第251話 金髪シスターと母親

 レウキクロスに入ったら、すぐにリリィと合流し、ステラとティナも合わせた4人で食糧を買い漁って回った。


 他のメンバーは森の入り口付近で待機させている。


 食糧の調達が終わったら、森に向かうべく、すぐに正門を目指す。


「どこに行くのですか?」


 そんなオレたちを聞いたことがある声が呼び止めた。


「おか…ユーシェスタ様…あの、これは…」


 リリィの育ての親、ユーシェスタさんだった。リリィは毎日教会に通って顔を合わせていたはずだが、オレが会うのは二度目、かなり久しぶりだった。


 ペコリと会釈をする。


 ユーシェスタさんはオレを一瞥してから、リリィに向き直る。


「リューキュリアの兵士と戦いがあったと聞きました。このような状況で、どこに行く気ですか?」


 シスター服を着たその女性は、はじめて会ったときと同じように鋭い眼光でリリィを睨む。


「それは……」


 リリィは言い淀む。本当のことを伝えても大丈夫なのか、悩んでいるのだろう。それか、伝えたら怒られる、それがわかって黙っているのかもしれない。


「リリィ、ここはオレが、いいかな?」


「は、はい…」


 オレはリリィの横に立って、ユーシェスタさんの方を見る。


「なんですか?私はリリアーナと話しているのですが」


「割り込んでしまってすみません。オレたちはこれからリューキュリアの人たちに食糧を届けに行きます」


「な!?なにを言っているんですか!リリィ!!」


 ビクッ。

 隣のリリィが怯えたのがわかる。母親からの叱責を浴びた子どもそのもののリアクションだった。


「すみません。この件はオレのわがままです。なので、リリィのことは怒らないでください」


「しかし!ついて行くというならば同じことです!それにどういうつもりですか!敵国に食糧など!」


「敵国?敵国ってなんですか?この国とリューキュリアが戦争してたのはずっと前のことですよね?」


「それは……そうですが、現に今日襲撃があったではありませんか」


「襲撃じゃありません」


「では、なんだったというのですか?」


「それは、これから詳しく聞きに行くつもりです。ですが、おそらく食糧を分けてもらいに来たんだと思います」


 オレは彼らがウチナシーレからモンスターに追われて逃げてきて、森でひもじい生活をしているという事情をユーシェスタに説明した。


「しかし……現に戦いがあったのでは……報告では、向こうから攻撃してきたと聞いています…」


「オレもその場にいましたが、リューキュリア側はほとんど攻撃していませんでした。レウキクロス側の神官や一部の年配の騎士たちが放つ攻撃を受け止めていただけなんです」


「な、なぜそのようなことが?」


「わかりません。とにかく、門が閉鎖される前にオレたちは行きます」


 正門の方をみると、なんだか慌ただしくなってきていた。今は緊急事態だ。いつ閉鎖されてもおかしくない。


「いけません!なぜあなたたちが行く必要があるのですか!?」


「……オレたちは、この1か月、リューキュリアの子どもたちと森で一緒に過ごしてきました。今日、そいつらの兄貴が、レウキクロスの聖騎士に斬られたんです」


「……」


 オレが暗い顔をしていたからか、ユーシェスタさんも難しい顔になる。


「そいつは、なんとか命を拾いましたが、ホントに馬鹿なガキで、でも、弟たちのことを大切に思って、家族を守りたいって思ってるのは知ってました。斬り殺されていいやつじゃない」


「……」


「だから、助けたい、そう思います。すみません、これで」


「……せめて、娘は!娘は置いていきなさい!」


 娘を心配しているだけだったのか、胸に片手を当てて、不安そうな顔をしている。先ほどまでの鋭い眼光は消え、子どもを心配する母親の顔に見えた。


「すみません、怪我人の治療にリリィは必要です」


「む、娘はクロノス教のシスターです!エポナ教には関わらせません!」


「お母さん……」


 ユーシェスタさんが駆け寄ってきて、リリィの腕を掴む。

 ユーシェスタさんの最後の抵抗だった。でも、その言葉にオレは違和感を覚える。


「……クロノス教は差別をするんですか?」


「な、なにを……」


「オレは、異国の地で町の人たちに虐げられても、誰にでも優しく慈悲深く接していたリリィに恋をしたんです。だから、クロノス教は誰にでも平等な素晴らしい宗教だと感じて、信じてきました」


「……」


「もし違うなら、妻には宗教を捨てさせます」


「……」


 ユーシェスタさんはリリィの腕をゆっくりと離した。


「すみません、これはオレのわがままなんです。リリィのことは命に変えても守ります。失礼します」


 オレは、もう一度頭を下げて、正門に向けて歩き出す。


「ごめんなさい、お母さん、私は旦那様についていきます」


「……なにかあったら、すぐに逃げなさい」


「はい」


 ユーシェスタさんとリリィの会話を聞いてから、オレたちは4人一緒に町を出た。

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