第250話 戦争
「襲撃だー!聖騎士隊前へー!!」
「町を守れー!!」
「敵国だー!殺せー!!」
レウキクロスの正門で、聖騎士隊とクロノス教の神官たちが何かと戦っている。
何か、それは人間だった。
相手は黒髪の男たち、兵士のように見えた。
「まさか!?父さんたちが!?そんなはずありません!食糧を分けてもらいに行くって!それだけだって!」
リョクが青ざめた顔で焦ってまくしたてる。
「わかった!今はそれはいい!悪いがオレたちはレウキクロス側につく!」
パーティのみんなを見て、戦えそうなメンバーを確認する。
ステラ、は大丈夫そうだ。
ソフィア、だめだな、顔が青い、ミリアも。
「ライ!みんな!すまない!」
オレがどう動くか、誰を連れて行くか考えていると、隣のクリスが突然叫んだ。
「いくぞ!エクスカリバー!」
クリスは腰の刀を抜き上げ走り出す。
エクスカリバーと呼ばれた刀は姿を変え、大剣の形になった。
あのとき、聖騎士隊の行進で見た大剣だ。
そして、駆けていくあいつの髪は金色に染まっていく。
そうか、やっぱりあいつの正体は……
いや、そんなこと予想できていた、今はどう動くかだ。
「ど、どど!どうするのよ!?」
ソフィアは杖を両手で持って震えていた、とても人間相手に戦える様子ではない。
「ソフィアとミリア!コハルはここで待機!自分の身と子どもたちを守れ!指揮はコハルがとれ!」
「わかった!」
「ステラ!ティナ!ついてこい!」
「はい!」
「わかったのじゃ!」
オレは2人を連れて走り出す。
「わかってる思うが誰も殺すな!」
「はい!」
「もちろんじゃ!」
『リリィ!そっちは大丈夫か!?』
『はい!町の中にはまだ侵入されていないようです!』
『わかった!自分の身の安全を優先しろ!』
『わかりました!』
走って正門まで近づくと、レウキクロス側の戦力が優勢なのがすぐわかった。
「殺せ殺せ」と叫んでいるのは、主に年配の神官たちで、若い聖騎士は戸惑った様子で戦っている。
リューキュリアの騎士たちはもっと困惑した様子だ。
「待て!我々は戦う気はない!」
「やめてくれ!」
リューキュリア側からそんな声が聞こえてくる。
「なんなんだこれは……クリス!」
どうすべきか逡巡していると、見知った顔がリューキュリアの騎士と戦っているのを見つけた。
しかし、明らかに手加減している。あいつだって殺したくないんだ、とわかって安心する。
「ライ!……ごめん」
クリスに近づいて剣を構えると、すぐに謝ってきた。おそらく身分を隠していたことへの謝罪だ。
「そんなことどうでもいい!これどうすんだ!」
クリスと背中合わせになって話す。
「止めるしかないだろ!」
「でもどうやって!」
「相手は戦う気がない!神官たちを黙らせれば!」
「そうか!ティナ!土壁を!神官たちを分断しろ!」
「わかったのじゃ!ロックウォール!アイアンウォール!」
ティナが魔法を唱え、クロノス教の神官たちの魔法が、声がこちらに届かないようにする。
「聖騎士隊!集合!!聖剣の元へ集え!!」
クリスが騎士たちに大声で呼びかける。その声を聞いた周りの何人かは集まって来た、みな若い騎士たちだ。
「くそ!とまらない!」
戦いをやめた聖騎士隊はほんの一部で、オレたちの周りだけだった。
どうすれば、どうすれば止められる!?
「リューキュリアの騎士たち!誰も殺すな!誰もだ!これは騎士団長からの命令だ!破ったものは極刑に処す!」
バカでかい声のおっさんが遠くで叫んでいるのが聞こえてきた。リューキュリア側の騎士だ。
「あれは……リョクの父ちゃんか!?クリス!いくぞ!」
「あぁ!!」
オレとクリスは2人で駆け出して、騎士たちの間をぬって走る。
誰も傷つけないように、剣戟だけを弾いて、大声の元へ辿り着いた。
「おい!あんた!リョクとショウの父親か!?」
「なんだ貴様は!?」
黒髪のその大男は、歴戦の猛者の風貌であった。片目は刀傷のようなもので塞がっているが、見えているもう片方の目はとても鋭く光っている。オレよりも一回りデカい身体だった。そして、他の騎士とは異なる立派な鎧を着ている。こいつが団長で間違いないだろう。
「2人にメシ食わせてた冒険者って言ったらわかるか!」
「なに?それは…」
「略奪しにきたのか!?」
「そんなわけがあるか!」
「なら引け!」
「わかっているが!この状況では!俺の指示が届かんのだ!」
戦場は大混乱だった。そこかしこで斬り合いが起こっていて、陣形もなにもあったもんじゃない。
「クソ!!」
『ソフィア!聞こえるか!』
『な!なによ!』
意識共有でソフィアに語りかける。
『威嚇射撃で神級魔法を戦場の周りにぶち込め!』
『は!?はぁ!?誰か死ぬわよ!?』
『おまえの腕を信じてる!』
『な、なによそれ!』
『できないのか!?』
『で!できる!できるわよ!やってやろうじゃない!』
ソフィアに指示を出すと、彼女がいる方の空が曇り出す。詠唱が始まったのだ。
「おい!あんた!ジャンとかいう!」
「なんだ!」
「今から神級魔法で一旦戦場の空気を変えてやる!そのときに撤退命令を出せ!」
「承知した!」
「ティナ!」
「なんじゃ!」
「もしものときは!」
ティナに保険のための指示を出す。
ガガーン!!
