第184話 素敵な出会いと霧が晴れた日

 それから、ミィは、畑仕事を手伝って、帰ってきて、野菜をたべて、寝る。

 そんな生活を繰り返した。


 こころの中は、どんどんと、イヤな気持ちが膨らんでいく。


 あいつを……ころしたい……

 村の人たちも…みんな…きらいだ…

 こんな村…なくなっちゃえ…


 でも…おとうさんと…おかあさんは…そんなこと、思わない…

 ミィも2人みたいに優しくなりたい…


 そう思って、ぬいぐるみに自分の気持ちを話すようになった。


 そうすると、なんだか、こころが楽になった。


 ぬいぐるみと話して、抱っこしてると、こころがぽかぽかして、両親のことを近くに感じることが出来た。


 だから、この子のことを〈ぽかへい〉と呼ぶことにして、その日から、ミィは、ぽかへいと会話するようになった。


 村で暮らしていてイヤな気持ちになると、それをぽかへいに聞いてもらった。


 ぽかへいの答えは、おとうさんなら、おかあさんなら、こんな風に答えるかな…

 そう考えながら答えた。


 そうすると、優しい2人の子どもだったんだって、思い出すことができた。


 ずっと、1人で暮らしていると、たまに村長が話しかけてきて、

 「そろそろウチに来い」とか「妻の勤めを果たせ」とか、言ってきた。


 気持ち悪かったので、逃げた。


 腕を掴まれたりもしたけど、大声で泣いた。

 泣き続けていたら、村の人が集まってきて、いつのまにか村長はいなくなっていた。


 絶対にあいつのところには行かない。

 そう決めていた。


 長い間、1人だったように思う。


 すると、ある日、たくさんのお客さんが村に来た。


 男の人と、綺麗な女の人がたくさん。

 なにしに来たんだろう?


 村長はその人たちの世話をしろと言った。


 少し怖かったけど……1人は寂しかった…

 家にたくさん人がきて…知らない人たちだけど……うれしかった…


 でも、だめだ…この人たちも悪い人かも…


 そんな不安は、すぐになくなった。


 ライさんは、ミィがすることをなんでも褒めてくれた。

 頭を撫でてくれた。


 ステラちゃんは、ミィの気持ちがわかるって抱きしめてくれた。

 美味しいご飯を食べさせてくれた。


 コハルちゃんは、オロオロしてるミィに、何度も話しかけてくれて、ピーちゃんと一緒に遊んでくれた。


 ソフィアちゃんとティナちゃんは魔法を教えてくれて、ミィが眠そうにしてると、リリィちゃんが毛布を掛けてくれた。


 みんな…みんな…優しかった…


 おとうさんと…おかあさん…みたいだった…


 みんなと、ご飯を食べてるとき…家族でご飯を食べてた…幸せな時間が、返ってきた…そう思えた。


 ライさんたちが来てから、ミィは、全然疲れなくなった。


 それはそうだろう。だって、ミィがやらないといけない畑仕事をライさんたちがやってくれてるからだ。


 前は、明るくなってから、暗くなるまで畑仕事をしていた。


 おとうさんもやってたことだ。

 だから、おとうさんの娘のミィにもできるんだ。そう言い聞かせてたけど、本当は、すごく、大変だった。


 毎日くたくただった。

 毎日行きたくなかった。

 でも、おとうさんみたいになりたかった。

 だから、毎日畑に向かった。


 ライさんが畑仕事を手伝うって言ってくれたとき、最初のころは、自分のやらないといけない仕事だと思って、遠慮した。


 次に、甘えていたら、ライさんたちに嫌われる思って、怖くなった。


 でも、みんな、ずっと楽しそうに畑仕事をしていて、イヤそうにしなくて…甘えていいのかなって…思った。


 前は…言われていた仕事がその日に終わらなくて、怒られることが多かった…

 怖かった…だから…ライさんたちに、頼ってしまった。


 そんな、ダメなミィでも、ライさんはいっつも褒めてくれた。


 おにいちゃんがいたら、こんな感じなのかな?

 そう思うようになった。


 だから、はじめて魔法が使えたとき、つい、ライさんのことを、おにいちゃんと呼んでしまった。

 はずかしかった。

 でも、ライさんはイヤそうにしなかった…

 なんか、嬉しそうにしてたようにも見えた。

 いいのかな?おにいちゃんって呼んでも。


 その日、ライさんにおとうさんと、おかあさんの話をした。


 優しく抱きしめてくれて、安心して眠ることができた。


 少ししたら、ライさんが一緒に旅に出ないかって、村長なんかと結婚しなくていいって、言ってくれた。


 嬉しかった。


 ………でも…今、村を出たら…復讐ができない…


 ミィは、最近幸せすぎて、おとうさんとおかあさんのことを忘れていた。


 それが怖くなった。


 だから、次の日から、お墓に通うようになった。


 ライさんたちが来てからは、はじめて行った。


 前はよく、ぽかへいと行ってたのに、ひさしぶりだ。


 ごめんなさい、ひさしぶりにきて…

 おとうさん…おかあさん…ミィは村を出てもいいのかな?

