第181話 悪い子だって愛してる
「少しスッキリしたわね!」
走りながら、ソフィアが話しかけてくる。
「そうだけど!ミリアが見つからないとなんも意味ないよ!」
「そうね!急いで探しましょう!」
みんなに意識共有で状況を確認する。
「みんな!見つけたか!?村長の家にはいなかった!」
「村の出入り口にはいません!村の方にも聞きましたが、今日、村の外に出た人は見てないそうです!」
「ライ!墓地で問題発生!モンスターが大量に湧いてる!墓地に近づけない!」
「わかった!すぐ行く!畑のあたりまで撤退してくれ!」
「わかった!」
「みんな!畑で合流しよう!」
コハルからの連絡で異常があることを認識し、すぐに畑の方に向かう。
タイミング的に、一連の騒動が無関係とは考えずらい。ミリアに繋がる何かがあるのではないかと思い、現場に急いだ。
♢
畑に到着すると、リリィとステラはすでについていて、墓地の方からコハルとティナが走ってくるところだった。
「墓地のモンスターはどうなってる!?」
「ゆっくりだけど村に向かってるみたいだった!」
「スケルトンじゃ!」
「スケルトンといえば骨のモンスターか…墓地から来る、ってことは…」
「もう、来たようです…」
リリィが神妙な顔で墓地の方を見る。
かなりの数のスケルトンが村に向かって歩いて来ていた。
畑仕事をしていた村人はすぐにそれに気づき逃げ始めている。
「あれって…人骨だよね…」
「そうですね…」
「つまり…悪い人じゃない人も…」
「ライ、今は考えるな」
ティナがオレの手を握ってくれた。
「う、うん…ありがとう…」
ついさっき、人間の腕をぶった斬っておいて、なにを躊躇してるんだと思われるかもしれない。
でも、違うのだ。
オレの中で、一応ルールは存在するのだ。
明確な悪は殺しても、どうなってもいいと思ってるけど、
そうじゃない人、特にいい人には報われてほしいと思ってる。
だから…死んだ人といえど、あれと戦うのは抵抗があった。
しばらく、スケルトンの軍団を眺めていると、その全貌が見えてきた。
50体ほどだろうか、小高い丘の上から村に向かっておりてくるため、だいたいの数が見て取れる。
そして、スケルトンの最後尾に、見慣れた少女の姿を見つけてしまった。
「ミリア!!」
みんなもその姿を見ている。
虚な表情でフラフラとスケルトンの最後尾をミリアが歩いていた。
右手にはぽかへいを抱えている。
「あれは!操られてるのか!?」
ティナとソフィアを見る。
「わからないわ…」
「わしもじゃ…」
「そ、そうか…」
「でも……たぶん…違うわ…」
「……そっか…」
つまり、ミリアの意志で村を…
「…オレが1人で止める」
「なっ!?ライ様!だめです!」
リリィが真っ先に反対した。
「スケルトンの討伐ランク、わかる人いるかな?」
「たぶん、中級Cくらいよ、一体ならね」
「見たところ、あいつらは武器を持ってない、危険度は低いはずだ。なるべく戦闘はさけて、ミリアのところまで行って、説得する。
もし、オレが危険になったら、すぐに援護してくれ。それならいいだろ?」
「それは…しかし…」
「任せてほしいんだ、リリィ。
なるべく穏便に終わらせたい。ミリアに村を襲わせたくないんだ」
「…わかりました。しかし、わたしが危険だと判断したら、ライ様の指示を待たずに援護します」
リリィに強い目を向けられる。
「わかった、それでいい」
スケルトンは、まだ畑の中腹だ。村までは距離がある。
「じゃあ、行ってくる」
オレはみんなに目配せしてから、走り出した。
墓地への畦道を走り、低く構えて、畑の中に入る。
稲の中に身を隠しながら走っていくが、何体かのスケルトンに見つかった。つかまれそうになる。その腕を弾いて、足を切って動きをとめる
それを何度か繰り返し、さらに大回りして最後尾を目指して駆けていく。
前方から3体のスケルトンが襲いかかってきたので、大きくジャンプして回避。
すると、50mほど先にミリアの姿をとらえることができた。
「ミリア!!」
大きく声をかける。
すると、虚な目をしたミリアがオレの方を見た。
「すぐ行くから!!」
その声に反応するように、多くのスケルトンがオレに突進してきた。申し訳ないと気持ちを込めつつ、ライトニングで吹き飛ばす。
そして、ミリアの目の前までたどり着いた。
オレたちの周りをスケルトンたちが囲んでいる。
「ミリア!!もう大丈夫だ!!一緒に帰ろう!!」
「………なにが……だいじょうぶ…なの?」
口を開いたミリアは、オレの方を向いているのに、オレとは目を合わさない。
虚ろな目で虚空を眺めている。
「ミリアにはオレがついてるから!!」
「……でも…おとうさんが…おかあさんが……ゆるせない…」
「ミリアが復讐したいなら手伝ってやる!でも!村の人たちの!死者のこんな姿を利用するのは違う!」
「……でも!ミィには!これしか出来ないから!たたかえないから!」
「だから!オレがミリアの力になるから!オレがミリアのために戦うから!!」
