第169話 ツインテ妹の闇
「おかえり〜。じゃっ、勉強はじめましょうか」
家に戻ると、留守番をしていたソフィアとティナが出迎えてくれる。でも、魔法勉強会を始める前にみんなと話しておきたいことがあった。
「あ、ソフィア、ちょっと待ってくれるかな?みんなで話し合いたいことがあって」
「そうなの?別にいいけど」
「ミリア、いいかな?」
「な、なぁに?……」
さっきの村長のことがあったからか、まだ少し元気がない。これは、ちゃんと落ち着かせてから話をしないとな、と考える。
「うん、ちょっと待ってね」
オレは人数分のイスを用意してみんなを座らせて、温かいココアを用意した。
「ゆっくり飲んで」
ミリアにココアのカップを渡してそう言う。
「う、うん……甘くて…美味しいね…」
ちょっとはリラックスできただろうか、と思って本題を話し始めた。
「だね。それでね、ミリア、ミリアに聞きたいことがあるんだ」
「な…なに?…」
「あのね、聞かれてイヤかもしれないけど、ミリアのことを助けたいから教えてほしいんだ。それを分かってくれるかな?」
「う……うん…」
「ミリアはさ、あの村長の妻だって言われてるけど、本当は違うよね?」
「……」
また、表情が暗くなっていくミリア。
でも、このことはしっかりと話しておかないといけない。だから、食い下がる。
「ごめんね。言いたくないかもしれないけど、オレはミリアのことが心配で、守りたいから、教えてほしいんだ」
「………ミィはね……村長さんの…およめさんに…ならないと…いけないの…」
すごく苦しそうに、絞り出すように話すミリア。
「そんなことないよ?誰がそう言ったの?」
「村長さん……それに、村の人も……だから…」
「でもね、ミリア。結婚っていうのは好きな人同士がするものなんだよ。ミリアは村長のことが好きなの?」
そんなわけはないって、わかってる。
でも、本人の口から聞かないといけないと思った。
「……」
「教えて?誰も怒らないよ」
「すき、じゃない………き、きらい……」
嫌い。
たしかにそう言った。
ミリアにしては珍しい。今まで一緒にいて、否定的なことを言ったのを聞いたことはなかった。しかし、ここにきて、〈嫌い〉という言葉が出た。
つまり、よっぽどあのジジイのことが嫌いなんだろう。
「そっか、じゃあ、結婚しなくていいよ」
ミリアは首を左右に振る。
「で…でも……親がいなくて…ろ、ろくに、働けないなら…村のために…なれって…」
「なによそれ、ムカつくわね」
「そうじゃな、そんな奴らの言うことを聞く必要はないのじゃ」
「そうですね、それにミリアはあの人のこと嫌いなんですよね?理由を聞いてもいいですか?」
みんなが援護してくれる。そして、ステラがさらに深いところに踏み込んだ。
「………村長は…戦争に行く人を…決めるとき……
ホントは…自分の…息子が行くはず…だったのに……
なのに……おとうさんを……だから、きらい…」
「そっか、そんな事情があったんだね、許せないな」
「うん……ゆるせない……」
ミリアが暗い顔をする。
「ごめんね。嫌なことを思い出させて、教えてくれてありがとうな」
頭を撫でる、すると安心したのか少しだけ柔らかい表情に戻った。
「あのさ、ミリアが良かったら、オレたちと村を出ないか?」
「……え?」
「ここにいてもミリアは幸せになれないと思うんだ。だから、一緒に旅をしないか?」
「ミィが……ライさんたち…と?」
「うん、そうだよ」
「……ミィ、わかんない…」
ミリアは頭を左右に振る。
あれ、まだ早かったか?好感度からしたら大丈夫だと思ったんだけど…
やっぱり、村でのことを解決しないと気持ちよく旅立てないのかもしれない。
「そ、そっか……でも、ゆっくりでいいから、考えてみてくれるかな?」
「……」
特に同意は得られなかった。
「ミィ、少し……考える……」
そう言い残し、一人で自室に入っていって、パタンと扉を閉めてしまう。
「うーん、まだ早かったかなぁ…」
「そんなことないと思いますけど…
なんでしょう?この村に心残りがあるんでしょうか?」
「やはり、両親との思い出かのう?」
「それはあるかもしれないけど、ここにいたって不幸になるのは目に見えてるじゃない」
「オレもそう思うけど、自分を客観的に見るのって難しいからなぁ…」
「ライ様、ミリアにはもう少し時間がいるのではないでしょうか?」
「確かにそうかもね。じゃあ、もうしばらく一緒に暮して、様子を見てみようか。そんなもそれでいい?」
みんな頷いてくれる。
この村に居続けるっていうのは、ミリアにとって良くない。
でも、ミリア本人が村を出たい、って思ってないのに無理やり連れ出すのは違う。
だいぶ仲良くなってきてるんだ、きっと大丈夫だろう。
うん、焦らずにいこう。
-ミリア視点-
パタン
扉が閉まる音が後ろからする。
ミィは布団の方に行って、ぽかへいを抱っこした。
「…ライさんは…ミィを…村から出してくれるって…ぽかへいは…どうおもう?」
「うん、いいことだとおもうよ」
ミィは、ぽかへいと話している気分で、自分の口を動かした。
「だよね…ミィも…そうおもう。でも…そしたら…おとうさんの…こと…どうにもできない…」
「ミリアは幸せになっていいんだよ」
「うん…ありがと…ぽかへいは…優しいね…
でも…おとうさん…戦争で…つらかった、ろうな…かなしかった、ろうな…いたかった、ろうな…
……あのひとのせいで……ゆるせない……」
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