周囲に紫色の落雷が降り注ぎ出す。
「な!なんだ!?」
「神級魔法!?バカな!?」
「撤退!離れろ!」
ソフィアの神級魔法を見て、騎士たちが戦いをやめ、レウキクロス側もリューキュリア側も、お互いに一歩下がって睨み合う。
どちらからの攻撃なのか、わからないからだ。
ガーン!!
「……」
「……」
そして、ソフィアの神級魔法が終わる。
戦場は一旦の静寂を得た。
「てったーい!!撤退だー!!」
ジャンの大声が戦場に鳴り響く。
「撤退!撤退ー!!」
その声を聞き、リューキュリアの騎士たちが撤退をはじめた。
「ふぅ、これで一旦は……」
「逃すか!!この略奪者どもが!!」
しかしそこに、レウキクロス側から、年配の聖騎士が駆け出してきた。
そして、
「このクソガキがー!!」
「や、やめ!我々は!」
ザシュ。
何度か剣を受け流したあと、そいつは肩から胴にかけて斬りつけられ、崩れ落ちた。知っている顔だった。
「ユウー!!貴様ー!!」
ジャンが駆け出す、騎士団長の突撃だ、つまり、
「団長に続けー!!」
最悪の展開だった。
「クリス!そっちは任せた!」
「わかってる!!」
オレたちは、ジャンを追い抜き、オレはユウを、クリスはユウを斬ったバカの対応に走る。
バカはクリスにぶん殴られて吹っ飛んでいった。
オレはすぐにユウにエリクサーをぶっかけてやる。
「う……ライ…さん?」
「バカヤローが!おい!ジャン!息子は生きてる!引け!」
オレはユウを抱え上げ、ジャンに向かって放り投げてそう叫ぶ。
驚いた顔でユウを受け取ったジャンは、安心した顔を一瞬見せるが、納得はしていない顔になった。
「しかし!」
「うるさい!あぁもう!ティナ!」
「ロックウォール!」
ティナの魔法で、再び、戦場を分断する。
そして、その土壁にはティナが立っていた。
「リューキュリアの子らよ!ここは引け!これは神命じゃ!」
ロックウォールの頂上にいるティナが叫ぶ。
「な、なんだ?あいつは?」
最初、ティナの姿を見た何人かは、その姿を呆然と眺めていた。
そして、
「………エポナ様?」
騎士たちに囲まれ、運ばれていくユウが呟く。
「エポナ様だと?」
「何をバカな……」
ユウのつぶやきを聞いた何人かが、
「エポナ様……」
と声を出しながら、再度土壁の上を見た。
「リューキュリアの子らよ!今は引くのじゃ!そなたらの命を優先せい!私は他者を殺すことを許さぬ!」
ティナの声が戦場に響き渡る。
「エポナ様?」
「エポナ様が……」
その姿をみなが見ていた。
そして、ティナは壁の向こうへ姿を消す。
「ジャン!!引け!!」
「くっ、撤退!!てったいだー!!」
やっと、騎士団長の決断が戦場全体に届くことになる。
その声に呼応して、リューキュリア騎士団は森の中に姿を消していった。
「ひと段落、か……」
はぁ、と息をついて、隣にやってきたクリスに話しかけた。いつもの調子で話しかけたのに、クリスのやつはなんだか気まずそうにしている。
「だね……あの……ライ…僕…」
「あん?」
「正体隠してて、ごめ…」
「いや?知ってたけど?」
「え?」
「え?おまえマジで正体隠せてると思ってたの?」
「え?え?」
「いやいや、だって顔同じじゃん」
「いや…でも、え?」
「そんなことより、今は食糧だ、金貸してくれ」
「え?なになに?お金?貸すのはもちろんいいけど」
「現場が混乱してるうちに、なるべく多く食糧を買い集めるから、金プリーズ」
「なんで……あっ!わかった!いこう!」
オレがなぜ食糧を集めようとしているのか、その意図を察したクリスが同行を申し出た。
「いや、おまえは自分の仕事しろ、聖剣様」
「あ……そうか」
「ん、金くれ」
そして、再度クリスに向かって手を出した。
「キミってやつは……ホントに……ほらよ」
クリスがアイテムボックスから金貨が大量に入った袋を取り出し、渡してくれる。
「おぉ、金持ちやん、さすが聖剣様」
「なんだよそれ……でも、頼んだ…」
「ん、おっけー」
『みんな、状況報告して、無事か?』
オレは、主従契約の意識共有で、全員の無事を確認しながら、レウキクロスの門をくぐる。
ひと段落したとはいえ、何も解決していない。
だから、次の一手を打つためにオレは動き出していた。
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