第195話 オーダーメイドの馬車が完成
オーダーメイドの馬車の納車日、オレたちは旅の準備を終えてテントの中を片付けていた。
軽く箒ではいて、忘れ物がないことをチェックし、誰もいないテントの中に感謝を述べてから、外に出る。
「お世話になりました~。さっ、馬車にいこーか」
振り返って、みんなに声をかけた。
「誰に挨拶してるのよ?」
と不思議顔のソフィア。
「え?なんだろう?しいて言うならテントさんに?」
「おにいちゃん…かわいい…」
「うふふ♪」
「え?え?」
「あんたって意外と不思議ちゃんなとこあるわよね」
「ふ、ふしぎちゃん…だと…」
「かわいいライ様も素敵です」
「あ、ありがとう?」
不思議ちゃんと言われて腑に落ちなかったが、みんな笑っている。深堀りすると、恥ずかしいことになりそうだったのでやめておいた。
気を取り直して、完成した馬車のところに向かう。
♢
「来たか!待ってたぞ!自信作だ!確認してくれ!」
クールスさんのところに行くと、テンション高めに話しかけてきた。さっそく、馬車の方を見る。
茶色の木製ベースで全体が作られた、その馬車は、車輪の少し上くらいまでが木製で、そこから上は白い布が立ち上がり、天井はアーチになって、そこまで白い布で囲われていた。
御者が座る位置には、黒いソファが設置されていて、リクエスト通りピンクのステッチで縫われている。
それに、雨が降ってもある程度は大丈夫なようにアーチ状の屋根が延長されていた。
ま、土砂降りの中進んだら濡れるだろうな、という程度の防御力だ。
馬車本体の方をもう一度見ると、後輪の上、その少し後ろに可愛らしいペガサスの翼を模したマークが貼り付けてあった。
木彫りしたものを白に塗って貼り付けてくれている、打合せ通りの仕上がりだった。
「ライさん!ライさん!ココ!これ!可愛いですね!」
ステラが目を輝かせて、そのマークを指さして手招きする。
「そうだね、ステラのアイデアだもん、当然だよ」
隣に立って笑顔で答える。
「うふふ♪とっても嬉しいです♪」
腕に抱きついてきたのでよしよししておいた。
馬車の下を覗き込むと車軸は金ピカであった、これもステラの金ピカ好きを取り入れた結果だ。
「この馬車の一番の売りは車内だ!しっかり確認してくれよな!」
楽しそうなクールスさんに促されて車内に入ることにした。
馬車の前方に階段があるので、そちらから乗車すると、中には白色のソファが3列並んでいた。
全て前を向いて配置されており、前2列は左側が通路に、1番後ろは端っこまでソファになっている。イメージとしては、ハイエースの車内を想像してほしい。あんな感じのシートアレンジだ。
この馬車は、後ろから物を出し入れすることはないので、後方も白い布で覆われている。
ただ、風を通せるように、ところどころ布を巻き上げて窓みたいにできるようにしてもらった。
「このソファふわふわね!」
「ホントだ!ココで寝ても気持ち良さそうだ!」
ソフィアとコハルが楽しそうにソファに座って感触を楽しんでいる。好評のようで良かった。
もちろん、このソファのステッチもステラが選んでくれたピンクの糸だ。車内も可愛らしい仕上がりであった。
馬車から降りて、クールスさんとアリーサさんのところに行く。
「完璧ですね」
「だろ!満足してくれて良かった!」
「検品はよろしいでしょうか?」
注文票を手に持ったアリーサさんに確認される。
「はい、問題ありません。では、こちらが残りの代金になります」
オレは100万ルピーが入った袋を渡す。
「はい、確認してまいります」
アリーサさんは族長のテントに向かってから、また戻ってきて、
「はい、確かにいただきました。この度は馬車と馬のご購入ありがとうございました。もし、なにか不具合やメンテナンスが必要であれば、うちの一族のものにお声がけください。こちらの保証板を見せれば無償で対応させていただきます」
そう言われて、繊細に木彫りされた木の板を渡された。
そこには、保証期間永久、という文字と族長モルゲイトさんのサインが刻まれていた。
