第173話 雷雨とお人形
「ミリアは賢いな、よしよし」
「えへへ…ありがと…」
魔法勉強会が終わったあと、オレはイスに座ってミリアを膝に乗せた状態で、ミリアの頭を撫でていた。
夕食前のちょっとしたリラックスタイムである。
頭を撫でながら下を見ると、ミリアがオレの方を見て笑い返してくれる。
素直でいい子で、かわいい。
ミリアは背中をピッタリとオレの胸につけ、力を抜いてもたれかかっていた。
オレの小さい妹はあったくってすごく柔らかい。密着していると、幸せな気持ちであふれていく。
ニコニコしながら、ふとミリアの顔のさらに下の方に目線をやってしまった。
こんな大人しい子とは正反対の主張の激しい双丘がふるふると揺れていて、
「ごくり…」と、目を奪われてしまう。
雑念退散!!雑念退散!!と念じる。
いかんいかん!
オレはお兄ちゃん!オレはお兄ちゃん!
ミリアのことを守らないとダメなのだ!
そう言い聞かせて、オレ自身を落ち着かせるように努める。
間違ってもミリアから、「おにいちゃん?お尻になにか固いものが当たってるよ?これなぁに?」、なんて言われるわけにはいかないのだ。
「ココア…美味しい…ね」
「そうだね、美味しいね」
ミリアはオレの膝の上でココアのカップを両手で持って飲んでいた。オレはその様子を眺めながら頭を撫で続ける。
そうしていると、隣に座っていたティナがミリアに話しかけた。
「ミリアはライのことは好きか?」
「え?……うん…好き…」
お?いいことを聞いてくれた。
そっかそっか、好きか、オレもだよ、んふふ。
「……」
おっと、ティナがジト目で見てくるのでキリっとした表情に戻しておこう。
「そうか、わしらのことはどうじゃ?」
「みんなのことも…すき…だよ?」
「そうか、ならばわしらと一緒に来る気になったかのう?」
「………ミィ…まだわかんない…」
ふるふると首を左右に振る。
「そうか……わかった、ゆっくり考えるといい。わしらはミリアが決心するまでずっと一緒におるからの」
「……うん…」
ミリアの回答を聞いて、「そっかー、まだダメかぁ…」と残念に思う。
でも、ミリアはオレたちのこと、みんな好きと言ってくれた。
だから、もうちょっとなのかなと期待して待つことにする。
「あ……お墓…行かないと…」
ミリアがココアのカップを机に置いて、オレの膝からおりようとする。
「ちょ、ちょっと待って」
オレは優しくミリアの両肩を持ってステイさせた。
窓の方を見ると、外は土砂降りだった。土砂降りなのは、少し前から屋根に当たる雨音からもわかっていたのだが、それでも、お墓参りに行くなんて言い出すと思わなかったから少し驚く。
「外は雨が沢山降ってるし、空が光ってる。危ないから、今日はやめておこうな?」
なるべく優しくお願いする。
「え……い…いやだ…」
珍しく言うことを聞いてくれないようだ。
そうだよな、大切な人たちのお墓だもんな、と苦しくなる。
でも、
「ごめんな。でも、ミリアが大事だから、雷が落ちそうな日に外に出したくないんだ。心配性でダメなお兄ちゃんを許してくれないかな?」
「だ、ダメ……じゃない…よ?……うん…わかった…がまん、する…」
「そっか、わかってくれるか、ありがとうな、ミリア」
ちょっとズルい言い回しだったけど、オレが悪者になることによってミリアは意見を変えてくれたようだ。
よしよしと引き続き頭を撫でてやり、時間をつぶす。
それから、ミリアはボーっと窓の外を眺めていた。
お墓行きたいんだよな、ごめんな、という気持ちをこめて甘やかし続けた。
♢
ゴロゴロゴロ
しばらくすると本格的に雷が鳴りはじめて、ピシャ!と空が光る。
それから、ゴーン!っと遅れて音が鳴った。
遠くに雷が落ちたようだ。
「こ…こわい…」
「大丈夫だよ、オレがそばにいるからね」
「うゆ…そばに…いて?」
「うん、一緒にいるよ」
「あったかい…」
ミリアはオレの胸にもたれかかったまま、目を閉じた。そして、すぅすぅと寝息をたてはじめた。
「この天気の中、出ていく、などと言い出さなくてよかったのう」
隣のティナが目をつむったミリアをみて、優しく微笑んで口を開いた。
「だよね、よかった」
「おぬしのことはずいぶん信用しておるようじゃのう」
「だといいけど、なかなか一緒に行くとは言ってくれないよね」
「そうじゃな…」
「でも、さっきは聞いてくれてありがと、ティナ」
「いや、大丈夫じゃ、わしもミリアを救ってやりたいからの」
優しく微笑むエルフちゃんを見て、すごく愛おしくなった。
だから、
「キスしてもいい?」
とお願いする。
「…よいぞ」
手を伸ばすと近づいてきてくれたので、頬に手を添える。触れるだけのキスをした。
「ありがと、ティナ」
サラサラと髪を撫でる。
手を離して、またミリアを見る。よく眠っているようだ。
明日は気が変わって、一緒に村を出るって言ってくれないかなー、
と考えながら、ゴロゴロと鳴っている外の様子が気になって窓に目線をやる。
すると、窓際に座っている、ぽかへいと目があった。
………あれ?
あいつ、机の上に置いてなかったっけ?
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