第252話 子どもたちの家族のもとへ

「みんな、大丈夫か?」


 レウキクロスの正門から出て、森の入り口でコハルたちと合流する。


「ボクたちは大丈夫!働いたのソフィアだけだしね!」


「そっかそっか、それならよかった」


「よくないわよ!めちゃくちゃな指示出しといて!」


 神級魔法を人に当てずに打てっていう指示のことだろう。


「ソフィアのこと信じてたからだよ?」


「そ!そんなこと言っても誤魔化せないんだから!」


「わかった、なんでも言うこと聞くから」


「なんでも?ふ、ふーん、それならいいかもね!」

 ぷいっ!


 ご機嫌斜めのソフィア嬢は腕を組んだままそっぽを向いてしまった。かわいいけど、今は愛でている時間はない。


「リョク、ショウ」


「はい……」

「なぁに?……」


 2人は暗い顔をしている。さっきの戦いを見て不安になっているのだろう。


「おまえの父ちゃんと兄ちゃんは無事だ」


「ホントですか!?」

「そうなの?」


「うん、この目で見たから大丈夫だ。それと、さっきは咄嗟にレウキクロス側につくって言ったけど、おまえたちのこと見捨てたりなんてしないから、安心しろ」


「は、はい!ありがとうございます!師匠!」

「ライお兄ちゃん優しいね!」


「ま、それは置いといて」


「ボクの旦那様は勇者様みたいだね!」

「ピー!」

「おにいちゃん…かっこいい…ね?ぽかへい」

……こくり


「……えーっと、2人は大人たちに合流できるのか?」


「はい……道案内の魔道具があるので……父のところには行けます」


 リョクは言いながらコンパスのようなものを見せてくれる。


「そっか、なら連れてってくれ」


「え?いや、それは……」


「口止めされてるってのは知ってる。でも、もう首を突っ込まずにはいられない。わかるな?大丈夫、別に戦いに行くわけじゃない。助けたいんだ」


「は、はい……わかりました……」


「賢い弟子で助かる」


「で、では、父の元に向かいます。ですが、あの、そちらの方は?」


 リョクがリリィのことを尋ねる。そうか、初対面だったな。知らない人は連れていけない、そういうことだろう。


「はじめまして、わたしはリリアーナ・クローバー。ライ様の妻です。よろしくお願いしますね、リョクくん、ショウくん」


 リリィは屈みながら2人の目線に合わせて、笑顔で挨拶をする。


「あ、えっと……よ、よろしくお願いします……し、師匠のお嫁さんですか…でしたら、大丈夫です…」


 リリィに挨拶されたリョクは赤くなって下を向いた。

 ん?なんだこいつ?


「あらあら?リョク、浮気ですか〜?リョクは、私とリリィみたいな清楚系美人が好みなんでしょうか?」


「う、うわき?……そんな、ステラお姉さん…」


「清楚w清楚ってwリリィはともかく誰が清楚ですってw」


「………ライさん、今晩はソフィアをいじめたいです、徹底的に」


「ドードー、ステラは清楚でも清楚じゃなくても可愛いし、大好きだよ。ソフィア、やめなさい」


「うふふ♪そうですか♪あら?なんだかよくわからない丸め込まれ方をしてるような??」


「はぁーい……ぷぷw」


 しょうもないケンカをはじめそうだったが、気を取り直して、


「じゃ、リョク、案内頼む」


「はい、師匠」


 オレたちは、リョクたちの父親、ジャン・フメット騎士団長の元を目指し歩き出した。


 戦場で会った感じ、厳ついおっさんではあったが、話が通じない相手では無さそうだった。だから、まずはあの人と話そうと考える。


 リョクの後ろについて、すっかり日が落ちた森の中を進んでいく。オレ含め、ライトの魔法が使えるメンバーが足元を照らしながら夜道を歩いていった。


 1時間ほど歩いただろうか。人の話し声が聞こえてきた。


「だから――のだ!」

「しかし――それでは――!」


 正面の木々の間から見えるところには、大きなテントが張ってあり、その中から声が聞こえてくる。


 テントの中は明かりが灯っていて、人影が何人かチラチラと映り、その声質から、揉めていることが伺えた。


「リョク、あの中か?」


「はい、たぶんそうだと思います」

 リョクはコンパスを確認しながら答えた。


「いきなりオレが入ったらマズいよな?」


「はい、騎士たちに囲まれるかと」


「じゃあ、うーん、ユウを探すか。この辺にいるだろ」


「そうですね、僕がショウと一緒に探してきます」


「頼んだ」


 オレたちは森に身を隠したまま、待機する。


 しばらくすると、リョクたちがユウを連れて戻ってきた。


「ライさん!先ほどはありがとうございました!」


「おいバカ!声抑えろ!」

 言いながら、しゃがむようにジェスチャーする。


「は!?は、はい、すみません」


 ユウは声を抑えてオレの前にかがみ込んだ。


「んで、怪我は大丈夫なんか?」


「怪我?兄さんが?」


「はい、おかげさまで、この通りです」


 ユウは服をずらして肩を見せてくる。あいつに斬られた刀傷は見当たらなかった。


「やっぱエリクサーってすげーな。正直、おまえ死んだと思ったわ」


「死んだ?兄さんなにがあったんですか?」


「それはな!ライさんがな!」


「今はそれはいい、おまえの父ちゃんに会わせてもらうことってできるか?」


「父にですか?えー……今はあの通り会議中ですが…」


「そこをなんとか」


「は、はい、では少し聞いてきます」


 ユウが立ち上がってテントの中に入っていく。


 そしてすぐ戻ってきた。


「会議の邪魔するなって言われました」


「んー……エポナ様が来たって言ってきてよ」


「え?あ、はい、わかりました」


 ユウがまたテントに向かっていく。


「おい、おぬし…」


「ごめん、ティナ、ここは協力して」


「気が進まんのじゃ…」


「あとでなんでもしてあげるから」


「うーむ……それならば…」


「あんた、誰にでもそういうこと言うのね。ふんっ」


 ソフィアたんが不機嫌になってしまう。

 あぁ、さっき同じ手を使ったんだった。仕方ない、今度めいいっぱいご奉仕しよう。


 テントを見ていると、何人か知らない顔がテントから出ていき、その後、ユウが出てきて、こちらに手を振る。頭の上で丸を作ってるので、許可がおりたのだろう。


 その合図を確認してから、オレたちは全員でテントへ向かった。

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