 2人を置いていって……いいのかな?


 村を出ることと、

 復讐することを、

 考えていたら、ぽかへいが動き出した。


 精霊が中に入ったってティナちゃんは言ってたけど、そんなことより、動いてるぽかへいはとっても可愛くて、嬉しくなった。


 それから、毎日ぽかへいと一緒にいたら、なにか不思議な力を感じるようになった。

 魔法を使うとき、その不思議な感覚を強く感じることができる。


 ある日、村がモンスターに襲われた。


 ライさんたちが戦ってるのをみて、すごく怖くて…

 でも、なにかしたくて、みんなを応援した。


 そしたら、すごい力が出て、みんなの方に向かっていった。


 後から聞いたら、強化魔法というものらしい。


 そっか…ミィには、そんなことができるんだ…


 その日の夜、モンスターのことを思い出して、怖くなって、目を覚ましたら、隣にライさんがいなかった…


 寂しい……どこ行ったの?……ライさんもいなくなっちゃうの?……


 キョロキョロしてると、ぽかへいがライさんのところに連れてってくれるって…

 ついていくことにした…


 すると…村長の話を…聞いてしまった…


 おとうさんは…戦争に行かなくても…よかったらしい…


 おかあさんは…ほんとは助かった…かもしれない…


 ぜんぶ…ミィのせいだ…


 ゆるせない…



 ころしてやる…


 復讐、することにした。



 家に帰ると、ステラちゃんが隣で寝ていた。


 話してみようかな、復讐するって…


 手伝ってくれないかな…


 でも…みんなを悪者にしたくない…


 それに……やめろって…言われたら…みんなのこと…嫌いになっちゃうかも…


 いやだ…って言ったら…嫌われちゃうかも…


 怖くて……なにも言えなかった…


 ライさんが帰ってきたけど…同じ理由で…なにも言えなかった。


 ミィは眠らずに…ライさんが寝てから家を出た。


 復讐は1人でやる…


 ぽかへいを抱っこして家を出ると、なぜか、ミィには、それが出来るってわかった。


 墓地に行って…おかあさんと…おとうさんに…話しかけた。


 長い間、話していたと思う。


 気づいたら、周りには骨のおばけがたくさんいた。


 目の前には、おとうさんの、剣を持った……おかあさんがいた……


 ごめんなさい…こんなことを…させて…

 でも…ミィは…もう耐えれません…これが終わったら…

 ミィも、そっちにいくね?

 わるい子で…ごめんなさい…


 骨のおばけたちと、村に向かっていくと、ライさんに止められた。


 やっぱり、やめろって、言うんだ…

 だから…言えなかったのに…なんで、来たの?


 そう思ったのに、ライさんは変なことを言う。


 復讐してもいい。ミリアがちゃんと考えたのなら。


 なに、それ…


 わるい子のミィでも嫌いにならないの?


 嫌いにならない、大好きだ、愛してる、そう言われた。


 ミィもライさんのことが好きだよ……でも…ミィが…自分でやらないと…


 そう思ってたら、おかあさんに肩を押された。


 おにいちゃんに抱きしめられる。


 あったかい。


 泣きそうになってると、後ろに、おとうさんと、おかあさんがいた……


 すぐに抱きついた。


 大好きな、大好きな、おとうさんと、おかあさん、なんで、なんでいるんだろう。

 わかんなくて、言いたいことを全部ぶつけた。

 ひどいことをまた言った。


 でも…おとうさんと、おかあさんは、いつもみたいに、優しく頭を撫でてくれた。


 すごく…あったかかった…


 2人にお別れを言って、みんなのところに帰った。


 おにいちゃんはずっと手を繋いでくれて、みんなも抱きしめてくれた。


 復讐のことを考える冷たい気持ちより、みんなと一緒にいてあったかい気持ちの方が強くなった。


 だから、復讐のことは考えないことにした。

 それに、おにいちゃんとティナちゃんが、あいつらをやっつけてくれたらしい。


 スカッとした。

 ざまーみろ。


 そして、ミィは村を出る。


 はじめてのことだ。


 隣のおにいちゃんは、ミィの手を握ってくれてる。

 おっきくて、あったかくて、強い手だ。


 おにいちゃんの横顔を見る。


 カッコいい。


 ドキドキして、ギュッと、ぽかへいを抱きしめた。



 ミィは、おにいちゃんのことが大好きだ。

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