第183話 幸せな思い出と悪夢のはじまり
-ミリア視点-
ミィは…今から、村をでる…
ずっと、暮らしていた村だ。
小さい頃から、ずっと…おとうさんと、おかあさんと…暮らしてきた村だ…
少し、寂しい…
でも…ミィの右手を握ってくれてる手は、とても、あったかくて、とっても、大きかった。
大好きな、おにいちゃんの手だ。
ミィに、こんなカッコいいおにいちゃんが…できるなんて…思ってなかった…
昔のことを思い出す…
ミィは…この村で生まれて…育って…
物心ついたときには、おとうさんと、おかあさんのことが、大好きで大好きで、しょうがなかった。
どこに行くときも、2人の手を握ってついていった。
2人ともどこかにいっちゃうと、すぐに泣いた。
両親は育てるのに苦労したと思う。
四六時中一緒にいないと、すぐ泣く娘だ。
大変だっただろう。
でも…2人は、全然嫌そうにしなかった…
いつも、いっつも…大好きだよ、大丈夫だよ、ずっと一緒だよ…
って声をかけて頭を撫でてくれた。
そんな、おとうさんと、おかあさんが…ミィは大好きだった。
ミィたち家族は農民で、いつも畑仕事をしていた。
おとうさんは働き者で、お空が明るくなってから暗くなるまで、畑で働いていた。
ミィは、おかあさんとご飯を食べてから、おとうさんの畑仕事を見学したり、まわりをうろちょろしたり、たまに手伝ったりするのが、すきだった。
ある日、朝起きたら、イノシシが畑を荒らしていた。
ミィは、すぐに追い払わないとダメだと思った。
だから、石を投げようとした。
でも…おとうさんは、
「少しくらい食べられてもいいよ、お腹すいてるんだよ」
そんなことを言って笑っていた。
優しい人だと思った。
石を持ってる自分がすごく恥ずかしくなった。
ミィもそうならないと……
ミィが13歳になったころ、家に村長と村の人が大勢やってきた。
おかあさんの後ろに隠れて、話を聞いていると、
おとうさんが戦争に行かないといけない、なんて言っている。
なんで、おとうさんが?
他の人が行けばいい、おとうさんじゃなくてもいいはずだ。
村の人たちが帰るとき、村長と目があった。
笑ってないのに、笑っているような気がして、
気持ち悪い……そう思った…
おとうさんが戦争にいく。
ミィは許せなくて、すごく怒った。
「戦争にいくおとうさんなんて大嫌い!」
そう言った。
でも、おとうさんは、
「誰かが行かないといけないんだ。僕たちを育ててくれた村に恩返しをするんだよ?だから、帰ってくるまで待っててほしいな?」
そう言われた。
でも、ミィは怒った。
なんども、なんども怒った。
それでも、2人ともミィから離れず、ずっと側にいてくれた。
止めれないんだ……行っちゃうんだ……
そう理解したら、今度は涙が出た。
たくさん…たくさん…泣いた…
でも、2人は側にいてくれた…
戦争に行く日、おとうさんには、
「大好きだよ、絶対帰って来てね」って、ちゃんと言うことができた。
おかあさんとたくさん練習したからだ。
そうしたら、
「ミリアはいい子だね、いい子にはご褒美をあげないとな」
って、おとうさんが言って、うさぎのぬいぐるみをくれた。
白くて、ふわふわで、かわいいうさぎだった。
そのうさぎを抱いて、おとうさんを見送った。
似合わない剣をぶら下げて、優しく手を振る、おとうさんを今でも覚えてる。
おかあさんと2人になって、畑仕事を2人でしていると、井戸の近くで村の人たちがこんなことを言っていた。
本当は、おとうさんじゃなくて、村長の息子が戦争に行くはずだった。
それを村長権限で捻じ曲げた。
そう聞こえた。
許せなかった。
……殺してやりたかった。
すぐにおかあさんに話した。
それなのに、おかあさんは
「村の人たちは、みんないい人だから、そんなこと言っちゃダメ。なにか事情があったのよ。私たちが親切にしたら、みんなも親切にしてくれるわ。だから、大丈夫、それにお父さんは帰ってくるわ」
と、優しい顔で言う。
おかあさんは、優しい人だ。
納得はできなかったけど、おかあさんみたいに優しい人になりたい、と思った。
