第193話 お馬さんを選ぼう

 時刻は、馬車の打合せが済んで、ステラの豪華な夕食を食べた翌日まで進む。



-主人公視点-


「馬車が完成するのは、10日後くらいだって〜」


 お昼前にクールスさんと話した内容を、昼食の準備をしながら、みんなに共有していた。今から、テントの中でみんなで昼食だ、全員集まっている。


「クールスさん曰く、土台は出来てるのを使うから10日くらいで完成する、って言ってたよ。だから、先に馬選んどいてくれってさ」


 食器を用意しながら、口を動かす。


「そうか!ならばわしが選びたいのじゃ!」


 オレの言葉に、すぐにティナが立候補した。テンション高めのティナは珍しいので、なんだか新鮮だ。


「ボクも!ボクも選びたい!!」


 コハルも元気に立候補するが、こちらはいつも通りかな。


「他のみんなは?選びたい人いる?」


「……」


 特にいないようだ。


「じゃあ、2人にそれぞれ一頭ずつ選んでもらおうかな」


「わかったのじゃ!」

「任せてよ!」


 と、いうことで、みんなで昼食を食べてから、コハルとティナと一緒に族長のテントに向かった。


「こんにちはー」


 テントの入口あたりで声をかける。


「はい、なにかお困りでしょうか?」


 すぐにアリーサさんがきてくれた。


「あの、クールスさんから馬を選ぶよう言われたのですが」


「わかりました。では、私がご案内します」


「お願いします」


 アリーサさんは少し奥に引っ込んでから、テントの外に出てきてくれて、

「こちらです」と案内をはじめてくれた。


 ついていくと、壮大な草原の一角に柵で囲まれた場所、馬たちが放し飼いにされているところまで連れてきてくれた。


「こちらから2頭、お好きな馬をお選びください」


 すごく広い場所に100頭近くは放し飼いにされている。どう選べばいいんだろう?オレには選び方がさっぱりわからなかった。


「道中、めんどうなことになるので、性別は揃えた方がいいですよ」


 ふむ、子どもができたりするからかな?


「わかりました。じゃあ、ティナ、コハル、お願いできるかな?」


「わしはもう決まっておるのじゃ!」


「そうなの?コハルは?」


「ボクはこれから選ぶ!」


「なら、まずはティナが選んだ子を連れてきてもらおうか」


「わかったのじゃ!アルテミスー!」


 ティナが、どこぞの女神の名前を呼ぶ。すると、遠くから白馬がパカラッパカラッと走り寄ってきた。

 そして、柵ごしにティナの真横に止まって、撫でやすいように顔を下げた。


「この子じゃ!美しいじゃろう!」


 そんな白馬の頭をティナが嬉しそうに撫でていた。

 たしかにキレイな白馬だった。全身真っ白で長いまつ毛だ、賢そうな顔をしている。


「アルテミスって、ティナが名づけたの?」


「そうじゃ!昨日、コハルと散歩してるときに見つけたのじゃ!賢い子で、風の精霊の加護をふんだんに受けておる!」


「ずいぶん懐いてるように見えますけど、どの馬も人懐っこいんですか?」


 ティナと白馬の様子を見ながら、アリーサさんに質問した。


「いえ…そんなことはないのですが…こんなことは、珍しいことです」


 アリーサさんも驚いてるようだった。


「へー、こんにちは、アルテミス」


 手を差し出すと、そっと顔を近付けてくれて、撫でさせてくれた。

 おぉ、ほんとに賢い。


「性別は?」


「女じゃ!」


「わかった、じゃあ1頭目はこの子で」


「わかりました。ではもう一頭は、」


「ボク!ボクが選んできます!」


 アリーサさんのセリフを遮って、コハルがぴょんぴょんと手を上げる。


「わかりました、お願いします」

「よろしくな~」


 それを聞いてコハルが柵の中にジャンプして入って駆け出した。


「コハルー!女の子を選んでよー!」


「わかったー!」

「ピー!」


 こちらに手を振りながら走っていくコハル。

 その上をピーちゃんが飛んでいった。


 コハルの揺れるポニーテールを見て、そういえばポニテだからポニーとシナジーあるんかな、と謎の発想を思い付く。


 手持ち無沙汰なので、ティナやアリーサさんに乗馬のことを教わりながら時間をつぶした。


 しばらくすると、「おーい!」とコハルの声が聞こえてくる。


 そちらをみると、コハルが黒い馬に跨って駆けてくるのが見えた。ピーちゃんはその馬の頭に鎮座していた。


「この子がいい!」


 オレたちの隣までやってくると、馬上のコハルがそう言った。


「その子を選んだ理由は?」


「カッコいいから!」


「ヒヒン!」


 どうだ!カッコいいだろう?とでも言いたげな黒い馬。

 たしかに黒くてカッコいい、額にダイヤ型の白い模様があり、それもあってハンサムであった。


「女の子なんだよね?」


「そうだよ!」


「ならいいかな。じゃあ、2頭目はこの子でお願いします」


「わかりました。では、皆さんのテントの横に繋いでおく場所を作りますね」


 アリーサさんはそういって、近くの人に指示を出していた。


「あと、鞍は後ほどお渡しします。新品を用意しますので、数日かかるかと思います」


「わかりました。ありがとうございます」


 アルテミスと黒い馬が目の前にいた。一応、下を覗き込んでついていないことを確認する。

 近くの他の馬をみたら、それはもうご立派なものがついていた。


 ……なんか、昔見たエロアニメで魔法使いの女の子が馬人間にやられてるのを思い出した…

 いやいや、なんのことやねん。


 頭を振って雑念を捨ててから、「じゃあ、帰ろっか、コハル、その子の名前は?」と話しかける。


「考え中!」


「そっか、名づけって悩むよね~」


「うん!カッコいい名前にしたいから!」


「でも、女の子なんだよ?」


「えー!でもカッコいいのがいい!」


「あはは、そっかそっか」


 2人と2頭、1羽を引き連れて、テントまで帰る。


 帰るころには、テント脇に馬を繋ぐ木が設置されていた。さすが慣れているものだ、仕事が早い。

 2頭のお馬さんは、そこに繋いでおく。


 オレはテントの中に戻ろうとしたが、2人がついてこないことに気づく。

 後ろを振り返ると、コハルとティナが楽しそうにお馬さんたちに人参を食べさせていた。

 2人は新しい仲間にご執心のようだ。楽しそうな2人をみて、オレも混ぜて欲しくなる。


「オレも食べさせてみていい?」


「いいよ!」

「よいぞ!」


 許可がでたので、お馬さんたちと戯れることにした。

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