第176話 村長とのトラブル

 ぽかへいが動くようになってから、ミリアはどこに行くにも、ぽかへいを連れていくようになった。

 そして、ぽかへいに話しかけるとリアクションしてくれるので、自分でぽかへいの声役をすることもなくなった。


 でも、みんなで話し合った結果、「外に出るときは、ぽかへいは動かないようにしてね。村の人がビックリしちゃうから」と頼むことにした。


 これにはミリアも納得してくれて、ミリアからぽかへいにお願いしてもらう。すると、ぽかへいは、大人しく言うことを聞いてくれて、家の中でだけ歩き回るようになった。


 ふむ、やはり知性は高いようだ。


「ねぇ、ミリア、ちょっとぽかへい抱っこしてもいいかしら?」


「うん…いいと思う…よ」


 ミリアがぽかへいを机に置くと、てとてととソフィアの方に歩いていく。ソフィアの前に着くと両手を広げた。


「…なによ、かわいいじゃない」

 ソフィアはそう呟き抱っこする。


 そしてぽかへいはソフィアたんの胸にすりすりした。


「かわいいわ、すごく」

 ソフィアは笑顔でぽかへいの頭を撫でる。


 むぐぐ、大丈夫、あいつはぬいぐるみだ、性別はない…

 オレは嫉妬の炎を鎮めようと必死だった。


「ソフィア、わたしもいいでしょうか?」


「ちょっと待ってよ、リリィ、今抱っこしたばっかよ」


「ぼ、ボクもいいかな?」

「ピー!!」


 コハルがおずおずとぽかへいに近づくと、案の定、頭の上のピーちゃんがキレた。


「ピーちゃん…許しておくれよぉ…ちょっと抱っこするだけだからさ」

「ピー!!」


 ピーちゃんは許してくれないようだ。


 この前ぽかへいに殴られたからな、しょうがないかもしれない。


 コハルの様子をみると、ぽかへいを触りたくてウズウズしているようだった。これは、ピーちゃんが双剣の中で充電してるときに、こっそり触ることになりそうだな、と予想する。


 まぁ、この通り、うちの女性陣にぽかへいは大人気だ。


 自分の意思をもって、歩き回るぬいぐるみは確かに可愛い。それはわかる。


 でも、オレだけは違った。なぜなら、ぽかへいはなんだかオレには冷たいのだ。だから愛でれない。

 なんどか触ろうとしたのだが、拒絶されてしまっていた。


 うーむ?

 一度は代えの服を用意してくれたりして好意的なのかと思ったのだが、そのあと、ティナとの行為を覗かれてスケベヤロー認定でもされたのだろうか?


 考えごとをしながら朝食を済ませると、いつも通りの畑仕事だ。


「今日はわたしも行くわ」


「では、わしも」


 最近は留守番することも多い2人もついてくることになり、全員で畑に向かうことになった。



 畑を目指し、田園風景の中をみんなで歩いていく。


「そういえば、2人って留守番してるとき何してるの?」


「魔法の研究と勉強ね」


「そうじゃな、わしは精霊についてソフィアに教えて、魔法の詳しい術式をソフィアから教わってることが多いのう」


「へ〜、2人は今でもすごいのに、もっとすごくなるのか〜、それはすごい」


「何よその言い方、バカにしてる?」


「してないよ?」


「なら、あんたがバカなだけね」


「うん?ソフィアたん?」


「……謝らないわよ」


 ふーむ、お仕置きを恐れながらも挑戦的なその目、そそりますねぇ。


「ほっほっほ、今日は皆さんで畑仕事ですかな?」


「……あ、こんちは」


 道すがら、村長が話しかけてきた。一応足を止めて挨拶をする。


 ミリアはオレの後ろにすぐ隠れてしまう。


 その様子をジジイは面白くなさそうに見ていた。


「最近は、皆さんがミリアの分も働いていると聞いています。すみませんねぇ、私の妻の出来が悪くて」


 村長の言葉に、みんな嫌な顔をする。もちろんオレもだ。


「いえ、ミリアは大変良くしてくれています。なにも問題はありません」


「そうでしょうか?成人にもなって、そのような人形を持ち歩くなど…私には出来が悪く見えますな。ミリア、それを渡しなさい」


 ぽかへいのことだろう、村長がミリアを睨みつける。


「え?……い…いや…」


「渡しなさい!」


 ジジイが近寄ってきたので、手を広げて通せんぼする。


「やめてください」


「ほ?夫婦のことに口を出さないでいただけますか?」


「……ねぇ、あんた。ホントにミリアと結婚できると思ってるわけ?」


 頭に怒りマークを付けたソフィアがミリアの前に出て、庇うようにそう言った。


「なんですか?あなたは?」


「ミリアはあんたなんかと結婚しないわ!どっかいきなさいよ!」


「ほほう、これは生意気な子どもだ。躾がなっておりませんな?」


 ジジイはオレの方を見る。


「そうでしょうか?オレにはそうは思えません。彼女の意見はオレたちの総意です。お構いなく」


「………どういうことでしょう?」


「そのままの意味です」


「……すぐに、村から出て行っていただけますかな?」


「お断りします」


「ふむ……そうですね。私どもではあなた方には敵いそうもない……

 そうですか……そうすると…考えないといけませんね?」


「どうぞ、お好きなように」


「……」

 ジジイはオレたちを一瞥してから踵を返して帰って行った。


「……ごめんなさい」


 ソフィアがやってしまった、という暗い顔をして、オレとミリアに謝ってくれた。


「いいんだよ、おいで」


 ソフィアを呼び寄せて抱きしめる。


「みんなが思ってたことだ。代弁してくれてありがとうな」


「うん…」


「ミリア」


「な…なぁに?…」


「ごめんな。ちょっと村には居づらくなると思うけど、ミリアを1人にはしないから。オレが、オレたちがミリアのこと絶対守るから」


「う…うん…ミィは…大丈夫……みんなも…ぽかへいも…いる…から…」


 村長とのトラブルの後、いつも通り畑に向かい、畑の持ち主から指示をもらって楽しく畑仕事を行った。


 トラブルはついさっきのことだ。

 だから、この時点では何も問題は起きなかった。

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