第168話 村での滞在費用

「よし!今日の畑仕事も終わり!帰って魔法の勉強しよっか!」


「う、うん!楽しみだね!」


「はは、オレは苦戦中だけどねー」


「ら、ライさんも!…がんばって!…ミィもがんばるから!」


「そっかそっか!ミリアが頑張るならオレも頑張らないとな!」


「う、うん!」


 この村に滞在して1週間と少しが経過していた。


 ミリアは自分のことをミィと呼ぶようになった。最初はわたし、と言っていたが他所行きの一人称だったのだろう。

 仲良くなって、オレたちに心を許してくれて、きっといつもの呼び方に戻ったんだな、と思う。

 自然体で話してくれて、うれしい限りだ。


 ミリアの家に帰るために、畑から出ようとする。

 すると、


「ほっほっほ、精が出ますな」


「……」


 あいつが話しかけてきた、村長だ。

 ミリアのことを我が妻とかいうジジイが畑の外で待ち受けていたのだ。


「あ、こんにちは」

 一応、適当に挨拶はする。


 確信はないが、こいつがミリアに嫌がらせをしているのは、わかっていた。でも、すぐに殴ったりするのは人としてどうかと思う。だから、もう少し情報を仕入れてからにしよう、と考えていた。


「ミリアのもてなしはどうですかな?」


 ミリアは村長に見られてビクッとしたかと思うと、オレの後ろに隠れて服の裾を強く握った。


「ほほ?ずいぶんと仲良くなられたようで?」

 ジジイは髭をいじりながら、面白くなさそうにオレを見る。


「いえ、ミリアはとても良くしてくれています。問題はありませんよ」


 ミリアはオレが守る。

 その気持ちを全面に押し出して、ジジイからミリアを隠す。


「そうですか。…それで、あなたたちはいつ旅立つので?」


 後ろのミリアがビクッとするのがわかる。


「まだ、しばらくは滞在するつもりです」


「…そうですか。でしたら、その、ねぇ?」


「あぁ、はい、そうですよね」


 村での滞在費用のことだろうと、そのやらしい笑みからすぐに思い当たった。オレは以前渡した金額の倍、20万ルピーを渡す。


 何度も請求に来られると鬱陶しいし、そのたびにミリアが怯える姿を見たくなかったからだ。


「ほほ、太っ腹ですな、では失礼します。ミリアしっかりとおもてなししなさい」


「……」


 ジジイの呼びかけに、ミリアは答えなかった。


「ミリア!なにか言いなさい!」


「っ!?……」

 大きくビクつくミリア。


「あの!大丈夫ですので!」


 オレは片手を広げて、ミリアのことを守ろうとする。

 クソジジイが、もうどっか行けよ。


「…そうですか?我が妻がすみませんな。それでは」


 ジジイは満足したのか去っていく。


 ミリアはオレの服の裾をギュッと握ったままだ。村長がいなくなったのを確認すると、


「……あの…行っちゃうの?……」

 と、下を向きながら、ポツリとつぶやく。


 村長に怒られたことよりも、オレたちが村から出ていく、ということの方が怖ったのだろうか。

 そうだよな、また1人になるのはイヤだよな…


「ミリアを置いては絶対どこにも行かないよ」


「……ほんとに?」


「あたりまえだろ?ミリアが一緒にいて欲しいなら、ずっと一緒にいるから」


「……うん…」


 じゃあ、ずっと一緒にいて、とはまだ言ってくれない。

 でも、安心したように笑ってくれただけで、今は嬉しかった。


「家に帰ろうか」


「うん…」


 あのジジイのせいで嫌な気持ちになったが、オレがミリアの傍についてれば守ってやれる。だから、大丈夫だ。


 そう考えながら、オレの服を握りしめるミリアと会話しながら、ゆっくりと家に戻っていった。

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