第170話 今はいない大切な人たち

-主人公視点-


 ミリアに村を出ることを提案した翌日、ミリアは考え込むような、難しい顔をすることが増えた。村から出ることを考えているからだろう。


 きっと、なにかやり残したことがあるからか。もしくは、両親との思い出が残る実家から出ることを寂しく感じているからなのかもしれない。


 オレたちと一緒に行くのがイヤだから、ではないと思いたい。

 うん、きっと大丈夫だ、少し時間が必要なだけだろう、と前向きに考えて今日も畑仕事をこなす。


 昨日、ミリアが自室にこもってしまったあと、妻たちと話し合ったところ、ミリアが村を出たいと自分の口で言うまでは今まで通り彼女に接して、急かしたりはしないようにしよう、と結論を出した


 だから、今日もオレとコハルは畑仕事で競争しながら遊んでいる。それを見学するミリアはたまに笑顔を見せてくれていた。



 ミリアの家に帰ってきたら、魔法勉強会だ。今日も、ミリアは重力魔法初級、オレは上級を先生方に教わっている。


 そして、勉強がひと段落したところで、ミリアが口を開いた。


「あの……ちょっと…行きたいところが…あって…」


「もちろん大丈夫だけど、いまから?」


 空はもう赤くなっている、出かけるには遅い時間ではないかと思った。


「うん…近く…だから…」


「そうなの?ついて行ってもいい?」


「うん…いいよ…」


「じゃあ、今日はこれでおしまいね、片付けるわね」


「うん、ソフィアちゃん、ティナちゃん、今日もありがとう…ございました…あの…用意してくるね…待ってて…」


 そう言うとミリアは自室に向かい、ぽかへいを抱いて戻ってきた。


「おまたせ…」


 用意といっても、ぽかへいだけでいいようだ。


「どこに行くの?」


「……お墓参り…」


「…そっか…」


 それを聞いて、みんなが立ち上がった。


「ミリア、みんなも一緒でいいかな?」


「うん…ありがと…」


 ミリアの案内に従い、家を出た。


 村の田園風景の中を歩いていく。

 その道すがら、ミリアはオレの服の裾をずっと握っていた。


 お墓に行くんだ、寂しいんだろう、悲しいんだろう。

 だから、守ってあげないと、強くそう思った。


 皆で、ミリアを守るようにミリアのことを囲んで一緒に歩く。


 10分もたたないうちに、墓地に到着した。墓地は、村を見渡せる小高い丘の上にあった。

 広大な土地に、膝くらいまでの小さい石碑がポツポツとある寂しげな場所だった。


 その中にある石碑のひとつにミリアがゆっくり近づいて、オレの服から手を離す。小さな石碑が2つ、肩を並べるように立っていた。


 ミリアは、悲しそうな顔でその石碑を見て、それから両膝をついて話し出した。オレたちも同じように膝をつく。


「おとうさん……おかあさん……さいきん…来てなくて…ごめんなさい…

 あのね…ミィね…おともだちが、たくさんできたよ…それでね…いまは、すごく、たのしくって…だから…おかあさんと…おとうさんに…紹介したくて…きたよ…」


「ライ・ミカヅチです」

 オレはお墓の前で手を合わせてご両親に挨拶をした。


 妻たちもオレにならって、石碑の前で順番に挨拶をする。


「ライさんはね……おかあさんが言ってた、おにいちゃんみたいな…人なんだよ…

 ミィを助けてくれるんだ…

 ………また、明日もくるね…」


 ミリアの震えるような声を聴いて、こちらまで苦しくなる。


「ありがと……ついてきてくれて……みんなも…」


 ミリアがこちらに振り向いてお礼を言ってくれたので、


「オレたちの方こそありがとう、ミリアの大切なご両親に紹介してくれて」


 と、なるべく優しい声で答えて、ゆっくりと頭を撫でた。


「ミリアは優しい子だな。きっと、お父さんとお母さんも喜んでるよ」


「そうかな……そうだといいな……」


「帰ろうか」


「うん…」


 帰り道、オレとミリアはどちらからともなく手を繋いで、ゆっくりと畦道を歩いていった。

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