキュリアの人たちに食糧を届けに来たことを伝えた。


「なんと……なんと慈悲深いお方なのだ…」


 サンディアはいたく感動していた。

 恥ずかしい。


「それで……その……なぜ、エポナ様が……いや…エポナ様、なのですか?」


 サンディアは冷静になって気づいたのだろう。

 こんなところに神がいるなんておかしい、と。


「あ、この子は、エポナ様じゃないよ。オレの奥さん」


「ティナルビア・ノア・アスガルドじゃ」


「アスガルド?アスガルド王国のエルフの方?ですか?」


「そうじゃ」


「しかし……瓜二つだ……」


「そのようじゃな」


「んでさ、いいかな?」


「え?あ、はい」


 ティナの紹介が済んだところで本題に入る。


「食糧を持ってきたはいいんだが、調達できたのは、半分くらいが肉類なんだ。それで、エポナ教って肉食べないんだよな?」


「はい……そうですね……」


「まぁ、宗教のことはよくわからないけど、とにかく、持ってきた食糧の中から肉類を省いたりしたら、量が圧倒的に足りなくなる」


「そう、ですよね…」


「で、肉類を食べるな、モンスターの肉を食べるなって司祭たちが言ってるらしいけど、おまえもそれについては賛成なのか?」


「……日常であれば…」


「つまり?」


「……非常時は、違うかと…」


 素晴らしい考え方だ。ジャンの見立て通り、話が通じるやつで良かった。


「じゃ、上手いこと他の司祭を説得しよう。それが無理でも民衆だけならなんとかなるだろう」


「しかし、どうやって?」


「とりあえず、肉入りの料理をたっぷりと用意する、匂いが漂うような料理だ」


「はい」


「すると、極限状態の民衆が群がってくるだろ?」


「そうでしょうね……」


「で、肉が入ってたらどうなる?」


「司祭たちが食べるなと騒ぎ出します」


「で、そこにエポナ様が登場して、食えって言います」


「それは………演出次第では……ないかと……」


「じゃ、その演出考えて」


「え?」


「何もできないのが嫌なんだろ?考えて、すぐに」


「…はい、わかりました」


 ということで、無理難題を押し付けている感はあるが、この話が分かる司祭、サンディアの考えがまとまるのを待つことになった。



「――、以上が私の考えです」


 オレたちは机を囲んでサンディアの考えを聞いていた。


 【ティナにエポナ様の演技をさせて民衆に肉を食わせる大作戦】についてだ。


 この作戦会議には、騎士たちの治療を終えて帰ってきたリリィたちに加え、サンディアが招集した2名の若い司祭も参加していた。


「まぁ、その作戦でいいんじゃないか?上手くいかなかったら、最悪、騒いでる司祭たちをオレたちで気絶させるわ。そしたら民衆は我慢できなくなって食べるだろ」


「その際は……お手柔らかにお願いします」


 サンディアは、やめろ、とは言わない。同僚よりも民衆を優先する、ということだ。


「了解、でも、たぶん上手くいくでしょ」


「不安しかないのじゃ……」


「ティナなら大丈夫だよ、こんなに綺麗で神秘的なんだもん。誰も気づかないよ」


「お、おぬし、やめぬか……みなが見ているではないか……」


 ティナは赤くなって、居心地が悪そうにモジモジする。


「ホントに……エポナ様ではないのですね……」


 その人間らしい様子を見てなのか、若い司祭がそんなことを呟いていた。


「よーし!じゃあ!ステラ!みんなと一緒に料理の準備を頼む!」


「はい!任せてください!」


 オレが号令をかけると、ステラが料理班となったみんなを連れてテントの外に出る。テントの外にいた騎士たちも手伝って、バタバタと準備が始まった音が聞こえてくる。


 テントの中には、エポナ様大作戦に参加するメンバーが残っていた。


「ねぇ」


「なぁに?」


「1日に2回も神級魔法なんて使ったら倒れるんだけど?」


 ソフィアが恨めしそうに睨んでくる。


「ごめんね、倒れた後はずっと抱っこしててあげるから。がんばってくれないかな?」


「……抱っこ」


「え?」


「……お姫様抱っこなら……いいわよ…」


「もちろんだよ、ソフィア姫」


「ふんっ」


 ソフィア姫の方はなんとかなりそうだ。

 というのも、サンディアが考えたエポナ様登場シーンには、ソフィアの神級魔法が必須演出だったからだ。


 なぜなら、お昼の戦闘のとき、紫の雷が鳴り響いた後、エポナ様が現れた、という噂が民衆たちに瞬く間に広がったらしく。

 もう一度、紫の雷を見せれば、より信憑性が増すだろう、という考えのもと作戦が立案された。


 悪くない考えだ。

 でも、さっき話した通り、ソフィアには負担をかけてしまう。ティナもだが、2人には働かせっぱなしで申し訳ない。


 これが終わったら、2人とも、いや協力してくれたみんなのことを労ってやらないとな、と考える。

 そう思いながら、サンディアたちと、最後の打合せを行った。



 料理の準備をはじめると、テントの外はすぐに騒がしくなってきた。


 ステラの料理の匂いに民衆が集まってきたのだ。


「よーし、みんな頼んだぞ」


 オレはティナ、ソフィア、そしてサンディアたち司祭三人衆に目配せして、頷くのを確認してから、テントの裏からこっそりと外に出た。


 エポナ様大作戦のはじまりだ。

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