第177話 妹は強化魔法の使い手

 村長と揉めてから3日後、今日もみんなで畑に向かう。


 ジジイが何かしてくるかもと思ったが、今のところまだ何も起きていない。でも、万が一に備えて、オレたちは全員でまとまって動くことにしていた。


 畑に到着する。


 畑の持ち主のオッサンはいつも通りに見えた。村長から嫌がらせをしろ、とかの指示はもらっていないように見える。

 オッサンとミリアが話すとき、なるべく近くで待機するようにしていたいが、「もう来るな」とも「もっと働け」とも言われないのだ。


 というか、畑のオッサンは、オレたちと村長がトラブったことを知らないのではないだろうかと思うほど、いつも通りだった。


 村長のジジイが何かやってくるかと思ってたけど杞憂だったのかなぁ?

 と考えながら畑仕事を進めていると、畑の奥の森が騒がしいのが気になった。


 たくさんの鳥たちが森から飛び立ち、なんだかそのあたりがざわついている。


「なんだ?コハル、わかる?」


「ううん、なんか動物の声が聞こえるけど…」


 まもなくして、鳥たちに続くように、多くの小動物が森から走り出してきた。


 おかしい。


「全員!戦闘準備!」


 畑の入り口付近で座っているみんなに大声で声をかけた。


 オレとコハルはアイテムボックスから武器を取り出して構える。


「ピー!」

 ピーちゃんの声色からも、敵が近づいていることが伺えた。


 ズシン…ズシン…


 そんな足音と共にそいつ、いや、そいつらは現れた。


 身の丈4mはありそうな、巨大な黒い熊。

 それが5、10、20匹はいる。


「い、イビルグリズリーだ!にげろー!」

 畑のオッサンがそう叫びながら逃げていく。


「村には行かせるな!」


 ステラが前衛に合流し、後衛のみんなが構えるのを待ってから、そう声をかける。


「コハルとティナでミリアの護衛!後衛は固まって!行くぞ!ステラ!」


「はい!」


「ロックウォール!」


 ソフィアが岩の壁を築き、熊たちを村に行かせないようにする。


「わしはここから動けん!援護に徹するぞ!」


 バン!バン!

 と遠巻きに銃を撃ちながらティナが叫ぶ。


「……な、なに…」

 ミリアは怯えた様子でガクガクと脚を震わせていた。


「ミリア!わたしたちから離れないように!」


「う…うん…」


 リリィがミリアを庇うようにしてくれている。


「ライさん!」


「おう!任せろ!」


 オレたちは2人で次々と熊たちを屠っていく。


 打ち合うと力が強くてこたえるが、受け流せば問題ない。

 以前は出来なかった受け流しができるようになっている。コハルとの稽古が活きていることを実感した。


「近づかせないよ!」


 前衛から抜けた2匹をコハルが後方で相手どっていた。


「フレイムストーム!」


 それをソフィアが魔法で貫く。


「……みんな…がんばって…がんばって…ミィも…ミィも…なにかしなきゃ…」


「ミリア?」


 ミリアの異変に、最初に気づいたのは1番近くのリリィだった。


 ミリアの周りに光が集まっていく。


「がんばれ…がんばれ…」


 その光は、ぽかへいに収束した。


「がんばってー!!!」


 そして、ぽかへいから放たれた光は大きく広がり、オレたちの身体に吸い込まれた。

 みんなの身体が淡く光っている。


「なんだ?身体が軽い?」


 オレたちは動きを止めずに斬り込み続ける。


 ステラと目が合うと、彼女も不思議そうにしていた。いつもと違う感覚に戸惑っているようだ。


 その不思議な光に包まれながら、オレたちはイビルグリズリーを討伐し尽くした。


 全てのモンスターが討伐できたことを確認してから、みんなのもとに戻る。


「ねぇ、さっきの光ってミリアが?」


 オレたちの身体を包む光はもう消えていた。

 だから、その光を発生させたであろう本人に確認する。

 しかし、


「わ…わかんない…」

 ミリアは首を左右に振る。


「でも、ミリアとぽかへいから光ってましたよ?」

 とリリィ。


「さっきの光に包まれてから!ボクすごく身体が軽くなったよ!ありがと!ミリア!」


「やっぱり、コハルもそうだった?オレもだ」


「私もです」


 前衛職は、特に効果を実感していた。


「ほ、ほんとに?」


「うん!ミリアの力だったらすごいことだぞ!なにかしたのかな?」


「えと……ミィ…みんなに、がんばって…ほしくて…おうえん、した…よ?」


「そうなんだ!ミリアのおかげで勝てたよ!ありがと!」


 なんだかよくわからないが、応援してくれたのだからお礼を言うのは当然だ。流れで頭を撫でようと思ったが、血がついてる、後でにしておこう。


「ミィ…役にたった?…」


「すごく助かったよ!」


「そ…そっか…」


 ミリアは嬉しそうだ。


「あれって、魔法だよね?」


「そうね、でも、あんな魔法、わたしは教えてないわ。多分、光属性の強化魔法だと思うけど」


「強化魔法じゃと?治癒魔法に近いレアスキルじゃな」


「そうなの?」


「えぇ、使える人は少ないと思うわ」


「そっかそっか!やっぱミリアは天才なんだな!」


「ミィ、すごい…の?」


「うん!すごいぞ!」


「うれしいな……でも、みんなが…げんき、なのが…1番、うれしい…」


 ミリアの言葉にみんな笑顔になる。


 ミリアが入ってくれたら、もっといいパーティになる、そう実感した。


「あ、もう壁はいいわね、解除するわよ」


 ソフィアがそう言って杖を構えると、

 ゴゴゴゴ…

 村の方に熊たちを行かせないようにしていた岩の壁が土の中に戻っていく。


 壁がなくなると、村人たちが集まってきていて、遠目にオレたちの様子を伺っている。


 血がついた身体を簡単に洗って、この熊の死骸どうしようかな、と思っていると、


「おーい!あんたら大丈夫なのかー!」

 と、やっと畑のオッサンから声がかかった。


「大丈夫ですよー!」と返答すると近づいてきたので、「あれの素材いりますか?」と、熊の死骸を指して聞く。


 すると、「いいのか!?」と嬉しそうにしたので、「村の皆さんでどうぞ」と譲ることにした。


 だって、20匹も剥ぎ取るのめんどうだもの。お金にも困ってないしね。


 あ、でも、コイツの肉うまいのかな?

 と、ふとそう思い、1匹だけ少し肉を剥ぎ取って、その日はミリアの家に帰ることにした。



 家に帰り、みんなで順番にシャワーを浴びる。


 さっぱりしてから最後にシャワーから出ると、ミリアはすぅすぅと眠っていた。


 今日はリリィにもたれかかっている。


「ねぇ、あの熊ってさ、偶然だと思う?」


 頭をタオルで拭きながら、みんなに話しかける。


「たぶん、あのジジイがなにかしたのよ」


 ソフィアはオレと同意見のようだ。


「でも、そんなこと出来るんですか?」


「あれじゃない?デルシアでキースが使ったとかいうモンスターをおびきよせる魔道具とか?」


「それよ!あのジジイしばきましょ!」


「それは賛成だけど、証拠がないとな〜」


「たしかにのう」


「前みたいにティナの魔法で自白させるとか?」


「今は闇の精霊がぽかへいの中におるから無理じゃな」


「おぅ……なるほど…じゃあ、別の方法であいつから証拠を引き出す方法を考えようか」


 そう言って、みんなで、あーでもないこーでもない、と議論を始めることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る