「永久って、すごいですね」
「今回は多めに料金をいただいてますし、わざわざこちらまで足を運んでいただきましたので、特別サービスさせていただきました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
お礼を言いつつ、200万ルピーはちょっと払いすぎたかな、とケチくさいことを考える。
「では、そろそろ出発します。いろいろとお世話になりました」
「はい、またのご利用をお待ちしてます」
「またどこかで会ったらよろしくな!」
アリーサさんとクールスさんに見送られて、馬車の前まで戻ってきた。
すると、すでにティナとコハルが、アルテミスとオニキスを馬車に繋いでくれていた。
「最初はボクが御者やりたい!」
「イイぞ、よろしくな」
「うん!任せて!」
「わしもやりたいのじゃ!」
「じゃあ、交代でやろうな」
「うむ!」
お馬さんのことになるとテンションあげあげのティナであった。
2人とも御者をやりたいとのことだったので、2人に馬車の操作を任せて、他のメンバーは後ろのソファに座る。
「出発するよー!」
「いいよー」
コハルから声がかかり、ゆっくりと馬車が動き出した。
「全然、揺れませんね」
リリィが感動の声をあげる。
オレも同様の感想であった、これはすごい。
「そう…なの?」
「はい、前に旅したときの馬車は、かなり揺れたのですが」
どうやら、高級な馬車バネというのが、かなり揺れを軽減してくれているようだ。
乗り合い馬車と比べて、天と地の差、と言っていいほど快適だった。
「……ねぇ」
「ん?なぁに?」
快適な馬車移動を満喫していると、隣のソフィアがイヤそうな声を出す。
「この状況はなんなの?」
「なにが?」
オレは最後尾のソファで真ん中に座り、右手にソフィア、左手にステラを座らせて、2人の肩を抱いて足を組んでいた。
「なんで、わざわざここに3人座るのよ」
席は空いてるじゃない、と言いたげな顔だ。
「私はライさんの隣ならどこでもいいです!」
ステラはすりすりしてくれている。
馬車を見てからずっと上機嫌だ、説明不要でくっついてくれて助かる。
「美少女2人の肩を抱きながらドヤ顔で座るのが夢だったんだ!」
ドンッ!
ソフィアたんには説明が必要らしいので、オレの気持ちをお伝えする!
「…アホなのね…」
なにか気に入らないらしい、腕を組んで向こうをむいてしまう。
「…ソフィアは本当に可愛いなぁ!どこから見ても美少女だなぁ!」
「…なによ、アホのくせに…」
少し褒めると赤くなって照れるところが、ちょろくてかわいい。
「ソフィアももっとくっついてほしいな!」
「…少しくらいなら、いいわよ…」
なんだかんだお願いすると言うことを聞いてくれる。
オレは、ルンルン気分で両手に花状態を満喫した。
♢
コハルとティナに御者を任せて、しばらく快適な馬車旅をつづける。
左右にいるソフィアとステラとお話ししていれば飽きることはない。2時間ちょっと移動したところで、お腹もすいてきたので、休憩することにした。みんなで馬車を降りて、食卓を囲みながら会話する。
「次の目的地は、リフレットって町でいいんだよね?」
「そうね。そこでミリアの服を揃えたいわ」
「ありがと…ソフィアちゃん」
オレたちが向かっているのは、この辺りで1番大きい町、リフレットという町だ。アリーサさんに教えてもらったところ、馬車で5日ほどで着くとのことだった。
「了解、そっか、楽しみだなー。ミリアはすっごく可愛いからな。服も可愛くしたら、もっと可愛くなっちゃうなぁ」
「そ、そうかな?…が、がんばりゅ…」
「みんなで選びましょ!服選ぶのって楽しいもの!」
「そうだよねー!」
と女性陣が盛り上がっているので、その様子を眺めながら食事を口に運ぶ。
嫁たちが仲良くしているのは見てて嬉しい。
それに、みんなが選んでくれるミリアの新衣装、ホントに楽しみである。
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