第182話 悪夢の終わり

「おかえり!ミリア!」

「もう!心配したんですよ!」

「おかえりなさい」

「おかえり!」

「がんばったのう」


 オレとミリアが手を繋いで畦道をくだっていくと、仲間たちが出迎えてくれた。


 ミリアの手を離すと、ステラとソフィアがミリアに抱きつく。

 それに続いて、他のみんなもミリアを抱きしめてくれた。


「ごめんなさい…心配かけて…」


「ううん、いいのよ、気持ちはわかるわ。それにね!ライがあのジジイのことはぶっ飛ばしてくれたんだから!たぶん死んだわね!」


 あぁ、たしかにあの勢いでぶん殴ったら死んでるかも。まぁどうでもいいけど。


「それと、あのバカ息子も右手が吹っ飛んで泣いてたわよ!ざまぁみろって感じだったわ!」


「たしかにな。はは、改めて聞くとオレ、野蛮だよなぁ」


「むしろ、それくらいで済んで感謝してほしいものじゃな」


 ティナがそう言うと、何人もの村人が村長の家に走って行ってるのが見えた。


「村長を探せー!」

「あのジジイを捕まえろー!」

 なんて叫んでる。


「ティナ、あれって?」


「あぁ、昨日の井戸での会話を風の精霊に頼んで、村中に伝えたのじゃ。村人は怒り心頭のようじゃの。もしも、あやつらが無事だったとしても、もう、あやつらが村を治めることはままならないじゃろう」


「…そっか…ティナちゃん…ありがと…」


「なんの、当たり前のことをしただけじゃ。わしもミリアの家族じゃからな」


「かぞく……おねえちゃん?」


「おぉ!よいぞ!そう呼んでも!」


 お姉ちゃん呼びに子ども好きのティナが過剰に反応する。


「んー……やっぱり、ティナちゃんって呼ぶ……おにいちゃんだけ…特別…」


「そうかのう…」

 非情に残念そうだ。


「うふふ♪ライさんには誰も敵いませんね♪」


「それで、ミリア、あいつらのこと、どうする?もし、確実にやりたいっていうなら、今からオレが斬ってくるよ」


 ちょっとお茶らけた空気になりかけたが、真剣な顔をして、村長たちの処遇についてミリアの希望を聞くことにした。


 みんなも静かになってミリアの言葉を待つ。


「………ううん…もう、いいの。

 おにいちゃんは、十分…ミィと…おとうさんと、おかあさんの…ために、がんばって、くれたから……ありがとう…ね?」


「そんな……そんなことないよ……当たり前じゃんか、オレはミリアのお兄ちゃんだからな!」


「なによ、あんた泣いてるの?かわいいじゃない!」


「かわいくない!」


 袖で目をぐしぐしやってると、


「…おにいちゃん…かわいい…ね…」


 ニコッとミリアが微笑みかけてくれた。


「ミリアが笑ってくれて……よかった……オレは…それだけで嬉しいよ…ぐすっ…うぅ…」


 ミリアの心からの笑顔を見て、今度は我慢できなかった。


「ライ様、こちらを…」


 涙目のリリィがハンカチを渡してくれる。


「ありがとな、リリィ…

 よ、よっし!もうこの村には用はない!ミリアの家に行って、なるべく持てるものは持って出ていこうぜ!」


「うん…そうする…」


 ミリアの同意が得られたので、村を出る準備のためにミリアの家に向かった。



 家の中に入って、何を持っていくか相談する。


「ミリア、お家を持ってくことはできないけど、家具なら持っていけるよ。どうする?」


「んーと……テーブルとイスと…あと、お皿…それだけでいい…」


「わかった。布団とか農具はいいんだね?」


 もともと、家具は全然ない家だった。1人になって家具を切り売りして生活していたのか、なにか事情があったのか、今更詳しいことは聞かない。きっとミリアにとって辛いことだ。


「大丈夫…他のは…ミィのじゃないから…」


「そっか、わかった、じゃあ」


 オレはテーブルとイス、それに食器類をアイテムボックスにしまう。


「よし!準備完了だ!行こうか!」


「うん…」


 家の外に出て、振り返る。


 オレの隣に立ったミリアは、家の方を見て動かなくなる。


「やっぱり…寂しいよね…」


 生まれ育った、ご両親との思い出がある家だ。

 離れるのは辛いと思う。


「うん…少し……でも…おにいちゃんたちがいるから…へいき…だよ?」


「ありがとう、手、つなごっか」


「うん!」


 笑顔を向けてくれたミリアの手をとって、オレたちは村を後にした。



 お義父さん、お義母さん、ミリアのことは絶対幸せにします。


 だから、安心して天国で見守っててください。


 ミリアを育ててくれて、ありがとうございました。



 こうして、オレたちはかわいい妹を悪夢の中から救い出すことに成功した。

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