第178話 悪人を追い詰める方法

 みんなで議論をはじめてから、ジジイを追い詰める名案が浮かばないまま、夕方になってしまった。


 ひとまず夕食にしようということになったので準備をはじめようとしたところ、そういえば、と思い出したことがあった。


 お昼に倒したイビルグリズリーとかいう熊の肉だ。あれは美味いのだろうか?


 気になってアイテムボックスから取り出し、「これ焼いてみてもいい?」と聞いてみると、「臭いから外でやって」と追い出されてしまった。


 ジビエは不評のようだ。


 ミリアの家の前で七輪を取り出して、一人焼肉の準備をしながら、攻略スキルを開く。

 すると、ひさしぶりにアドバイスが表示されていた。


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夕食を食べた後、ティナと一緒に村長の家に向かってください。


家の裏手に井戸があるので、その近くで身を隠してください。


村長の会話を風の精霊の力で録音して、然るべき時に村人に暴露してください。

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 なるほど、やっぱりあのクソジジイがモンスターを呼び寄せた犯人ってことか。


 これは、早めにティナと打合せしておいた方がよさそうだな、と考える。なので、一人焼肉を中止して、家に戻ることにした。


「ティナ、ちょっといい?」


「なんじゃ?」


「あ、今日は真面目な用事ね?」

 ニヤニヤと補足する。


「……なんじゃ?」


 恥ずかしがらないように努めてジト目をしていることがわかり、可愛く思う。

 いやいや、今はそんな場合じゃない。


「あのさ、この後、村長がボロを出さないか調査しにいくつもりなんだけど、あいつらが話した内容を記録する魔法ってないかな?」


 攻略さんのアドバイスからしてティナがその術を持っていることはわかっていたが、事前に確認しておく。


「ふむ?音だけを残しておくのなら、風の精霊に頼めばできるはずじゃ」


 やはりできるようだ。


「そうか!なら、ご飯の後、一緒に来てくれないか?」


「もちろんじゃ」


 そして、ステラが準備中の料理を終盤だけ手伝って、ミリアを起こしてからみんなで夕食を食べた。



 夕食を食べて片づけをしたら、あたりはもう真っ暗だ。


 いつも通り、シャワーを順番に浴びて、ミリアを膝に乗っけて頭を撫でていたらすぐに眠ってしまった。


 ステラと一緒に寝室に向かい、ミリアを寝かせて、

「任せた」

「はい♪私がついてますね♪」

 とやりとりをしてから部屋を出る。


 ティナと目配せをして、音を立てないように身支度した。


「今日は先に寝てていいからね」


「はい、わかりました、お気をつけて」


 リリィに見送ってもらい、オレとティナは黒いローブに身を包み、家を出た。


 村長の家の位置は、以前それとなくミリアから聞いていたので目的地ははっきりしている。

 真っ直ぐにそこに向かった。



 村長の家の近くまで来たら、しゃがんだ状態でティナに小声で話しかけた。


「とりあえず裏手に回って様子を見よう」


「わかったのじゃ」


 ティナと2人で裏庭に回る。

 すると、井戸を見つけることができた。


 攻略さんは井戸の近くで身を隠せって言っていた。

 あのあたりだな。


「よし、あの石垣の裏に隠れよう」


「了解じゃ」


 ティナと石垣の裏に移動し、しゃがんで身を隠す。


 村長の家はまだ明かりが灯っていた。中にはいるようだ。


 攻略さんのアドバイス通りなら、待っていれば勝手に向こうから井戸の近くにやってくるはずだ。

 ここは辛抱だな。


「中には入らぬのか?」


「今日はまだね。トラブルになったらイヤだし」


「わかったのじゃ」


 そして、しばらく待つことにした。



 1時間は経っただろうか。

 おしゃべりをするわけにもいかないから、眠くなってきた。


 ティナを見る、かわいい。

 そっか、ティナを眺めてれば飽きないな、と名案を思いつく。


「なんじゃ?」


「ん?暇だからかわいいティナを見てる」


「な、なんじゃそれは…」


 恥ずかしそうに下を向く。


「……ふん…では、わしもそうするとしようかのう」


 対抗してオレのことを見つめてきた。綺麗な瞳がオレを見ている。


 睨めっこみたいだが、特に笑う感じにはならず、ジーと見つめていた。


「は、はずかしいのじゃ…参った…」


 なんだか勝利してしまった。

 別に勝負していたつもりはないが、そんな可愛い表情されたら、イチャイチャしたいという衝動にかられてしまう。

 しかし、我慢する。


 ……手くらい繋いでもいいかな…


 ティナの手を握ると握り返してくれた。


 これでしばらくは眠気に耐えれそうだ。

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