第128話 共闘

『ライ様!』


『リリィか!』


『はい!』


 意識共有が復活する。岩壁に穴が開いたおかげか。


『こっちはデルシアの頂上付近にいる!そっちは!』


『わたしたちはデルシアのギルド前にいます!先ほど頂上付近で土煙が上がったのを確認しました!ライ様たちはそちらに!?』


『あぁ!コハルも一緒だ!今からそっちに行くがやつが目の前にいる!迎え打つぞ!』


『わかりました!』


「コハル!行くぞ!」


「うん!」


 オレたちは2人で横穴から飛び出した。ほとんど崖のような坂道を下っていく。


 正面にはデルシアの町。申し訳ないが、巻き込ませてもらう。


 しばらく下っていくと、すぐに町中の石畳にたどり着き、そのまま走って、ギルド正面の大きな広場に到着した。


 そこには妻たちの姿があった。みんな揃っている。目立った外傷はない。無事だ。


「よかった!ハグはあとで!今はアイツを倒す!!」


「はい!」

「やるわよ!」

「任せてください!」


 オレとコハルはみんなに合流し、いつもの陣形に布陣した。


 全員が武器を構える。


「コハル、剣は?」


 ステラがコハルの双剣を見て質問する。


「壊れちゃった…」


「これ使って!」


 ステラが剣を放り投げる。元々ステラが使っていたものだ。


「でもステラは?」


「私にはこれがある」


 ステラが見たこともない剣を腰から引き抜いた。その手には、青く透明な刀身を持つ細い片手剣が持たれていた。


「完成したんだ」


「ええ、すごい剣です」


 そうか、ゴルエムにオーダーしていた剣。路地の方を見ると、髭面の男が腕を組んでこちらを見ていた。


「そっか、ゴルエムさん、ありがとう」


 コハルはゴルエムに頭を下げる。そして、自分の剣がボロボロだということに気がついて、申し訳なさそうにした。


「コハル、今は集中しよう」


「うん」


 もう一度、気合を入れ直して、オレたちが逃げてきた横穴を目にとらえる。


 すると、コハルが大事に抱えていたピーちゃんの袋が光り出した。


「コハル、袋が…」


「え?ピーちゃん?」


 コハルが袋を開けると、灰は光り輝いており、そこには剣の柄が埋まっていた。


「……」

 無言でそれを引き抜く。


 真っ赤な、とても美しい剣が姿をあらわした。


 袋のサイズとは一致しない、美しい刀身がそこにはあった。


 双剣だ。


 2本目の剣の柄を持つ、そして引き抜く。


 2本の剣を構えるコハル、その双剣は、2本揃うと翼のように見えた。


 どこかで見たことがある翼。ピーちゃんの翼を思い出した。


「ピーちゃん……なの?」


「ピー!」


 コハルの声に応えるように、どこからか愛らしい鳴き声が聞こえてくる。


 双剣があらわれた残りの灰が空中に舞いはじめ、そして、ゴウゴウと燃え広がる。


 その炎は、大きな鳥の形になったかと思うと、徐々に小さくなっていき、

 ピーちゃんの形になった。


「ピー♪」

 ゆっくりと飛んできて、コハルの肩にとまる赤い毛玉様。


「ピーちゃん……」


「ピー!」


 ピーちゃんはメラメラと燃えていた。

 でも、熱くはないらしい、コハルはそんなそぶりを見せず、愛おしそうに撫でながら頬ずりする。


「あんな無茶しちゃダメだよ……」


「ピー?」


 ピーちゃん本人はわかっていないようだ、首をかしげている。


「ゴォォォ!!」


 やつの雄叫びが頭上から響きわたる。

 あの横穴からだ。


 先ほど、横穴が空いたときの轟音もあいまってか、なんだなんだと人が集まってきていた。

 もちろんギルドの人間もだ。


 やつが横穴から顔をだし、オレたちの方をみた。駆け降りてくる。


「全員構えろ!倒すぞ!」


「いくよ!ピーちゃん!」


「ピー!」

 ピーちゃんが双剣に炎を注ぐ。


「私も強くなりましたよ!」

 ステラの剣からは冷気があふれだす。


「天才魔法使いの力を見せてあげるわ!」


「わしも本気でいくかのう!」


「回復は任せてください!」


 そして、やつが広場に到達する。


「ガァァァァ!!」


 すぐに前衛3人で斬り込んだ。


 やつの今の色は赤だ。


「水魔法を!」


「ウォーターレーザー!」

「精霊よ!ウォーターレーザー!」


「ゴォォォ!」


 しっかり効いている。しかしやつの体表はすぐに青色になる。


「くそっ!」


 ころころと属性変えやがって!これじゃあ手が足りない!