「おにいちゃんを悪者になんてさせれない!ミィにはできないよ!!」
このとき、やっとミリアがオレの目を見てくれた。
「悪者になってもいい!ミリアのためなら!」
「なら!ミィが人を殺せって言ったら殺してくれるの!?」
「そいつが悪人なら殺してやる!」
「そんなのダメだよ!」
ミリアは頭を振って怒鳴る。
「もういいんだ!ミリアがやりたいようにやればいい!でも!やり方を間違えるな!」
「……もう…やめれないよ…ミィは…おとうさんと…おかあさんの…仇をとるの…
じゃま…しないで…」
また生気のない表情になっていくミリア。
「オレがミリアの代わりにやるから」
「わかんない……いい人なら…殺すなって…復讐なんて…やめろって言うはず…でしょ……
だから…ライさんは…いい人じゃない…おにいちゃんじゃ…ない…」
「ミリアはそうやって沢山悩んで、何度も我慢しようとして、オレたちにも相談しようとして、でも、復讐なんてひどいこと、相談したら止められる、そう思ったんだろ?」
「そう…だよ…」
「止めないよ、ミリアがたくさん考えたことなら、それが正しいことなら」
「なに…それ…」
だんだん、ミリアの目の焦点がオレに合ってきた。
「今回のことは、ミリアは何も悪くない、悪いのは全部あいつだ。
ミリアが殺したいならオレが殺す。
でも、なにも悪くない人をミリアが殺したいって言ったら、そのときは止めるよ。それだけのことだよ」
「………でも……殺したい……なんて…言ったら……ミィのこと…嫌いになる…でしょ?」
ミリアの目には涙が溜まりはじめていた。
「ならないよ」
「ころしたいって……思う…ミィは…悪い子…だよ?」
「少しくらい悪い子でもいいよ、ミリアはいい子すぎたんだ。理不尽なことがあったら怒ってもいいんだ。それにオレだって、あいつのこと、殺したいしな」
ニヒヒ、と笑顔を見せる。
物騒なセリフとは裏腹な笑顔だ。
この場に似つかわしくない。
でも、オレにはこれが正しいことだと思えた。
「……おにいちゃんは……ミィのこと…すき?」
「大好きだよ」
「ミィ…ひとりぼっちだから…かぞくがほしい…」
「なら、今日からオレがミリアの家族だ。兄貴になるよ」
「おにいちゃんに……なってくれるの?……悪い子なんだよ?ミィは…」
「うん、喜んでなるよ。
大好きだ。愛してる。ミリア。おいで?」
剣を鞘にしまい、両手を広げる。
ミリアが一歩踏み出そうとして躊躇する。
その両肩を後ろのスケルトンが、トンッと押した。
「え?……」
そのまま、とてとてと歩いてきて、オレの胸の中に抱きしめられる。
「おかえり、ミリア。
……おとうさんと、おかあさんも、ミリアにこんなことして欲しくないって……言ってる…ね?」
オレの方が先に気づいてしまい、泣きそうになる。
「…え?」
ミリアが振り返る。
振り返った先には、優しい表情をした女性と男性が光に包まれて、たたずんでいた。
「おとうさん?おかあさん?
……おとうさん!おかあさん!」
気づいたら、すぐにそこに駆け出した。
その光はミリアのことを抱きしめる。
「おとうさん!おかあさん!!なんで!いなくなっちゃったの!ミィ!寂しかった!
おとうさん!痛かったよね!
おかあさん!苦しかったよね!
ミィが!ミィのせいで!だから!!うぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁ!!」
2人はミリアの頭を撫でる。
〈ミリアのせいじゃないよ〉そう言ってるように感じた。
♢
「ぐすっ……ぐずっ……」
「ミリア」
泣きじゃくっていたミリアをずっと抱きしめてくれていた2人の光が弱くなってきたのに気づいて、ミリアの肩を触る。
「おとうさん…おかあさん…もう、いっちゃうの?」
2人は笑顔のままだ。
「……わかった…ミィ…がんばって…生きてく…おとうさんと…おかあさんの分も…」
「ミリアは…偉いな…すごく…偉い子だ…」
オレは泣きながら頭を撫でた。
その様子を見てなのか、両親と目があった。
『ミリアを頼む』
そう言われてるように、感じた。
だから――
「ミリアのことはオレが一生守ります。だから、お嬢さんをオレにください」
涙を拭いて、真剣にご両親に宣言した。
光の中の2人はおかしそうに笑った。
こんなときに、そんなことを言うなんて、おかしなやつだ。
そう思われたのかもしれない。
でも、
『娘を任せた』
『よろしくお願いします』
2人から、そう言われた、たしかに、そう言われた。
「おとうさん…おかあさん…バイバイ……ミィは…おにいちゃんと、一緒に、行くね…」
その言葉を最後に2人の光は消えていった。
そして、周りのスケルトンたちも光に包まれ、光の粒となり、空にのぼっていった。
不謹慎かもしれない。
でも、この人たちが育ててきた畑の中で、光になって天国に向かっていく姿は、とても、美しい光景だと、感じた。
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