第129話 嘘つきの末路

 オレたちが戦いの勝利に酔いしれていると、


「な、ななな、なにを盛り上がってやがる!オレのパーティを壊滅させた死神がぁー!」

 キースのやつがギルドの前に立ったまま、大きな声で騒ぎ出した。


 あぁ、こいつまだいたのか。殺すか?


「ボクのせいじゃない!おまえのせいだ!キース!」


 隣のコハルが強い眼差しでキースのことを指さす。オレたちパーティは、全員でそのコハルの横に並んだ。


 なにか言われてもオレたちが付いてる。コハルが言いたいことを言えばいい、そういう構えだった。


「なんだと!?」


「おまえがあのとき魔法で援護してれば!アークたちも!みんな助かったはずだ!なんで逃げた!」


「ふ!ふざけんな!オレは逃げてねえ!おまえだ!おまえのせいで壊滅したんだ!おまえが真っ先に逃げたからだ!!」


 ぎゃあぎゃあと、コハルのことを指さしながら、キースが騒ぎ続ける。


「この町を救った英雄がそんなことするか!」

「おまえはなにもしなかっただろうが!」

「引っ込め!臆病者!」


 町の人たちが助けてくれる。それはそうだろう。


 さっきまで必死になって戦って、最後のとどめまで刺したコハルをみんなが見ていたからだ。


 逆にキースのやつは文句しか垂れず、なにもやっていない。全員がそれを目撃していた。あいつの信頼は地に落ちたのだ。


「ピーちゃん、ピーちゃん」


「ピー?」

 こっそりとピーちゃんを呼び寄せる。


「やっておしまいなさい」


「ピー!」


 ピーちゃんはオレの意図を察してくれたようで、勢いよくキースに向かって飛んでいった。


「ピー!!」


 そして、キースの薄い頭髪に向かって炎を吹きかけた。


「な!?なにしやがる!?ぎゃ!ぎゃあぁぁぁ!!!燃えて!オレの髪が!燃えてる!!」


 キースは地面をゴロゴロと這いずり回り、グネグネとブリッジしたりしながら必死に火を消そうとしていた。

 ほんとキモチわるい。そのまま燃え尽きてほしい。


「ピー♪」


「おぉよちよち、えらいえらい」


 戻ってきた毛玉様の頭を撫ででやる。


「ライ!ピーちゃんに変なことさせないで!ピーちゃんも正義の味方なんだから悪いことしちゃめ!」


「ピー?」


 コハルに怒られてしまった。子どもの教育方針で揉めそうである。

 イイじゃんこれくらい、ちょっとしたイタズラだし、そう思ってしまう。


 そんなことを考えていると、


「どれ、本性を見せてもらおうかのう」


 オレの影に隠れたティナがそんな言葉を発した。下を見ると、ニンマリと悪い笑みを浮かべている。


 ティナがキースの方に手をかざす。


「くそ!くそ!!ふ!ふざけるな!クソ鳥が!!ぶっ殺してやる!おまえらもだ!!愚民ども!!このキース様をなめやがって!」


 頭の炎を消し終えたキースが立ち上がって、その場にいる全員に対して怒りを露わにし出した。なんか、目が座っている。


「そうだ!!アークのやつも!シルビアのやつも!オレを舐めやがって!アークが死ねば!シルビアはオレの女になるはずだった!

 だから危険なモンスターを誘き寄せる魔道具まで使ったのに!なのに!あのバカ女も死にやがって!

 くそー!!あ”あ”ーーーー!!!!」


 なんだか、すごい勢いで発狂しだして、堰を切ったように勝手に自白した。


「……ティナ、なにしたの?」


「なぁに、ちょっと闇の精霊に力を借りただけじゃ、くく」

 クスクスと笑うエルフちゃん。


 こ、この人は怒らせない方が良さそうだ…


「ティナ…ありがとう」

 コハルが涙を溜めてティナの手を握る。


「な、なんじゃ、当然のことじゃろう?仲間じゃからな?」

 ティナは恥ずかしそうにポリポリと頬をかく。


 キースのゴミは、ギルドの職員と警備隊に取り押さえられ、連れていかれた。

 ずっとぎゃあぎゃあ騒ぎながら暴れている。まじで死ねばいいのに。


 そんなどうでもいいやつの末路を見届けた後、みんなで話して、そろそろ宿に戻ろう、という話になったころ、


「ピー?…ピ〜…」


 ピーちゃんが眠そうにあくびをしてから、炎の形に姿を変えて、コハルの双剣に吸い込まれていった。


「ぴ、ピーちゃん!?」


 コハルは驚いていたが、オレにはそんな悪い現象のようには思えなかった。


「その剣はピーちゃんの分身みたいなものなのかな?眠そうにしてたし、ベッドに入ったみたいな感じなんじゃない?」


「そ、そうなのかな?」


「わからないけど、あくびしてたよね?起きたらまた出てくるんじゃないかな?」


「そ、それならいいけど」


「ピ〜…」

 そうだよ、という意図にしか思えない、眠そうな鳴き声が剣から聞こえてきた。


「ふふ、ほんとだね。よかった。これもライのおかげだね」


「そんな、オレはべつになにも」


「ううん、ピーちゃんの灰を拾ってくれたでしょ?

 ボクはなにもできなかった。ライはすごいし、カッコいいし、大好きだ」


「オレもコハルが大好きだよ」


 笑顔で見つめ合う。またキスしたいところだが、周りに見られているのでやめておいた。頭を撫で撫でして我慢する。


「あの!みなさん!今回のこと詳しく教えてもらえますか?」


 ルカロさんと何人かのギルドスタッフが駆けよってきた。


「もちろんです」


 そっか、宿に帰るのはしばらく後になりそうだな。


 そう思いながら、オレたちはギルドに向かい、事の顛末を説明することにした。

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