 オレたちが戦っているのをたくさんの人が見ていた。そこにはこの1週間で見知った顔がたくさんあった。


「一緒に戦ってくれ!!」


 ギルドに向かって叫ぶ。


 ザワザワとそいつらが顔を見合わせた。


「ふざけんな!そんな化け物と戦えるか!」

 キースのやろうだ。


「この腰抜けが!引っ込んでな!」


「……よし、いこう。ここで引くのは冒険者として違うだろう」


「オレもアニキみたいに活躍してモテモテになるぜ!」


「憧れてるだけじゃ、理想の剣士にはなれませんよね?」


 この1週間、一緒に冒険した仲間たちが武器を構えてこちらにやってくる。


 総勢、32名。


 これならいける。


「やつは自分の属性を自由に変えれる!体の色で判断できるはずだ!その都度、不得意な属性で攻撃しろ!」


 オレの持ってる情報を共有する。


「前衛は斬り込むぞ!」


 掛け声と同時に、10人以上の前衛が斬り込んでいく、お互いがお互いをカバーし、致命傷を負わないようにする。


 そして、後続の魔法使いたちが魔法を叩き込んだ。


「ゴルルル……」


 手が増えたことで、不得意属性をたたき込める数が増えた。

 効いている。しかし、やつの体力は相当多いのか、健在だ。


「神級魔法を使うわ!カバーして!」


「わしもじゃ!」


 ソフィアとティナが声をかけて、多くの人間が彼女たちを守る。



「風を司るものたち


原初より在りしそなたたち


恵みを運び、災いを運び


何人も近づけさせぬ風の力よ


そなたらの力をわしに貸し与えよ


わしに平伏せよ


わしは原初の王!風の王!


今ここに!すべてを拒絶する力をもって!


わしにあだなす者を消しとばそう!」



「異界の門よ、異界の扉よ


こことは異なる理を持つ世界よ


われの呼びかけに応え


扉を開けよ


異界の雷雲、異界の雷


すべての光を集結させし者よ


われの元に集結し、われの声を聞き入れよ


われは雷炎の使い、雷帝の使者


すべての雷の声を聞く者なり


われの声に力を授けよ!」



「紫電!!招来!!」


「ヴァンヴェントアネモス!!」



 雷雲から紫色の雷がやつに降り注ぎ、その雷を纏った竜巻がやつを切り裂く。


「ゴォォォ!!」


 かなり効いているようだが、まだ倒れない。


「コハル!とどめはオレたちでさす!いくぞ!!」


「わかった!ピーちゃん!」

「ピー!」


 ピーちゃんが再度炎を吹き付け、コハルの双剣がさらに燃え上がる。


「ソフィア!3本よこせ!」


 神級魔法をつかっているソフィアに要求する。

 〈雷をよこせ〉という意味だ。


「はぁ!?死ぬわよ!?」


「キルクならいける!」


 オレはキルクを頭上にかかげて走り出した。


「あんた!死んだらコロスからね!」


 ソフィアの叫び声と同時に、

 バァーン!と頭上に紫電が降り注ぐ。


 それを剣で受け止めた。


「ぐっ!」


 すごい衝撃だ。でも耐えられる。そして身体に力が伝わっていく。


「まずは一本…」


 バァーン!


「ぐ、二本」


 バァーン!


「三本!!いくぞ!!」


 オレは竜巻の中を駆けていき、やつに接敵。

 ぎょろりと目が合う。


 しかし、おかまいなしにやつの首を斬りつけた。


 刃がめり込む。


 しかし決めきれない。


「コハル!」


「任せろ!いくぞー!!」


 オレの後ろからコハルが駆けてきて上段に構え、大きく飛び上がる。


 そして、その勢いを増すように回転しながら、やつの首を斬りつけた。


 オレも力いっぱい剣を握りしめる。


「ガァァァァ!!!」


 断末魔のような叫び声、それを聞きながら、どんどんめり込んでいく剣を振りぬいた。


 ドズンッ!!


 バリバリと帯電する剣をもつ男と、燃え盛る双剣を構える女が、

 そこには立っていた。


 やつの首は地面に転がった。


「た、たおした?」


 仲間の1人がそうつぶやく。


「ああ!あたいたちの勝利だ!」


「うぉぉぉぉぉ!!!」


 町が張り裂けんばかりの声が、町中の人たちが叫び声をあげていた。


 オレたちは仲間たちの元へ戻る。


「やったな」


 みんなで抱き合った。


「コハル、コハルがいなかったら勝てなかった」


「ボクの方こそ!ライがいなかったら!とっくに折れてた!ライ!」


「なんだ?」


「好きだ!」

 コハルに飛びつかれて、キスされた。


 周りからは、「ヒューヒュー」、「パチパチ」、と囃し立てられる。


「コハル、オレも大好きだ。オレの妻になってくれるか?」


「なる!でも!ボクは英雄にもなるよ!」


「ああ!オレもだ!2人でなろう!英雄に!」


「うん!!」


 こうして、デルシアを騒がせた大型モンスターとの戦いは幕を下ろした。


 最後は、全員で協力してやっと倒すことができた。


 オレたちパーティだけじゃダメだっただろう。


 逃げることはできても、倒すことはできなかったと思う。


 あいつを倒せたのは、ここにいる全員の力だ。


 たった一回だけど、一緒に戦ってくれた仲間たち。


 そんなオレたちの呼びかけに答えてくれたこいつら。


 こいつらの笑顔が今はすごくあったかくって、幸せな気持ちになれた。


 そういえば、これってあの本みたいだよな。


 オレは広場でワイワイと盛り上がる仲間たちの姿を見て、コハルから勧めてもらった〈英雄グリムの冒険〉のことを思い出していた。

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