第194話 黒馬の名前と乗馬の練習

「ブラックサンダーはどうかな!?」


 おいしさイナズマ級?


 朝食を食べてるとき、突然名案を思い付いたようにコハルが立ち上がった。


 みんなが手をとめてコハルの方を見る。


「なんのことよ?」


「あの黒い馬の名前だよ!」


「あーー……」

 なんとも言えなそうな顔をするソフィア。


 そういえば、コハル、ずっと考え込んでたよな、と思い出すが、

 う~ん、ブラックサンダーか…


 まぁ、悪くはないけど、オレはどうしてもお菓子を思い出してしまう。


 なんて答えようかと悩んでいると、


「本人に聞いてみてはどうじゃ?」

 とティナが提案してくれる。


「うん!そうする!」

 バッと座って、残りの朝食をもぐもぐとたいあげるコハル。


 そして、「ごちそうさまでした!」と手を合わせてから、すぐにテントから出ていった。


 黒馬に話しかけているのが、テント越しに聞こえてくる。


「ねぇねぇ!ブラックサンダーって名前はどうかな!?」


 嬉々として問いかけるコハル。

 しかし、


「ヒヒン?ヒーン…」


「いやなの?」


「ヒーン…」


「そ、そっか…」


 黒馬はお気に召さなかったようだ。

 コハルがしょんぼりしながら、テントに戻ってくる。


「イヤだって…」


 凹んでいて、かわいそうだ。アドバイスしてあげないと、と思う。


「いや、でもさ、黒をポイントにして名前を考えるのはいいことなんじゃないかな?ブラックサンダーもかっこよかったと思うよ」


「そうかな?ライならどんな名前にする?」


「うーん…」


 黒といえば、ブラックとかノワールとかだけど、ノワールは、うちの娘のノアールとモロ被りするから提案できない。

 すると、黒い色の石とか?


「黒い石に黒曜石ってのはあるよね」


 ダダっ!っとコハルがテントの外に走っていく。


「黒曜丸は!?」


 漁船かな?


「ヒーン…」


「いまいちだって…」


 テントに戻ってきたコハル談。


「あとはー、えーと、黒い宝石あったよね?なんて名前だっけ?えーと…」


「それ知ってる!」


 また、ダダッ!っと走っていく。


「オニキスは!?」


「ヒヒン!」


「気に入った!?」


「ヒヒン!」


「なら、今日からキミはオニキスだ!」


「ヒヒーン!」


「そっかそっか!良かった!はい!人参!」


「むしゃむしゃ」


 どうやら、無事名前が決まったようだ。


 オニキスとアルテミス、とてもご立派なお名前のお馬様が2頭、仲間になった。


 宝石に女神の名前をもらうとはなかなか贅沢やないか、と思ったが名付け親の2人が満足ならそれでいい。


 テントに戻ってきたコハルと、

「気に入ってくれてよかったね」

「うん!」

 とやりとりしてから、朝の稽古の準備をはじめた。


 稽古が終わったら特にやることもないので、それぞれ自由行動にしよっか、と話す。


 みんなには、「馬車が完成したら、次にどこに行きたいか考えといて~」とだけ伝えておく。


 それから、オレたちは遊牧民のキャンプ地でののんびりライフが始まった。


♢♦♢


 数日後、乗馬用の鞍が2つ納品されたので、みんなで乗馬の練習をすることにした。


 お馬さんは馬車を引くために購入したが、なにかあったときに素早く移動できると便利だから乗馬は出来るようになった方がいい、という話になったのだ。


 乗馬経験を整理すると、コハルとステラ、ティナは手慣れたもので、ソフィアは一応乗れるけど不慣れ、オレ、リリィ、ミリアは未経験の初心者、というような感じだった。


 以前、オレはソフィアの後ろに、リリィはステラの後ろに乗って乗馬したことはあるが、自分で手綱を握ったことはない。

 乗馬が得意な3人に先生をしてもらいながら、毎日のんびりと練習することにした。


 練習をはじめると、ソフィアはすぐに上手くなって、オレとリリィも少しずつ乗れるようにはなってきた。

 ミリアは1人だと苦戦していたので、オレがミリアの後ろに乗って、落ち着かせてあげると、上手く乗れるようになった。


「おにいちゃんと…一緒だと、ミィ安心するの…だから…ずっと、一緒にいて?」


 アルテミスの馬上でそんなことを言われる。

 キュンとした、キュン死しそうだ。


 手のかかる子ほど可愛い、ってこういうことなのだろうか?


 うん、めっちゃ可愛い、これがそれだ!と納得する。


 納得したので、全力で頭を撫でて愛でてやることにした。



 1週間もすると、オレたちはそこそこの速さで馬を操れるようになった。


 そして、馬車完成まで後2日、というところで、馬車の扱い方を練習させてもらうことになった。

 先生はアリーサさんで、オレたちが注文した馬車と同じくらいのサイズの馬車で練習を開始する。


 こっちは乗馬と違って、わりとすぐ習得することができ、馬車完成の日には不自由なく動かせるようになっていた。

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