おとうさんも優しい人だ。
ミィは、2人みたいになりたかった。
おとうさんが戦争に行って、2年後、おとうさんの剣だけが帰ってきた。
死んだ。
おとうさんは死んだ。
そう言われた。
ミィは渡された剣を持って、立ち尽くした。
何を言ってるのか……わからなかった……
すると、後ろから、おかあさんに抱きしめられ、大泣きするおかあさんの声を聞いて、これが現実なんだって、きづいた。
ミィは怒った。
「帰って来るって!帰って来るって言ったのに!嘘つき!おとうさんも!おかあさんも嘘つきだ!大嫌い!」
そんなひどいことを言った。
でも、おかあさんは泣きながら、抱きしめてくれた、頭を撫でてくれた。
ミィは……悪い子なのに……優しくしてくれる……
ミィもいい人にならないとダメだ……
すぐに…おかあさんが倒れた…
ぎりぎりだったんだと思う…
おとうさんが帰ってこない…そうわかって、限界がきたんだ…
ミィは、畑仕事をしながら、おかあさんの看病をした。
どんどん痩せていく、おかあさん…
貰った薬が効いているようには見えない…
毎日、泣きそうになった…
でも、我慢した。
ミィが、おかあさんを守る。
いままで、優しくしてもらった分…ミィがおかあさんに優しくするんだ。
おかあさんは、
「ミリアにおにいちゃんがいたら、ミリアを守ってくれるのにね…ごめんね…」と繰り返し言うようになった。
昔、流産したらしい。
だから、ミィにはおにいちゃんがいたかもって、話してくれた。
そんな人がいてくれたら良かったのに。
ミィがこんなにツラいのに、だれにも頼れない…
くるしい……
おにいちゃんがいたら……
ちがう。
ミィがおかあさんを守るんだ。
おかあさんが死んだ。
倒れてから3ヶ月もしなかった。
ある日、朝起きたら、おかあさんは起きなかった。
なにが起きているのか、わからなくて、ベッドの横でずっと座っていた。
気づいたら、村の人が周りにいて、おかあさんをお墓に埋めた。
なにが起きてるんだろう。
家に帰って、ふと、おとうさんの剣が目に入る。
剣の柄を見ると、血がついていた。
おとうさんの……血、なのかな……
なにを思ったのか、剣を鞘から抜いた。
……ころしてやる…
剣を抜くと、綺麗な刀身だった。
人を斬ると刀身は痛む、らしい。
おとうさんは……だれも……だれも、斬らなかった…んだ…
ミィは、そんな剣で……人を…
ミィは剣を抱いたまま、泣いた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ごめんなさい…ごめんなさい…
こんなに…優しい、おとうさんの剣で…人を殺そうとして…ごめんなさい…
おかあさんを、守れなくて…ごめんなさい…
泣き終わったら、おかあさんのお墓にいって、
もう一度、お墓を掘って、おとうさんの剣を、おかあさんに抱いてもらった。
これで、優しい2人は、ずっと一緒だね。
おかあさんに抱きついて
泣いて
泣いて
おかあさんを埋めた。
お別れだ……
村で数日過ごすと、村長と村の人がやってきて、
〈畑は引き継ぐ〉、〈家具もいらないだろう〉、〈おまえは村長の娘になれ〉、
そんなことを次々と言われた。
ミィは、よくわからなかった。
でも、村の人たちが家の中の物を持って行くのを見て、やめさせないと、と思った。
でも止めれなかった。
ミィは、さっきまで、うさぎのぬいぐるみとご飯を食べていたテーブルに抱きついて、「これだけは持って行かないで」と泣いた。
泣いて、泣いて、腕を掴まれても、テーブルから離れなかった。
なにか、2人との思い出は、なんでもいい、守りたかった。
村の人がいなくなったら、テーブルとイス、知らない布団、知らない農具、それしか無くなっていた。
テーブルの上には、家族4人分のお皿が並んでいた。
おとうさんと…おかあさんと…おにいちゃんと…ミィのだ…
それに、ぬいぐるみ…
ご飯を食べるときはみんな一緒だから…
……ごめんなさい…これしか守れなかった…ごめんなさい……
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