第190話 馬車をオーダーメイドしてみよう
「どんな馬車にしよーかなー、悩むなー」
ステラとリリィを連れて、馬車職人の元へ向かう。
「そうですね!カッコよくて!強そうで!かわいい感じがいいですね!」
ステラがなんか適当なことを…
いや、本気で目を輝かせて何か言っている。
「みんなで快適に移動できるようにしたいですね」
「だよねー、やっぱり、移動中にくつろげる空間にしたいよねー」
「やっぱり!色は目立ってなんぼですよね!」
ステラのテンションがどんどん上がっていく。
「ステラ?」
「なんですか!」
「ちょっと落ち着こうか?」
「落ち着いてますよ!私こういうデザインとかするのすごい好きなんですよね!それに自信あります!ソフィアはなんか言ってましたけど!昔、食堂のメニュー表とか作ったら、みんな褒めてくれましたし!」
そ、それは子どものころの話では…
つまり、多少出来が悪くても、子どもが作った物を大人は褒める…
オレは、以前、貿易の町ガルガントナで防具を選ぼうとしたとき、金ピカの鎧をステラに勧められたことを思い出して、不安な気持ちが大きくなっていった。
そんな気持ちのまま、職人たちの仕事場に到着する。
「よく来たな!俺はクールスだ!改めてよろしくな!」
先日、顔合わせをした馬車職人の男と握手しながら答える。
「オレはライといいます、よろしくお願いします」
「それじゃ!さっそく馬車のデザインを決めていこうか!まずは、サイズだな!」
「サイズ、サイズですか。自分たちは7人なので、全員が乗っても余裕がある広さがいいですね」
「なるほどな!じゃあ、いくつか出来上がった馬車を見ながら決めるといい!
ついて来な!」
クールスさんの後ろについて、たくさん並んでいる馬車をいくつか見せてもらう。
「このあたりが10人乗りだからいいんじゃないか!」
とある馬車を指してクールスさんが勧めてくれる。
「んー、悪くないですが……椅子、というかソファをいくつか置いたら狭いですよね?」
「おぉ?あぁそうか、予算はたんまりあるんだったな!」
クールスさんは注文表のようなものを確認しながら言った。オレたちの予算が200万というのを確認したのだろう。
「たしかに、貴族に依頼されるような上等な座席をつけるなら狭いかもな」
「えっとですね。こう、三列にして、全部前を向けてソファを設置したいんですよね」
身振り手振りで、イメージする馬車の内装を伝えてみる。オレがイメージしているのは、ハイエースみたいな座席だ
「なるほどな、それなら、15人乗りくらいのサイズがいいだろう。こっちに来な!」
次に案内してもらった馬車はイメージするサイズにマッチしたので、ベースサイズはこれに決めることにした。
ベースが決まったので作業場に戻ってきて、促されるまま席に座る。正面にクールスさん、左右にステラとリリィが座って、テーブルを挟んで続きを話し始めた。
「あの、あとこれは重要なことなんですが、以前、乗り合いの馬車に乗ったとき、すごい揺れて疲れたんですよ。なので、あるならですがサスペンション付きのものがいいのですが」
サスペンションというのがこの世界にあるのか謎だが一応聞いてみる。
「サスペンション?」
あ、ないのかな…
「えーと、こう、車輪が段差に乗り上げたときに衝撃を吸収して、座席を揺れなくするような仕組みです」
「あぁ!馬車バネのことか!それならあるぜ!おまえさんの予算なら、1番性能がいい馬車バネをつけれるから安心しな!その辺でやってる運搬馬車なんか比べもんにならねーくらい揺れないからよ!」
「ホントですか!それは嬉しいですね!よろしくお願いします!」
なるほど、用語が違うだけで似たようなものはあるのか、それは助かる。
「じゃ、あとは壁と屋根だが、もちろん必要だよな?」
「そうですね、雨のときも快適に過ごせるようにしたいです」
「わかった。それなら、荷台はもちろん、御者のところにも、こんな感じで屋根を作ろう」
クールスさんが簡単な絵を描きながら説明してくれる。
「はい、これでいいと思います」
「了解、車輪とか細かい部品は全部1番いいやつをつけるってことでいいよな?」
「はい、大丈夫です」
「なら、あとはデザインだけだ!どんなもんでも作ってやるぜ!どうしたい?」
「えーっと…」
オレが悩んでいると、
「ふんす!」
と、待ってました!と言わんばかりの鼻息が隣から聞こえてきた。
ステラだ。
ずいずい、と身体をテーブルに乗り出して、ペンと紙を握る。
「あ、あの…ステラ?」
止めようとしたが、もう遅い。
嬉々とした顔でペンを走らせてしゃべり出す。
「馬車にはデッカい翼をつけましょう!ペガサスみたいな!」
「ペ、ペガ??」
あぁ……
クールスさんがあっけにとられている。
「まるで神様が乗るみたいな!そんな馬車にするといいですよ!翼は白色にしてですね!」
目を☆マークにしたステラのペンは止まらない。
色鉛筆も使い出してカラフルな馬車が出来上がっていく。
「壁とかは金ピカだとカッコいいです!それとそれと!!車輪はピンクだと可愛くないですか!?こんな感じです!!」
ドドン!!
そんな効果音と共に、ステラが描きあがった馬車のデザインを片手で持って、オレたちに突きつけてくる。
あんなに美味しくて、綺麗に盛り付けられたご飯を作る子とは思えないほどに、絵はつたなくて幼い。とても可愛らしい絵だった。
……まぁ、オブラートに包まなければ…幼児が描いたような絵だった…
「あー……」
「……はっはっは!!面白いお嬢ちゃんだな!!」
オレとリリィがどう伝えたものかと困っていると、クールスさんが我慢できなくなってしまう。
「え?面白い、ですか?可愛くは?」
「サーカス団の馬車でも、こんな派手にしねーぜ!!こんなんじゃ!みんなに振り向かれちまうよ!いいのかい!?くっくっ!!」
クールスさんは爆笑である、苦しそうに笑っている。
「サー…カス?……」
そこで、やっと、ステラは「あれ?おかしいな?」という顔をした。
私のデザイン素敵ですよね?
そんな風にオレとリリィを見る。
でも、ここで同意はしてあげれなかった。
「ごめん……ステラ…」
オレたちは2人して首を左右に振った。
「え?」
「お嬢ちゃんのセンスは最高だな!ある意味!ははは!!」
やめてあげて……
「センス……ある意味?……あれ?」
チーン…
ステラの方からそんな音が聞こえたような気がした。
魂が抜けていくように、ぐったりと椅子にもたれかかり、天を見上げるステラ。
真っ白に…力尽きたようだ…南無三…
「あー……」
「それじゃ!真面目にデザイン決めていくか!」
オレがステラの方を見ているとクールスさんが笑いながらオレに話しかけてきた。
ちょっとあんた笑いすぎですよ、とムッとしたが、今回ばかりはこちらも悪い。
顔に出さずに打合せを進めることにした。
「そうですね、そうしましょう。あまり、目立ちたくはないので、外観は一般的なものでいいです」
「だろうな!くっくっ!」
「あ、でもですね、ここをこうして――」
オレは少し変わった要望だろうと分かりながらも、クールスさんに追加のデザインを依頼することにした。
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